宣伝会議の「マーケティング実践講座 池田紀行専門コース」で単独講師を務めるトライバルメディアハウスの池田紀行氏が、アドタイ出張講座として、売上が伸び悩む原因を考えます。
池田 紀行
株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長
1973年横浜生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業のデジタルマーケティングやソーシャルメディアマーケティングを支援する。宣伝会議、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 最新刊『売上の地図』(日経BP)のほか著書・共著書多数。
マーケティングのゴールは、「売ること」ないしお客様に「買っていただくこと」だ。
そのために、良い商品やサービスをつくり、適切な値付けをし、最適な売り場に商品を配置し、買いたくなるような情報を届ける。
しかし、言うは易く行うは難し。実行しようとするとこれが実に難しい。
何が売上に影響を与えているのか?
お客様も競合も常に変化する。マーケティングは市場の環境変化にフィットさせ続ける「生き物」であるため、戦略も打ち手も常に動的に変えていかなければならない。
「売る」ないしお客様に「買っていただく」ためには、
・知ってもらう(認知獲得)
・興味を持ってもらう(興味喚起)
・競合と何が違うのか知ってもらう(理解促進)
・好きになってもらう(好意度の向上)
・信頼してもらう(信頼度の向上)
・買いたいと思ってもらう(トライアル購入意向の向上)
・買ってもらう(トライアル購入の促進)
・また買いたいと思ってもらう(リピート購入意向の向上)
・再度買ってもらう(リピート購入行動の促進)
・人にも勧めたいと思ってもらう(推奨意向の向上)
・実際に勧めてもらう(推奨行動の促進)
などの意識・態度・行動変容を促す必要がある。
多くの人に知ってもらうためには広告を出稿する必要があり、その手法はマス広告からデジタル・SNS広告まで多岐にわたる。それぞれのメディアの文脈に合った最適なクリエイティブ開発も重要だ。興味を喚起するためにはPR露出やSNSで取り上げてもらうことが有効だし、商品理解を促進するためには一定の情報量をインプットしてもらう必要がある。そのためコンテンツマーケティングやオウンドメディアが力を発揮する。
オウンドメディアの集客力を高めるためにはSEOやSEMなどの検索エンジン対策が必要だし、商品の比較検討時に自社商品を選んでもらうためには過去や既存顧客のレビューの量や質も大きく影響する。買う前に買いたいと思ってもらうためには魅力的な商品コンセプトが必要だし、買おうと思ったときに買いやすいチャネル開発(売り場の確保)が完了している必要がある。売り場で最後の背中のひと押しをする販売促進活動も重要だ。
また、買ってもらったあとに「また買いたい」と思ってもらうためには商品そのものの力(商品パフォーマンス力)が必要だし、「どうせ買うならまたこの商品を買いたい」と思ってもらうためにはロイヤルティを高めるファンマーケティングやCRM(Customer Relationship Management)も有効だろう。
このような消費者の購買プロセスに合わせた施策を検討すること以外にも、ニーズが顕在化したときに思い出してもらう選択肢に入っておくこと(想起集合)や、最初に思い出してもらう第一想起ポジションを獲得すること、さらに「おいしいものが食べたい」「パウダースノーでスキーやスノボがしたい」「大自然に癒やされたい」→「北海道」のように思い出してもらう入口(カテゴリーエントリーポイント)を増やしておくことも大切な視点だ。
部分最適の限界と弊害
上記のように、一言で「売ること」「買ってもらうこと」と言っても、マーケティングを実行する上で考え、実行することはとにかく幅が広く、ひとつひとつの奥が深い。そのため大企業ではそれぞれの機能が高度に縦割り分業され、効率的に業務を遂行できるような組織が編成されてきた。しかし昨今では、その高度に縦割り化された分業体制が複雑化した現代マーケティングにフィットしづらくなってしまっている。
多くの消費者は、目や耳から入ってくる情報をいちいち「これは広告、これはPR」などと分別しないし、オンラインとオフラインを意識して使い分けをしているわけでもない。
私たちマーケターが考えるほどお客様は特定の商品やブランドに対して関心を持っていないし、一方で関心が無い中でも商品に対する好意度や信頼度といった感情的態度は日々の受動的な情報接触を通して無意識の中で上下動をしている。派手な広告キャンペーンに触れて試しに商品を買ってみたものの、たいして満足しなければ次は買わないだろうし、SNSやクチコミサイトにレビューを書くこともない。
このように、売上は膨大な要因が影響を与え合い、上がったり下がったりしている。特に大企業の売上であればなおさらだ。何かひとつの要因が成功して売上が上がる(ないしは下がる)ことなど、現実的にはほとんど起こっていないのである。
にもかかわらず、高度に縦割り化、分業化が進んだマーケティングの現場では、「認知度を上げる」「フォロワー数を増やす」「CPAを下げる」などの部分最適化が横行してしまっている。しかしこれからの時代、「広告効果の最大化による認知率の向上」「PR効果の最大化による興味喚起や信頼度の向上」「SNSでバズらせることによる話題の創出」などの部分最適ではいよいよ効果を発揮しづらくなるだろう。
なぜなら、認知もサイト集客もエンゲージメントもすべては「買っていただくための手段」であり、消費者が買わない理由はそれらの「ひとつの要因」がボトルネックになっていることはほぼ無いからである。つまり、ボトルネックは「ひとつ」ではなく、各要素が「つながっていないこと」なのである。真の課題は部署が背負うKPIと隣の部署が背負うKPIの間に落っこちていると言っても良い。つまり、これらの各要素を最適につなげ、接続しない限り、真の課題は解決せず、求める売上は上がらないのである。
バズワードの真の弊害
マーケティングの歴史では、1990年代の「マスマーケティングからOne to Oneマーケティングへ」といった、わかりやすい大きなパラダイムシフトだけでなく、CRMによる顧客の囲い込み、メールマーケティング、ブランドマーケティング、インターネットマーケティングや検索エンジンマーケティング、ブランドコミュニティ、オウンドメディアマーケティング、体験マーケティング、感情マーケティング、Web2.0、AIDMAからAISASへ、クチコミマーケティング、ソーシャルメディア(SNS)マーケティング、戦略PRによる売れる空気づくり、バズマーケティング、ブランドエンゲージメント、UGC(User Generated Content)マーケティング、カスタマージャーニー、デザイン思考、UX/UI、コンテンツマーケティング、ファンマーケティング、インフルエンサーマーケティング、DMP(Data Management Platform)/CDP(Customer Data Platform)/MA(Marketing Automation)などによるデータドリブンマーケティング、Web3.0やメタバースなど、数年、下手をすると数ヶ月単位で次々と新しいマーケティングコンセプト(≒バズワード)が生まれてきた。
これらの新たなマーケティングコンセプト(バズワード)を、それらの概念を普及・啓蒙させることで自社サービスの売上を最大化しようとするサービスベンダーの安っぽい宣伝行為だと揶揄する向きもあるが、私は必ずしもそうは思わない。事業主だってそんなに馬鹿ではない。
バズワードの多くは、消費者ニーズの変化によって「いままでのやり方では通用しなくなってきた→これから重視されるのはこっち」というマーケティングで重視すべき新しい指標の提案や、「やりたかったけどできなかったこと」がテクノロジーの進化によってできるようにうなった(競争優位につながる新手法)などが出自である。つまり、これらのバズワードは、ちゃんと「しかるべきタイミング」で業界に提起されているのだ。
問題なのは、次から次へとバズワードが生まれるという「落ち着きのなさ」ではなく、「その〇〇(新しい手法)に取り組み、成功できれば、売上は上がるのだ」というマーケターの思考停止にこそある。
ヒット商品があるとき、私たちはそこに「この施策が当たったのだ!」という「勝った主要因」を求めてしまいがちだ。まして、その施策が「いまをときめく最新手法」ならその「こじつけ」はさらに強まるに違いない。
しかし実際は、そのヒットの裏側には、基礎研究・応用研究を頑張った人、商品コンセプトを考えた人、リサーチを担当した人、原価計算や仕様など商品設計をした人、プロトタイプや商品の製造を行った購買や工場や生産管理の人、商品が全国の小売チェーンの店頭の棚を獲るために小売本部のバイヤーや全国津々浦々の店長へ提案営業をした事業部や全国の拠点営業の人、広告宣伝部の人、広報部の人、イベントを運営した人、オウンドメディアやSNSを担当した人、それこそ数え切れない人たちの仕事が関わっている。
マーケティングは売上を出力する回路である
売上は出力であり、出力は直接コントロールすることはできない。最終出力としての「売上」に影響を与えている入力指標が、認知、興味、理解、好意、信頼、想起、意向などの意識・態度指標と、来店や購入といった行動指標である。そしてこれらの意識・態度・行動変容指標もまた直接コントロールすることはできない。例えば、認知度は出力(=状態を示す単なるデータ)であり、認知度を高めるためには“何かしらの施策”(≒広告やPR)を実施(入力)しなければならない、といった具合だ。
現代のマーケティング環境における売上は、テレビCMやPRなど「ひとつの大きな施策」によって上下動する「点型」から、複数の要因が相互に接続・連鎖されることによって動く「回路型」になってきたと言えよう。
「売上」という出力が得られる回路は、認知、興味、理解、好意、信頼、トライアル購入意向といった意識・態度指標の向上や、ポジショニングを含む望ましいパーセプションの形成、想起集合や想起順位の向上といった「伝える部品の集合体」、購入後の満足度を高めることで再購入意向や再購入行動、推奨意向や推奨行動を向上させる「商品力(提供価値)そのものを形成する部品の集合体」、買いたいときに負荷なくラクに購入することができるストアカバッジやインストアシェアといった「フィジカルアベイラビリティに関する部品の集合体」などが構造的に接続された「マーケティングとしての回路」なのである。
電子回路がコンデンサや抵抗機といった多様な部品が正確に接続されることで正常に動作するように、売上も数多くの要素が緻密に設計・接続されることで多くの出力を得ることができるのだ。
その売上に至る各要素のつながりやプロセスを回路として示すのが「マーケティング実践講座 池田紀行専門コース」である。ぜひ一度自社商品の「回路」や「地図」を上から俯瞰し、どんな構造になっているのか、どことどこが断絶されていることが課題なのか、確かめてみてはいかがだろうか。
池田氏が講師を務めるのが「マーケティング実践講座 池田紀行専門コース」
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