フジテレビジョン
編成制作局 編成ビジネスセンター
ビジネスセンター事業部 局次長職 DX担当
冨士川祐輔氏
テクノロジーを活用しテレビの価値を拡張させる
これまでも新たな広告商品を同時で開発してきたフジテレビジョン。2019年にリリースした「CxM(シーバイエム)」では、画面に表示された二次元コードをスマートフォンで読み取ることで、専用ページに遷移。視聴者の投票で、生放送の番組内容やインフォマーシャルCMの内容が変わるものや、CM内の映像をVRで疑似体験できるものなど、番組間の離脱を抑制しながらも視聴者が楽しめる、新しい広告の形を提供している。従来は、大型スポーツイベントなど多くのライブ視聴者が見込める番組で活用されていたが、最近深夜枠の番組に連動して実施したところ、想定を超える成果があったという。
事業開発に携わる冨士川祐輔氏は、「深夜帯の番組は大型スポーツイベントの中継と比べて決して視聴率が高いわけではありません。しかしそうした番組をリアルタイムで視聴してくださる方は、ロイヤル顧客とも言える。今回の取り組みでCxMの活用可能性が広がったと感じています。そのために運用費を1/10程度にした簡易版もローンチしました」と話す。
新たなAVODの手法としてプロダクトプレイスメントを提案
こうした開発の一環として同社では、2022年2月、イギリスのMIRRIAD社と共同開発した配信コンテンツ向け広告情報サービス「iCADs(アイキャズ)」をリリースした。
「iCADs」は「in Contents Ads」の略で、動画内に広告情報を付与するAVOD(広告情報付き無料動画配信)の新しい形となる。同サービスは、動画本編に看板などの広告情報や商品情報を付与するプロダクトプレイスメントのひとつ。通常のAVODはコンテンツの前後や途中にインストリーム広告が入る構造となっているが、iCADsでは、途切れることなくコンテンツを視聴できる。
従来のプロダクトプレイスメントは、収録の際に現物を置く方法がほとんど。露出量の調整や制作スケジュール上の難しさ、収録後の差し替えにコストがかかるといった課題があった。iCADsでは、デジタル・プレイスメントの専門会社であるMIRRIADが提供する、AI技術を活用した合成システムを使用。制作のフローを容易にしている。
同システムではまず、カメラの動き・背景・露出時間などを自動で解析。30分の動画であれば10カットほど、プレイスメントに適した箇所が提案される。掲出場所の位置・大きさといった解析だけではなく、登場人物の表情やシーンを読み取り、ネガティブなシーンやクライマックスのシーンは排除するといった判断もできるという。
ここに合成用素材として、スポンサー商品の3DCGやポスター画像を用意。提案箇所に対して配置したのち、広告主の確認や考査も含め一週間ほどで、映像が完成する。
さらに冨士川氏は、フジテレビジョン独自の新たな機能を付加する。
「AIによる提案は、作業の簡易化という点で非常に効果的です。しかし実際には、クライアントの希望する箇所に商品を映したいという場合も出てきます。そこで今回、プレイスメントを前提としたシーンを組み込むフローで制作する、実証実験を行いました」。
2022年10月、サントリーの協力のもとオリジナルドラマ『片想いの彼のために捜査してたら、いつのまにか名探偵になりました。(仮)』を制作した【図表1】。
内容は、主人公の大学生と、幼馴染である新米刑事のラブコメディ。各話ごとに飲食シーンが組み込まれるよう、主人公は祖父が経営する蕎麦屋でアルバイトをしているという設定にした。主人公と幼馴染の張込みのシーンで二人の関係性を表現する小道具として「BOSS」商品を利用したり、事件解決を祝うシーンで「ザ・プレミアム・モルツ」で乾杯したりと、ストーリー演出に商品を組込むことでの新しい広告コミュニケーションの挑戦も行っている。
「例えば連続ドラマで毎回出てくる“定番の場所”としてバーを設定して、そこを広告コミュニケーションの場にするということも考えられる。撮影スタイルをフォーマット化していけば、費用や手間を抑えて、狙った場所に配置することも可能です」。
コンテンツの権利者や出演者に関する調整は必要なものの、過去のアーカイブ作品に対してプレイスメントを行うことも可能だ。
脳活動を予測するAIで広告効果の検証を実施
過去の事例で行ったアスキング調査でもブランドリフトが認められ、かつ、プロダクトプレイスメントに対する否定的な印象はあまり持たれていなかったという。しかし今回、調査で起こりがちなバイアスがかからない効果測定手法として、NTTデータが提供するマーケティングソリューション「NeuroAI®/D-Planner®」を活用した。より、その効果を客観的に可視化し、クライアントの導入を後押しするためだ。
「NeuroAI」は、fMRIで映像視聴者の脳活動データを集約し、AIを用いて脳の活動を予測するモデル。これを基盤とした「D-Planner®」は、映像に対する人の意識・無意識の反応を言葉で表現。実際にアンケート調査を行わずに、好感度やブランドリフトを予測できるというものだ。
プレイスメントした商品の違いでどのように反応が変わるか。商品の好感度が上がるシーンはどこか。性別や年代による違いも分析でき、さらにプレイスメントがインストリーム広告へどれくらいポジティブに影響するかなど広告サービスの複合効果も可視化する【図表2】。
エンタテインメント性の高い広告配信を目指す
地上波放送の視聴率が高い番組と、配信の視聴数が高い番組は必ずしも一致しない。また能動的に視聴されることが多い動画配信サービスでは、CMの受け止められ方も変わる。
「同じコンテンツでも、異なる媒体で流す際にはコミュニケーションの方法を変えなければいけない」と冨士川氏。例えば1時間のドラマを、配信では分割再編集して流すといったことも必要ではないかと話す。
「CxMは、同時視聴やリーチといった、テレビの持っているメディア力を拡張したいという発想で開発しました。一方でiCADsは、コンテンツそのもののポテンシャルをより向上させるもの。『このアイテムがどこかに隠れています』といった宝探し的なキャンペーンや、視聴者のセグメントに合わせたコンテンツの出し分けなども可能になってくる」と冨士川氏。
「今後、さらに様々な広告主とも連携しながら、実証実験を重ねていく。コンテキストにマッチした手法で、ユーザーにとってもエンタテインメント性を高める広告配信を行っていきたい」と展望を語った。
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