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コピーライターの視点を広げる本
僕はここ数年続けて、宣伝会議賞の審査評でカンヌ国際映画祭の「ある視点賞」を引用しています。「ある視点賞」は新たな才能の発掘を目的に創設された、実質的に新人賞に相当する部門ですが、その名称に「視点」という言葉が使われているのは大きな意味があると考えています。「才能」や「クリエイティビティ」はさまざまな定義が可能とはいえ、少なくともカンヌ国際映画祭は「視点」、もしくは「確かな視点」であると認識しているわけです。映画とコピーの違いはあっても、新たな才能は新たな視点とともに現れる。これが宣伝会議賞の審査評で僕が「ある視点賞」を引用する理由です。
そして、視点の持ち方は習練によって会得できることを教えてくれるのが1947年に出版されたレーモン・クノーの『文体練習』。これは、他愛のないひとつの出来事を99通りの異なる文体で書き分けた本。奇書といえば奇書ですが、「人称を変える」「時制を変える」などの単純な文体から「新刊書の紹介形式」「幾何学の設問形式」といった奇想天外な文体まで多様に書き分けられ、その発想の豊かさには驚きを超えて感動さえ覚えます。日常生活のあらゆる事物はつねに無限の視点で語ることができる、というのがこの本の意図するところですが、それはきっとコピーの書き方にも通底している。賞に挑む方はぜひあらゆる視点で課題を見つめ、独自の表現を見つけてほしいと思います。
コピーライターの領域を広げる本
僕は今、企業理念やブランドパーパスなどの策定に携わることが多いのですが、その領域ではまだまだライティングのスキルが不足していると感じています。紋切り型でお題目のような言葉が理念やパーパスとして掲げられている例がじつに多いのです。
小霜和也さんはマス広告のコピーライターから出発し、後年はマスとデジタルを統合するクリエイティブディレクターの先駆者として数々のキャンペーンを手掛けました。そのキャリアで得た知見を『ここらで広告コピーの本当の話をします。 』『急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。 』という二冊の本にまとめ、さらに『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』という本を執筆しています。
書名に「マーケティング」と入っているものの、実質的には小霜さんが「経営」について語ったもので、本の中では経営に関わる課題として、企業理念やブランドビジョンの重要さを説いています。小霜さんは職域の拡張にもっとも意欲的なコピーライターのひとりだったと思いますが、宣伝会議賞でコピーのスキルを磨いたら、ライティングの領域を徐々に広げていってほしいとこれからのコピーライターに期待します。
蛭田瑞穂
writing style inc. コピーライター/クリエイティブ・ディレクター。サン・アド、電通を経て、2017年ライティングスタイルを設立。企業理念、ブランドパーパスのライティングやクリエイティブディレクションの他、企業のクリエイティブアドバイザーを務める。主な受賞歴にTCC新人賞、OCCグランプリ、朝日広告賞、日経広告賞、ギャラクシー賞グランプリ等。
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