台本の「無理難題」の乗り越え方
澤本:僕が動物ものの脚本を書く時って、どこまでやれるかわからないけど、とりあえず書いちゃうんですよ。
権八:なるほど!
澤本:例えば、「2、3歩行って振り返り、こっちを向いて笑う」とか書いておきながら、「こんなの、犬にできるのかな?」って思いますけど。どういうところで、いけるかどうかを判断されるんですか?
宮:いや~、僕は台本をもらってまずは読んでみて。「これはもう、やってみるしかないな」と。大体いつもそんな感じですね。そもそも、現場で監督がどういう撮り方をするのかもわからないですしね。でも、今までの撮影で、いろんな場所でいろんな経験をしてきていますから。「こういう時には、こういう方法」という蓄積の中でどうにかやっていく。それ以外には方法がないんですよね。
澤本:なるほど〜。
宮:基礎訓練さえキチンとできていれば、今言ったような「止まってから、振り返る」というのは、そんなに難しいことじゃないですね。
澤本:すげ~な~!(笑)
宮:基礎ができていない犬には、それができないんですよ。
犬童:基礎ができていると、どれだけできるのか僕もわかってくるので、まずは基礎でできる範囲のコンテを描いちゃうんですね。でも、ワンカットだと撮影が本当に難しいシーンがあるんですね。でも、それをたまに入れるのが、コツなんですよ。
一同:ほぉ~!!
犬童:コンテでまかなえるもので全てを組み立てていくと、システマティックになりすぎてしまう。ところが、たまにできるかどうかもわからない“賭けに出るカット”を用意しておくと、全体が自然に見えてくるんです。ただ、それを撮る時が一番緊張しているんですけどね……(笑)。そういう時には、宮さんや助監督と集まって「どうやったら、これをワンカットで撮れるか?」について考えないといけない。時間がないのはもちろんだけど、やっぱり賭けに出ないとダメなんですよね。そういう要素を随所にミックスしていくというか。
中村:犬童監督は、基本的に各カットを絵コンテに落としていくんですか?
犬童:犬が出ていなくても、僕は必ずコンテを用意するんですけども。でも、犬が出てくるなら、絶対にコンテがないと成立しないんですよ。
一同:へえ~。
犬童:その場で「どうする?」みたいな話になってしまうと、相手は人間ではないので。最低限、こうやって撮れば成立する、というコンテがあってやるんですけどね。ただ、それがシステマティックに見えてしまわないように頑張るんです。そういう時は、宮さんと相談するんですけど、お互いに複雑な考えが渦巻いている、というね……(笑)。でも、そこはみんなで頑張ってやりきる、みたいな。
権八:どのシーンが「賭けに出たシーン」なんだろう……?(笑)
犬童:一見、何でもなさそうに見えるんですけど、色々あるんですよ。
権八:本当に、全てが自然に見えてしまったんですよ。きっと、そういう「賭け」が所々にあるからなんでしょうね。
実は、宮さんがハウに台本を読み聞かせていた?
犬童:僕が撮っていても、ベックの表情までがシーンに合っている場面がすごくあるんですね。
権八:はいはい!それは、いっぱいありましたね。
犬童:だから、「宮さんが、前の日にベックに台本を読んで聞かせているらしい」という説が流れたんですよ。
一同:ははははは!
犬童:宮さんの準備は、どういう感じなんですか?シーンの「情緒に対する準備」というのは。
宮:まあ、僕はね……。一本の作品の中には、必ず「いや~、これはまいったな~!!」という注文やシーンがあるんですよね。ですから、それをなるべく自分の表情に出さないようにする。「ベック、今から遊びに行くんだよ!」っていう軽い気持ちでやらないといけないんですね。それを、深刻な顔で「まいったな~、どうしようかな……」って出してしまうと、犬はそれを全部読み取るんですよ。
中村:へえ~!
宮:すごい敏感なんですよね。だから、そういうのを悟られないように、なるべく平常心を心がけますよね。僕は、どうしても顔や目に出ちゃう方なので、難しいんですけどね……。でも、なるべくそういったことをベックに読み取られないようにしてますね。例えば、腕をかんで引っ張るようなシリアスなシーンも、「さあ、かんで引っ張りっこして遊ぼう」という気持ちでやっていかないといけない。大変だけど、それぐらいの気持ちでやらないと、犬に読み取られちゃうんですよね。
澤本:僕は、そのシーンもすごいなぁ、と思って見ていたんですけど。「あれ、どこにヒモついてるんだろう?」と思ってずっと見ていました。「え〜、ヒモついてないよ!」と思って(笑)。
権八:やめなさいよ!(笑)
一同:ははははは!
〈END〉後編に続く