やる気と情熱とアイデアを持つ人が世に出る場 MACA大座談会

グランプリを紐解いてみる

木村 ちょっとグランプリ受賞者にも話を聞いてみましょうか。先ほど挙げた「聴く路線図」、これはどうやって考えたんですか。

MACA2021 プランニング部門でグランプリを受賞した樋川こころ氏(写真左)と杉繁征氏(同右)
MACA2021 プランニング部門でグランプリを受賞した樋川こころ氏(写真左)と杉繁征氏(同右)

樋川こころ きっかけは杉くんのアイデアです。ボタンを押すと音楽が流れるというベースのアイデアに、「ご自由にお聞きください」というコピーが添えられていました。

押すという動作が簡単でいいなと思ったのですが、それだけだと課題にある「楽器未経験者」を振り向かせることはできない。では、どうすれば押したくなるだろうと考えたところ、発車メロディに辿り着きました。電車を利用する人なら誰でも耳にしている発車メロディなら、多くの人に関心を持ってもらえる。また、ボタンを押していくことでいろんな駅を聴き比べられたら面白いんじゃないかと考えました。

メトロアドクリエイティブアワード2021 プランニング部門 グランプリ「聴く路線図」のボタンを押している様子
ボタンを押すと各駅の発車メロディが、ヤマハの楽器によって奏でられる

杉繁征 発車メロディって生活が豊かになるものというよりは雑学的。どこで使えるかはわからないけど、知っていると楽しい。その良さとヤマハの良さが相乗効果を生み出せたと考えています。

MACAには以前から挑んできましたが、ファイナリストや審査員賞までで、グランプリには届きませんでした。今回は企画を考えるときに歴代の受賞作を見て、並べてみると体験型は賞を取りやすい傾向にあると気づいたんです。受賞作は模範解答だと考えて、体験型の企画を考えました。

樋川がコピーライターで僕はデザイナー。コピーは文章でいかに説明するかが大事です。デザインはビジュアルでどこまで表現できるか。どちらかで理解を担保できれば、そこは削ることができると考え、シンプルにしました。

「聴く路線図」企画書内の1ページ。ヤマハ銀座店へ足を運ぶきっかけとなる仕掛けも考案していた
「聴く路線図」企画書内の1ページ。ヤマハ銀座店へ足を運ぶきっかけとなる仕掛けも考案していた

木村 これから応募を考えている方も、ここまでの作り込みはプロじゃないとできないと思うかもしれないけど、そこはこだわりとか思い入れの強さ。それより、企画者がちゃんと全体像に責任を持っていることが感じられた。

審査員になる機会は八木さんも僕も多くて、企画書もたくさん読んでいます。ただ、深く読み込むよりも、グラフィックや一枚の絵でアイディアがわかるものの方が伝わりやすい。右脳でなるほどと思うから、文字も読んでみようとなる。まず読んでくださいという企画書はこういうコンペティションでは難しいよね。

八木 「過去の受賞作を分析して」と言っていましたけど、傾向と対策を研究して考えたようには見えないです。きっかけは分析かもしれないけど、最終的に感じさせないのは技術かもしれない。ボタンもなんともいえないけど、押したくなる。デザインがきれい。

中づりポスターのデザイン部門のグランプリは「ありえない、と笑いますか。」の東京動物園協会の中づりでしたね。

東京動物園協会の課題で制作した中づりポスター。可愛らしいタッチで、実は悲しい未来が描かれている
東京動物園協会の課題で制作した中づりポスター。可愛らしいタッチで、実は悲しい未来が描かれている

八木 これ、難しい課題だったと思います。切実なテーマでコミュニケーションしようとすると、説教くさくなりがちなんですが、グランプリはそうではなかった。

西澤志野 はい、課題をどう柔らかく表現できるかを考えることからスタートしました。応募するなら私の好きなイラストを描いて勝負しようと考えました。

デザイン部門グランプリを受賞した西澤志野氏 (写真左)と佐々木志帆氏(同右)
MACA2021 デザイン部門グランプリを受賞した西澤志野氏 (写真左)と佐々木志帆氏(同右)

ストレートに希少動物の保護・繁殖に取り組んでいることのベネフィットを伝えるだけでは電車に乗っている人の目を引くことはできません。では、保護しなかった未来を想像させるとなると、恐怖訴求になってしまうな、とも思ったんです。

それで、「1万年後の未来人が骨を発掘して、復元した動物」という設定で、キャラクター化したイラストにしました。

八木 このグランプリは、鑑賞に耐える力が高いんです。ずっと見ていられるところが一番の魅力ですね。イラストにした際のポイントは何ですか。

西澤 想像だけで描くのではなく、骨格模型を見て、未来人はこの骨格からどういう生き物を想像するのかを予想しながら描きました。

象は鼻の先まで骨がないので、短い鼻だと勘違いされるのではないか、とか。パンダは竹藪や雪山で目立たないように白黒模様になっているという説があるのですが、「目立たない見た目」だけで未来人が考えると、迷彩風にするんじゃないか、とか。最低限のアイデンティティは確保しながら、瀬戸際のところを狙いました。

1万年後の未来人が復元した、という設定で描かれたアジアゾウ
未来人はこの骨格からどういう生き物を想像するのかを予想しながら描いた

八木 恐竜など昔の生き物の図鑑を見て、「本当にそうだったの?」という疑問、感覚は、誰もが持つと思うんです。この中づりポスターも、その感覚を呼び起こされるものがあって、余計に想像力が刺激されます。骨格模型から描いたことも、最終的なビジュアルの説得力につながっている。

明るくポップに、気になるポイントがあって、入っていくと裏切られる構造。その過程の時間の計算、滞空時間が豊か。そこがすごい。

木村 コピーも良い。「かわいい」ってイラストに目を向けさせたところをスタートとして、コピーの「ありえない、と笑いますか。」だけではメッセージが100%はわからない構造になっていますね。イラストに添えられた「ジャイアントパンダ(復元)」を読んでも、まだ80%かな。「アジアゾウ(復元)」で、「あっ、そういうことか」と、複数回で納得させる。

これが、八木さんが「滞空時間」とおっしゃった、鑑賞によって広告と時間を共にさせる力につながっていると思います。「(復元)」もいい。

佐々木志帆 「(復元)」は説明的すぎるかなと思い、つけるかどうか迷いました。

八木 これはむしろ左脳的であるほうがいいですよ。

木村 そう。これくらい説明があっていい。ネタバラシというよりはメッセージの一部になっている。

架空の動物とか、子どもの塗り絵アート展みたいな見方でも楽しめるようになっているから何粒もおいしい。絵を見て楽しんで、コピーで考えさせられて、「本当に未来人はこんな風に復元するかな」と想像して、3回くらい楽しめる。

次ページ: 「あのとき、こうしたかった」企画で挑戦状 へ続く

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