メディアを逃さない「リード」 プレスリリース、工夫の要点

『広報会議』では、「読まれるプレスリリースの書き方」について『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』の著者、野上英文氏に聞きました。
※本記事は『広報会議』2022年11月号(9月30日発売)の転載記事です。

コロナ禍でリモートワークが増え、「文章力」が改めて問われている。しかし、社会に出てから正しい書き方を教えてもらう機会はほとんどなく、苦手意識を持つビジネスパーソンも多いはず。野上氏は『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた戦略的ビジネス文書術』の中で、「文章を書くプロセス」「各プロセスで用いるフレームワーク」「ビジネスの現場に即した豊富な添削事例」を軸に、文章を書くロジック(論理の道筋)を示している。ユニークなのは、「タイトル」と「リード」(導入文)の解説が全414ページの半分を占めていること。忙しく、情報が溢れた時代に、文章が読まれるか否かはこの2つの要素で決まる。時間にして、わずか3秒。考える前に目で見て理解できる速さと、文章全体の9割を要約した内容が求められているのだ。

『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』
野上英文/著 BOW BOOKS

タイトルとリードのつくり方

「まず、タイトルは必ず最初に仮置きしましょう。リードと本文の方向性を左右するためです。実際にタイトルを付けるときは、次の3大ルールが重要です。1つ目は、何の話題かをひと言で表し、前提を伝えること。2つ目は、最も大事なニュースに絞り、話題性を加えること。3つ目が、パッと見て話の筋が分かる短さに整えること。このためには頻出キーワードを書き出したり、最もインパクトの強い出来事や言葉を抜き出したりする作業が有効です」。

タイトルを見た読み手は、前提を欠いていれば「何の話?」と、話題性がなければ「それで?」と心の中で呟くだろう。そうなれば、届けたかった文章は読まれる機会を失ってしまう。また著者が膨大な数のタイトルを分析した結果、目を引くための7つの“小技”も発見し、同書で解説している。「特に、プレスリリースなどを用いてテレビ露出を狙う場合は、キャッチーさが問われます。そこで小技のうち、季節感や業界のトレンドを取り入れた『即時性・ライブ感』と、エンタメに落とし込みやすい『疑問・投げかけ』を重視すると良いでしょう」。

タイトルに続くリードも同様に重要だ。読み手が「時間を使ってこの先も読むべきか」という最後の判断を下すリードには、タイトルの内容をかみ砕きながら、本文を要約する役割が求められる。書き方は、2つの文章で結論に結論を重ねる「二段論法」が有効だ。さらに、その2文の関係性は、「and(順接)」「but(逆説)」「because(理由説明)」のいずれかでシンプルに書き始めるべきだ、と筆者は述べる。

リリースの採用率も向上

ただ、プレスリリースのメディア採用率を上げるために、工夫できる点はまだある。「リードに、業界全体の動きやトレンドまで盛り込むとメディアとしては取り上げやすいですね。1つの商品やサービス、事業についてのみだと信憑性に乏しく、追加取材も要るためです。またメディアに合わせてタイトルとリードを書き換えるだけでも、採用率は上がるはず。本書で『3A分析』と呼ぶ、読み手・期待する行動・空気感を分析することで、媒体の特性やターゲット、トーンを理解し、量産型のリリースから一歩抜き出ることが重要です」。
 大前提として、これらの文章術は中身があって初めて機能する。書き進めているうちに、「何か足りない」と感じた場合には、社内外を含めたリサーチやインタビューに立ち返るべき時もある。タイトルにふさわしい前提と話題性を発見することが、良いリリースを作るための第一歩となるだろう。

PROFILE

野上英文(のがみ・ひでふみ)
朝日新間記者。MIT(マサチューセッツ工科大学)経営大学院MBA。News Picksトピックスオーナー。

1980年、兵庫県生まれ。朝日新聞社で大阪社会部、経済部、ハーバード大学客員研究員などを経てジャカルタ支局長をつとめる。そのかたわら文章講座を主宰。40歳を機にMITに私費留学してMBAを取得した。共著に『プロメテウスの罠4』『証拠改竄』など多数。

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