犬の演技は奥が深い!『南極物語』のトレーナーも登場(犬童一心・宮忠臣)【前編】

「今、こういう映画が見たかった」

中村:そして、いよいよ8月19日から公開される映画『ハウ』ですが。こちら、改めまして犬童監督からどんなストーリーになっているのか教えていただけますでしょうか?

犬童:映画のストーリーっていうのは、7行ぐらいで簡単に説明できないといけないってよく言われるんですよ。でも、なかなかそれができないんですね。

一同:(笑)。

中村:その7行を待っていたのに!(笑)

犬童:田中圭さん扮する“民夫”というちょっと気の弱い青年が、フラれてしまって結婚直前でダメになってしまうんですね。落ち込んでいる時に上司から「保護犬を預かってくれ」と言われ、犬を預かるところから物語が始まるんですけど。タイトルが『ハウ』というのは、声帯切除を受けた犬なので、鳴いた時にかすれ声で「ハウ」っていう声しか出せない犬なんですね。最初は、犬を飼ったことがなかったのでとても大変な思いをするんですけど、 だんだん気持ちが通じ合ってきて、ハウはいつしかなくてはならない存在になっていく。そうして、幸せの絶頂になった時に……。ここから先は、言っていいんですかね?

澤本:どうでしょう?

一同:あはははは!

犬童:そうなった時に、あることが起きてハウの800kmにおよぶ「民夫に会うための旅」が始まるんですね。民夫の方は、ハウが亡くなったと思っていて、ペットロスになってしまう。そのペットロスから立ち上がっていくひとりの気の弱い青年と、「もう一度民夫に会いたい」と思っているハウの姿が交互に描かれていきます。それで、ラストがどうなるのかというのは……。宣伝部の人に怒られるので、言えません。

一同:ははははは!

中村:ありがとうございます。これ、改めて澤本・権八の両氏はご覧になりましたか?

澤本:もちろん観ました。 たまに夏って「動物の映画が見たいな」っていう気持ちが湧き起こるんですけど。見終わって「あ、僕いま見たかったんだな」っていう感じでしたね。

中村:ああ~、わかる!権八さんはどうですか?

権八:いま、澤本さんが おっしゃったのを聞いて思うのは、めちゃめちゃハウがカワイイんですよ(笑)。ホントに瞳が純粋でね。

澤本:ああいう顔の人、いるもんね(笑)。

一同:(笑)。

権八:あの人間を信じるピュアさというか、そういうものに非常に心を動かされますよね。澤本さんが言うように「ああ、こういうのが見たかったんだな」というか、癒やされるというか。いや〜、ホントにすごいですよ、この子。本名は「ベック」ちゃんというのかな。

:ベックちゃんです。

権八:ベックちゃんの演技を見て、「こんなことできるんだ、犬って……」という。すごいですよね!

映画におけるドッグトレーナーの役割とは

澤本:宮さん、どうやってワンちゃんを指導するんですか?元々、彼には素質があったからこういうことができるんですか?

:そうですね、それなりに素質を持った犬じゃないと。やっぱり、どんな犬でもというわけにはいかないんですよね。ただ、今回のベックに関しては、2カ月半ぐらいの子犬から自分の手元に置いて育てた犬ですから。まだ、その時点じゃわからなかったですね。

権八:ええ~!?

:でも、たぶん大丈夫だろう、と。それはひとつの賭けだったんですけど。思っていたような、とてもいい犬になってくれましたね。

澤本:だってさ、ワンカット撮影で歩いている時に、止まったら一緒に止まって、また歩いたら歩いて、と。田中圭さんとの撮影でやっていましたよね?

権八:やってました。

澤本:そんなの、普通はできんわな、と思って。あれは、どうするんだ!?(笑)

権八:わからないです(笑)。いろんな素晴らしいシーンがたくさんあるんですけれども。あそこも良かったな……。長澤樹ちゃんが、心に傷を負った女子中学生役で。ダンスシーンがありましたよね?あれはすごかったですね。

犬童:あれは、長澤さんがベックくんのところにすごく通って。関係性をすごく築いて。仲良くなるのにすごい時間をかけているんですよ。でも、あのダンス自体は即興なんです。

権八:ええ!?(笑)

犬童:振付ではなく、即興のダンスの仕方を長澤さんに覚えてもらって。犬と踊る時にはあくまでも即興で踊る、というふうにしているから、逆にできるんですよね。ベックと長澤さんの間に関係性をつくって、即興で撮ろうと。それはあらかじめ計画していたことなんですね。

澤本:ほへ~!!

中村:あのダンスシーンは、長澤さんとベックが、あうんの呼吸で絡み合うダンスでしたよね?

犬童:あれは、長澤さんがベックを誘導しているんですよ。どのタイミングでどう誘導するかは、彼女が判断して僕たちが撮る、という感じですね。

澤本:すごい犬であり、すごい人ですね……。

犬童:宮さんが犬を選ぶ時、「性格がいい犬が一番だ」とおっしゃっていて。頭がいいよりも現場で心を開いている犬、というんですかね。そういう犬が来てくれるといいって言っていましたけど、ベックは本当にそういう犬でしたよね。

:そうでしたね。あのダンスのシーンは、僕らは手の出しようがないわけですね。彼女に任せたよ、と。「ベックとうまくやってくれ」と思って、そばで見ているしかなかったんですね。でも、終わった時に彼女に「良かったね」と言うぐらい、うまくやってくれたと思いますね。

一同:ほぉ~!!

権八:元々、予定していた犬がいたけれども、撮影が延びて、急遽子犬から。という事態になったんですよね?

:そうですね。犬種的には同じだったんですけど、一年延びて。最初の犬がちょっと歳だったもんですから、来年はどうなるかわからないわけですね。ですから、違う犬を用意しておいた方がいいんじゃないかということで、ベックを探してきて。

一同:へえ~!

中村:厳しい世界なんですね……。

犬童:外国映画だと不安だから、何匹も似たような犬を用意して撮影したりするんですよ。日本でも、CM撮影だと3匹呼んでおいたりするじゃないですか、危ないから(笑)。でも、宮さんはベックに賭けるんですよね。

一同:ああ~!

犬童:代わりの同じ犬種が、現場にはいないんですよ。だから、僕たちはずっとベックと付き合うわけです。もう「ベックと、おれ」という感じで、他はナシ。だから、ベックとの関係をどれだけ良くしていくかということですよね。あとは、ベックにもちゃんと気を使うんですよ。宮さんが「もう無理だ」と言ったら素直にそう思えるんです。説得力があるんですよね。この人が現場に来てですよ?「監督、もう無理だね」って言われたら、「無理ってことはないでしょう?」って言える人は、なかなかいないんですよ。

一同:あはははは!

犬童:猫の作品もいっぱい撮ってきたんですけど、動物であることを無視して撮っていると、現場が良くなくなっていくんですよね。動物に無理をさせながら毎日を過ごしていると、殺伐としていくというか。だから、映画やドラマで動物を扱う時は、「キッパリやめる」というのがある種のコツなんですよね。「もう、ここまでだな」っていう諦めが必要ですね。

次ページ 「台本の「無理難題」の乗り越え方」へ続く

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