国内外のD2C の現状は?
廣田:僕は欧米系のトレンドをリサーチして企業の商品企画などをサポートするHenge という会社をやっています。D2Cという手法を改めて振り返ると、一義的にはメーカーがデジタルを活用して直接お客さまに商品を届けられる手段が生まれた、ということ。経緯としては、大企業の隙間を縫って出てきた、という面もありました。大企業では店舗や従業員を多く抱えるためにコストがかかりますが、D2C はそのコストを原価に回すことができます。また海外では、レッド・アントラーのようなD2Cに特化したエージェンシーが出てきており、クリエイティブブティックやエージェンシーが、スタートアップのプロダクトの戦略、資金調達まで面倒を見てくれるような環境が整ってきました。
伊藤:僕はD2C ブランドが出店するOMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA」を昨年9月に渋谷にオープンし、そのディレクターをしています。立ち上げた背景は、デジタルでの物販を進めた先で「Web 広告の高止まりに行き当たる」と考えたためです。なんだかんだオフラインのほうがCPA が安い、という声もあり、であれば、と簡単にオフラインに出品できるサービスを企画しました。D2C ブランドがオフラインでの接点を設ける際にはPOPUPという手法もありますが、実際はアルバイトのスタッフが接客をすることも多く、ブランドオーナーの想いを届けるという面からは最適ではないなと感じたことも。そのためCHOOSEBASEではブランドの魅力を純度100%でお伝えできるようにオリジナルのWebカタログを作成。スマホ上でお客さまご自身が自分のペースで商品やブランドの情報を確認できるようにしました。
武田:僕は応援購入のプラットフォームを展開するマクアケでセールス局のマネージャーをやっていて、キュレーターとしてさまざまなプロジェクトをサポートしてきました。そのため伊藤さんがおっしゃる「D2Cが規模の拡大を求めるとCPAの壁にぶつかる」というのは実感していますし、CHOOSEBASE の取り組みは面白いなと思っていました。オーナーの想いを伝えるという点で言うと、Makuakeでは1 枚のページに、企画の経緯や意図を書き込んでもらっています。これが創業者の想いを伝える場になっており、手離れよく共感を生む、というところで使っていただいているのかなと思いますね。
廣田:Makuakeさんのような、資金調達のリスクを軽減し、プロモーションと販売ができる場や、Shopify のようなノーコードでECサイトをつくれる夢のような環境が整ってきたことで、D2Cの参入障壁はこの数年でかなり下がりましたよね。国内外で多様なブランドが出てきているわけですが、一方で、日本のD2Cブランドは、どこをゴールにすればいいかわからない、という課題がある気がします。アメリカでは大企業にバイアウトするか、上場のゴールを描くことが多いですが、日本はそこがぼんやりしていて。途中で手段の目的化が起こりがちで、成長指標をどこに置けばいいかが曖昧な事業になりがちなのかなと。
武田:スケールしようと思うとD2Cらしさが失われてしまうジレンマもありますよね。Makuakeでは2020 年のコロナ禍から、OEMや下請けの企業が自社プロダクトを立ち上げるケースが激増しましたねOEMで靴をつくっていた企業が自社ブランドを立ち上げたり、調理器具を製造して卸を通して販売をしていた会社がコロナ禍を機に直販を始めたり。コロナ禍で流通の分断が起こる中で、バイアウトや上場のためではなく、手段として用いられているケースを多く観察しています。
伊藤:なるほど。当社のCHOOSEBASEでいうと、新たなブランドを立ち上げる場合に、ブランディングのために既存の商品とは異なるチャネルで展開したい、というニーズを聞きますね。普段はドラッグストアに卸している企業でも、特定のブランドだけ流通経路を絞ることでより希少価値を上げ、特定のセグメントにアプローチしたい、と。大企業の中での新規事業としてD2C的なアプローチも増えてきていたりと、世の中の潮流とタイミングが良かったなと感じています。
当事者性、ユニークさがあるものに人は惹きつけられる
廣田:もう少し具体的なブランドで考えていくと、最近の欧米のD2C ブランドでは、企業側の当事者性やソーシャルイシューが先立つものが支持を得ていますよね。たとえば、大坂なおみ選手がビューティブランド「KINLÒ」を立ち上げました。プロダクトの機能性だけでなく、黒人女性であるという当事者性、つまり事業主や経営者の顔が見えるところの透明性が高くて、そこがブランドプロミスを表現する上で力を持っています。大企業だと広告宣伝で補っていたところを経営者の当事者性でブランドのプロミスをつくれるところがあるのかなと。
伊藤:なるほど。
廣田:他にも、アメリカの社会の人口構成比においては25 歳以下の人々の約4分の1が「Latinx(ラティネックス)」と呼ばれるラテン系の人たちなのですが、彼らが自分たち向けのヘアケア、カルチャーを掲げるブランドが無いと感じたところから、多数のブランドが出てきたりして。日本だとそういう形での課題意識からモノが売れるような環境は無いですよね。そういう背景もあって、日本だと自分らしいもの、ニッチなものが好まれている気がします。あとはファンエコノミー、ファンダムが強くて、推しのものを買う文化がありますよね。
伊藤:たしかに、日本ではP2C(Person toConsumer)と言われるインフルエンサー起点のブランドの方が、最初の立ち上がりも強いと感じますよね。
武田:Makuakeでもキャンプ芸人さんがプロデュースした商品だと、SNSのフォロワー数などから購入金額などの見通しが立ちやすいというのはありますね。
廣田:でも、P2Cも難しい面があって。それは画一化です。日本の場合、ビューティ領域のR&D でしっかりとした研究機能が工場にあるところは大手で5カ所ぐらいしかありません。薬、美容系の領域では結局、大企業の基盤に頼らざるを得ず、またコモディティ化が進んでしまって。
武田:そうですよね。それはデザイン面でも感じていて。2019~20年頃に、Makuakeでも見栄えを綺麗に整えたD2Cブランドが多数出てきたんです。一時期はよく支持されたのですが、似たようなものが増え、逆に一つひとつのプロジェクトへの支持は下がってしまったように感じていました。それを見て結局は「モノが良いかどうか」が重要、というところに立ち返ってきたんじゃないかなと思ったんです。
伊藤:見栄えというのは、どういう?
武田:感覚ですが、プロジェクトのページを見た瞬間に「マーケターが論理的につくったな」と感じられてしまうというか。整えることは差別化として重要ですが、でもそうしたものが必ず売れるかというと、そうとも言えない。逆に思いをまっすぐに伝えている生っぽいページでも、売れる場合は多いんです。
伊藤:確かにCHOOSEBASE でも、ユニークさというベネフィットがあるブランドさんの方が実は売れている気がします。そのユニークさのところにブランドオーナー、創業者の方のパーパスがのっていると、他が簡単にコピペできないので、変な競争にもなりにくかったりするんですよね。
(――この続きは月刊『ブレーン』2022年11月号 に掲載しています)。
本記事のこの後のトピック
・マーケットイン型からプロダクトアウト型へ
・重視すべきは「ブランドプロミスを維持できるか」
・今後は“自分たちでつくれる”人が参入?
・あとは「何をやるか」「なぜやるか」だけ。
月刊『ブレーン』2022年11月号
【特集】
成功するD2Cブランド
クリエイティブと
差別化戦略
・Greenspoon「GREEN SPOON」
・三省製薬「IROIKU」
・サッポロビール「HOPPIN’ GARAGE」
・グッドイートカンパニー「HOLON」
・CARTA COMMUNICATIONS「HAUT」
・アバランチ「No.38」
・〔座談会〕
民主化するD2C
問われるのは「なぜやるか」
―伊藤謙太郎(そごう・西武)
―武田康平(マクアケ)
―廣田周作(Henge)
【第10回BOVA】
課題発表
【SPECIAL】
・BRAINクリエイティブパートナーズ
【青山デザイン会議】
・「アイデアとツールの交差点」
「次世代教育とクリエイターの力」
石川将也×佐藤蕗×利根川裕太
【PICK UP】
・有明アリーナ「夜明けろ。」
・カオナビ「すべての才能が、カオを出す。」
ほか