スマホではなくPCでできること
インテルは2022年3月22日、クリエイターを支援するプロジェクト「インテル Blue Carpet Project(BCP)」を開始した。パソコン(PC)メーカーやマザーボードメーカー19社のほか、カメラや周辺機器、ソフトウエア、学校法人、制作会社まで52社が参画する。クリエイターにインテル製CPUを搭載した最新のWindows PCを提供し、創作活動に生かしてもらおうという考えだ。
しかし、いまなぜクリエイター支援なのか。背景のひとつは市場の変化がある。2022年4〜7月のスマートフォン国内出荷台数は368.5万台で前年同期比10.9%増。PCは同期間で12.5%減の370.1万台。数としてはわずかに上回るが、ノートPCに限れば同比14.8%減の306.2万台と、スマホに水を開けられている。ノートPCではアップルがMacでインテル製CPUから、自社製に切り替えたことも大きな変化となった。
「デジタルデバイスと言えば、PCではなくスマホというトレンド。PCがこれまで以上に手に取ってもらえるよう、魅力的に映る施策が必要」と話すのは、インテル マーケティング本部 本部長の上野晶子氏だ。
「メーカーの皆さんと改めて、PCにできてスマホにできないことという基本から考え直しました。たどり着いたのが、ひとつはゲーミング、もうひとつは創作活動でした。動画制作やCG、音楽など、高い負荷がかかる作業などでもストレスなく、高いクオリティを目指すことができるということです」
それを実証するのが、「BCP」参画のクリエイターたちだ。「ほんのわずかな期間、Windows PCを使ってもらって、何かオススメのコメントをSNSに投稿してもらって、短期的な盛り上がりを作る……といったことだけはやめよう、と当初から考えていました」と話す上野氏。
「長期間、活用していただきながら使い心地や必要なスペックなどを継続してヒアリングしていくことが前提です。私たちが重視しているのは、インテルのCPUを搭載したPCで、作品がどう良くなっていったのか、を知ること。そして、クリエイターの方々が、これまで以上に良い作品を世に出せるよう、サポートすることです。一部の方の使用状況は、CPUの設計レベルからの最適化にも生かす計画です。次の次の世代くらいには、クリエイティブにかかわるソフトウエアに最適化したCPUを上市できればと考えています」
「日本のコンテンツ力、IPの質というのは世界に誇れるものだと考えている」と上野氏。
「コンテンツやIPの制作者であるクリエイターにも、もっと光を当てていきたいのです。インテルとしては、日本のトップのクリエイターが日本だけにとどまらず、世界でも活躍できるよう応援し、そして、彼ら・彼女らの背中を追って研鑽に励む若者たちをどんどん育成して、日本のコンテンツ業界を活性化する一助に、BCPがなればと思います」
丁寧に作ればニッチでも広く伝わる
「インテル Blue Carpet Project」参画クリエイターとして、第一弾となったインテル Evo プラットフォームのプロモーション作品を送り出したのが、8人組ブレイクダンスグループ「REAL AKIBA BOYZ(RAB)」だ。
RABは、いわゆる「オタク」であり、かつブレイクダンサーであるというユニークさを持つグループ。2007年に動画投稿サイト「ニコニコ動画」に、アニメのオープニング曲に合わせたダンス(“本業”)と、ブレイクダンスという言葉から想像されるキレのあるダンスバトルの模様(“副業”)が数時間差で投稿され、そのギャップでユーザーを驚かせた。
当時、こうしたダンスを投稿する動画、いわゆる「踊ってみた」というジャンルはなく、RABが草分けとされる。今回、制作したのは、その「踊ってみた」動画を、鬼ごっこをしながら編集するという企画の動画。「インテル Evo プラットフォーム」を搭載したノートPCを携帯し、ハンター役のメンバーと、ハンターから逃げながら、「踊ってみた」動画を編集するメンバーに分かれ、動画を撮影した。
「インテル Evo プラットフォーム」は、インテルとPCメーカーが策定する基準で、認定されるには、インテル製の高機能プロセッサーを搭載していることはもちろん、スリープ状態から1秒未満で起動できる、10時間連続使用可能、30分間の急速充電で4時間稼働、薄型軽量であることといった条件をクリアする必要がある。動画では「逃走しながら動画を編集する」ことを通じ、「インテル Evo プラットフォーム」のパフォーマンスを実証した。
動画に出演したRABのメンバー、とぅーしさんは、「最も実感したのは軽さとスペックの高さ。持っている感覚としては携帯ゲーム機やスマホ、タブレット端末の感覚でした。その分、スペックが落ちるかと思いましたが、むしろ僕がふだん使っているPCよりも性能が高いんじゃないかと感じるくらいでした」と話す。
同じくメンバーの涼宮あつきさんも「たまに持っていることを忘れるくらい」、マロンさんも「実際に試してみて、充電がとても早いのでストレスがありませんでした」と口を揃える。
実際のところ、YouTubeなどに投稿する動画の編集にPCは必要なのか――。最近はスマートフォンでも編集は可能だ。忖度なく聞かせてほしいと尋ねると、「僕の知り合いの動画クリエイターもスマホで編集している人が出てきているのは確かです。ただ、やっぱりPCのほうが優秀というか、質の高いものが作れます」と涼宮さんは答える。
「持ち運びの面からするとスマホに軍配があがるとは思います。僕も正直、スマホ利用を本格的に考えてもいいのかもしれないと正直思っていました。ですが、『インテル Evo プラットフォームのPCを使わせていただいて、『これならどこでも、自宅のパソコンで編集する感覚で使えるな』と、強く実感しました。外での撮影が多いのですが、ちょっとした空き時間に、1時間でも、30分でも編集できればな、と思うことは少なくないです」(涼宮さん)
すきまを縫って編集したい。そのモチベーションはどこから来るのか。マロンさんは「僕らで言うと、ダンスは自己表現なんですが、編集も表現のひとつで。いくらでもこだわりたいし、こだわれちゃう。ちょっとずつ、締め切りギリギリまで」と話す。とぅーしさんも「ここはサウンドエフェクトやっぱりあったほうがいいか、とか。スマホでの編集だと、画質や音質は下がるし、テロップのタイミングはずれるし、どうしてもクオリティとしては満足いった、とは言いづらい」と言葉をつなぐ。
「いままでの経験で言うと、丁寧にクオリティ高く作ったものは、やっぱり多くの人が見てくれる。僕らって、アニメソングでブレイクダンスを踊るという、ある意味ニッチというか、言ってしまえばオタクの身内ネタですよね。ダンス動画も最初は、親しい人たちが面白がってくれればいいと思ってたんです。だけれど、自分たちがやっていることを丁寧に伝えると、身内ネタでも世の中に広がっていって、いまやYouTubeでは50万人が見てくれるようになったので」(涼宮さん)
「身内ネタではあるけれど、僕は、メンバーの良さを知ってほしいと思いながら編集しています。アニソンでブレイクダンスしていて、世界大会で1位を獲ったメンバーもいて。必ずしも見てくださる方全員が、すぐにわかることではない、変な話、ちょっとわかりづらさもある中で、見てもらえるのって人柄の部分も大きいのではないかと。この人が見たい、って思ってもらえるようにするのも、編集時に気をつけていることではあります」(マロンさん)
小学生や中学生の、「将来なりたい職業ランキング」の上位に、「YouTuberや動画投稿者」が挙がるようになった。YouTubeに限らず、InstagramやTikTok、twitchなど、発表の場、規模は拡大を続けている。インフルエンサーマーケティング関連の米ネオリーチと、インフルエンサーマーケティングハブの調査では、2021年時点で、これらのSNSなどで収益化を果たしている広義のクリエイターの市場規模は、世界で1042億ドルに達しているという。その分、プレーヤーが増えれば競争も激化する。表現の場でどう戦っていくか。
「クリエイトが好きな人は世界にゴマンといるわけですが、相応に飛び込む覚悟がいると思います。僕もまだRABに加入して3年ほどですが、それは強く思いますね」と、とぅーしさん。マロンさんも、「僕らより著名なYouTuberの方々、自分で編集している人が少なくないのは、自分をいかに輝かせるか、という努力の一環だからではないかと思います。僕らにとってのダンスのように、好きなことであれば、磨く努力も楽しい。いまの子も必ずしもYouTuberではなくて、磨く努力の楽しさを知ってもらいたいです」と話す。
「素人でもそれなりのものが簡単につくれる環境で、その先に行こうとするとセンスの問題が出てくると思います。僕は、センスは無理やり磨くものではなくて、気づいたらやっているようなことがセンスにつながるのではないかと考えています。自分はダンスを職業にしようと思っていなかったですし、YouTuberになろうと思っていたわけでもありませんでした。ダンスに出会って、気づいたらやっていて、いろんな人に見てもらいたいと思って表現する場としてニコニコ動画とかYouTubeがあって、結果としていまがある、という感覚です。そうやって好きなことを表現できる世の中になっている、と思います」(涼宮さん)
家電量販店とも連携を強化
「BCP」では、RAB以降もクリエイターが作品を発表していく予定だ。さらには、家電量販店とも交渉を進めている。カメラや周辺機器メーカーとクリエイターの目的に合わせた売り場提案ができないかを模索中だ。
たとえば動画投稿なら、ビデオカメラやマイクの売り場に向かう来店者とパソコンの売り場に向かう人とに分かれる。そうして接客のさなかで、「パソコンは何を使っているか」あるいは、持っているか、といった質問や案内が行われる。パソコン売り場でも、「カメラはどうしますか、録音は」というやり取りが生じる。
上野氏が課題視するのは、こうしたロス、分断だ。家電量販店とパートナーシップを結ぶことで、来店者がつくりたいものに合わせて、必要な機材を一式提案できるようにする環境を早期に整える考えがある。
「“Do Something Wonderful.” これはインテルの創業者の言葉なのですが、何か素敵なことをしましょう、という呼びかけを、エンドユーザー向けに発信していくことが、BCPの根底にある考えです。何か素敵なことを、PCで始めてみてほしい。そう言う以上、どうすればいいの、どうやって始めればいいの、という疑問にお応えするのも、責任のひとつだと思います。BCPのパートナーは今後も拡大して、より、創作環境を整備していきたいです」(上野氏)