※本記事は『広報会議』2022年12月号(11月1日発行)の転載記事です。
記念日プロモーションとは?
独自に制定した記念日を軸に、認知・誘客活動を行う取り組みを指す。民間団体による認定登録制度は約30年前からあるが、近年は毎年数百単位で増え続けており、自治体間でも広がっている。バレンタインやクリスマス同様に毎年巡ってくる商機を活かせるため、記念日が認知されれば高いPR効果が期待できる。
11月23日といえば勤労感謝の日だが、同日付は「ねぎらいの日」でもあることはご存じだろうか。埼玉県深谷市は、2018年から「ねぎらいの日」という記念日を軸とした市の認知と誘客活動に取り組んでいる。
2022年の活動は、地域イベントでの「ねぎ束」の配布や、地元の小学校での「児童とねぎ束をつくる出前授業」、熊谷市の「おふろcafé ハレニワの湯」とコラボした「ねぎ風呂」イベントをはじめ、多数実施するという。
「小学校への出前授業は2021年初めて開催しましたが好評をいただき、2022年も市内ほぼ全ての小学校で実施の予定です。授業は『ねぎらいの日について学び、実際にねぎ束とメッセージレターを作る』内容ですが、児童の皆さんには『抱えるほどの大きさのねぎ束を自分で作って持って帰る』新鮮さを楽しんでもらえたようです。また社会の授業の一環として、児童が地域のことを学ぶ機会にもなっています」。
花束ならぬ「ねぎ束」がキーに
そもそもなぜ、「ねぎらいの日」なのか。「もともと深谷は映画やドラマのロケが多く行われており、訪れた俳優の方に花束の代わりとして、名産の深谷ねぎを束ねて作った『ねぎ束』を渡していたんです。また民間による『深谷ねぎまつり』が人気を博していたので、『深谷ねぎを軸としたPRをしよう』と職員の中で意見が一致しました」(飯塚氏)。
深谷ねぎは年間を通して味わうことができるが、11月から翌年3月までの「冬ねぎ」は甘さが増して一段と美味しくなる。ちょうど旬の始めにある勤労感謝の日は、「ねぎらいの日」として掲げるのにもってこいの記念日だったのだ。
「コンセプトが決まった次は、『ねぎらいの言葉とともにねぎ束を贈る』新習慣を打ち出すことにしました。ねぎ束は『もらったときの嬉しさ』に加え食べることができるので、大切な人との思い出作りにぴったりかと思います」と飯塚氏。
そこで初年度の2018年、深谷市は「ねぎらいの日」の認知度を高めるために、芸能人を起用して記者発表を行った。このPRは、関根勤・麻里親子、アニマル浜口・京子親子、高橋英樹・真麻親子といった芸能人を迎え、「子から親へ、家族のねぎらい」をテーマに3年にわたって開催。回数を増すごとに反響が大きくなったという。「3回目の2020年には、テレビで5番組新聞・雑誌で43媒体、ウェブメディアでは343記事も取り上げていただきました。記者発表は東京都にある商業施設『ソラマチ』など都心で実施した結果、3年間で認知を向上させることができたと感じています」。
民間を巻き込んだ取り組み
深谷市のPRにおいて特徴的なのは、「外に向けて大きく開かれている」点だ。「ねぎらいの日」を「深谷ねぎの日」と断定せずに「ねぎの名産地ならどこでも」と賛同を募ったことで、秋田県能代市でもイベントが開催されるなど、同記念日の定着がさらに加速した。また飯塚氏は「深谷市のイメージキャラクターである『ふっかちゃん』デザインのシールやポスターなどを『ねぎらいの日』に向けて作成し、スーパーや飲食店なども自由にダウンロードして使えるように気を配っています」とこだわりを語る。このようにホスピタリティを高めたことで、道の駅おかべの「深谷ねぎグランプリ」をはじめ、ビジュアル的にも勢いあるイベントが民間主導で開催されている。
市の内外ともに順調に浸透してきている「ねぎらいの日」。さらなる深谷市のイメージアップを狙って、今後も様々なPRを推し進めていくと里見氏は述べる。「コロナ禍が始まってから市外でのPRが難しくなり、ここ最近は地元向けのイベントが多かったのですが、2022年の12月には『ふっかちゃん』とともに都内での深谷市のPRを予定しています。これからも地元はもちろん、市外にも強くアピールしていきたいと考えています」。
特に同市のイメージキャラクターである「ふっかちゃん」は市外でも高い人気を誇り、その存在を活かしたPRで相乗効果が期待できる。また同市は「ユリの切り花生産で全国1位である」特徴から、ふっかちゃんがユリとねぎ束を組み合わせた「ユリねぎ束」を渡すこともあり、深谷市を訪れるゲストに好評を博しているという。
「『ねぎらいの日』に関する一連のイベントは、深谷ねぎと一緒にすてきな習慣が広がっていったら、との想いから始めたものです。催しを通じて『深谷にねぎを食べに行ってみたい』『実際に行ってみたら良いところだったから、住みたいな』と思っていただけるように、深谷の魅力が伝わっていくと嬉しいですね」(飯塚氏)。
自治体のPR事例をさらに知りたい方へおすすめ
月刊『広報会議』では、これまでも地域自治体の広報担当者向けに、自治体のPR活動に活かせる記事を掲載しています。
2022年10月号(2022年9月1日発行)では、特集『地域・自治体の広報」にて、地域自治体のPR事例を6例掲載したほか、「自治体のウェブサイト実態レポート」として、181の地域自治体のサイト運営の工夫や課題を聞き、取りまとめました。
地方創生や地域の課題解決を目的としたPR活動を行う際に、参考になる情報が満載の内容ですので、ぜひ参照ください。
広報会議2022年10月号
【特集1】
各地の成功事例を解析
地域・自治体の広報
CASE1 広島県福山市
官民連携でWin-Winのニュース発信
バットマンの「ゴッサム・シティ」と友好都市に
CASE2 鳥取県
「サウナ×ツーリズム」認知拡大の起点に
国立公園のフィンランドサウナや熱波師の移住
CASE3 北海道河西郡更別村
「スーパービレッジ構想」実現のキーは村民の理解
広報誌や防災無線ほか地道な周知が重要に
CASE4 静岡県賀茂郡西伊豆町
電子地域通貨の普及率ほぼ100%
機能の簡便性と還元施策をいかに住民へ伝えたか
REPORT クラファンでの支援が転機
里山に起業家を育てる高専設立へ
認可前から支援者を集める広報
神山まるごと高専(仮称・認可申請中)
広報担当者のための企画書のつくり方入門 特別編
シティプロモーションのための
PR企画書を書きたい! ポイントは?
片岡英彦
【特集2】自治体ウェブサイトの実態調査
運用人数は?リニューアル費用は? ほか
CASE
島根県益田市/奈良県生駒市/茨城県桜川市/福島県昭和村
北海道八雲町/宮崎県西都市
など