駐車場予約アプリ「akippa(あきっぱ)」がユーザーを大きく伸ばしています。未契約の月極駐車場やマンションの駐車場などのスペースとドライバーをつなぎ、15分単位でネット予約して貸し借りできるのがakippaのビジネスモデル。サッカー選手を経て起業した金谷元気さんが2014年に立ち上げ、成長に導いてきました。
消費者のちょっとした困りごとを解決するビジネスモデルが注目され、多くの大企業から総額35億円以上の資金調達を実現。会員数は年内に累計300万人をうかがう勢いです。
一方、書籍『ユーザーファーストの新規事業 社内の資産で新たな成長の種をまく』の著者である中村愼一さんは、損害保険ジャパン(損保ジャパン)で6つの新規事業を立ち上げたほか、akippaの社外取締役でもあります。
本書では、大企業が持つ組織力や有形無形の資産を活かした新規事業の可能性を具体例を交えて解説しています。
金谷さんと中村さんによる対談を通じて、akippaのビジネスの可能性や次世代モビリティのあり方について考えます。
駐車場の圧倒的な供給不足に勝機を見出す
金谷:「akippa」の発案のきっかけは、ある女性社員の困りごとでした。「(イベントなどの)会場周辺に行って初めて、駐車場が満車で停められないことを知る」ということでした。
そこで駐車場の需給について調べたところ、需要に対して圧倒的に供給が足りていないことがわかりました。個人宅や月極駐車場の空いているスペースとうまくマッチングできれば課題解決できるのではと思い、2014年4月にakippaをリリースしました。
立ち上げ時の苦労こそありましたが、大手企業からの資金調達が得られたり採用にも力を入れたりして順調に成長してきました。一方で、ユーザーの利便性向上のためにはまだまだ駐車場を増やさなければなりません。当時は東京と大阪にしかオフィスがなく、営業チームも15人ほどの規模。駐車場開拓のペースが追いつかないことが課題でした。
そんなとき、中村さんにお会いしました。損保ジャパンには全国で約4万6000店におよぶ保険代理店網があります。そこで、自動車保険を解約した顧客の中で、車を手放して駐車場が空いた顧客に対して、akippaをお勧めするという提案を受けました。
中村:損保ジャパンは自動車保険が主力ですが、ドライバー人口の減少や自動運転時代の到来がもたらす市場縮小を見据え、モビリティ分野を中心に複数の新規事業を相次いで立ち上げてきました。
会社からはその中から次の収益の柱にしていくことを期待されており、これらを軌道に乗せるべく取り組んでいるところです。金谷さんとお会いしたのはそんなタイミングでしたね。
「10兆円市場を押さえる」ビジョンを共有し協業
金谷:2019年10月にakippaに出資いただき、損保ジャパンの持ち株会社であるSOMPOホールディングスが当社株式の約33.4%を取得。当社はSOMPOホールディングスの持分法適用会社となりました。
損保ジャパンの保険代理店でakippaを提案できるようになってから、累計で1万台以上の駐車場が増加しました。また、ユーザー獲得のプロモーションでも協力いただき、2019年時点で累計約150万人だった会員数は現在では290万人まで伸び、年内には300万人に到達する勢いで成長を加速させています。
中村:akippaの事業については、将来の自動運転の世界を見据えたときに大きな可能性を感じ、また当社の保有するデータと保険代理店ネットワークがあることで事業拡大スピードが速まりシナジーは大きく効いてくると考えました。「日本で10兆円といわれる自動運転の市場を一緒に押さえていきましょう」と話して金谷さんにも共感いただきました。
会社間のことなので、実際の手続き面では紆余曲折もありましたが、アライアンスは無事実現に至りました。SOMPOグループはakippaの株主であり、私自身も社外取締役を務めています。
登録駐車場を増やし、ライバルに勝ち抜く
中村:両社の協業によるビジネスモデルは、マイカーリースを手掛けるDeNA SOMPO Carlifeがakippaの販売代理店となって、全国の損保ジャパンの保険代理店と連携してオーナーを開拓する、という形です。個人はもちろん、駐車場をたくさん所有している大手法人、地方のスポーツチームなど、保険が関係してくるところのコネクションを活かして開拓を進めています。
金谷:駐車場シェアリングサービスで最も重要なことは、アプリを開いて行きたい場所に駐車場があるかどうか。つまり、鍵を握るのは駐車場数です。販売代理店を一気に増やしながら開拓を進めたことで、いくつかの競合サービスが出てくるなかでも駐車場の確保を進めることができました。その結果、大手インターネット系企業がここ数年でほぼ撤退したのです。ここで圧倒的に駐車場を増やすことができたのが勝因でした。
現在は、駐車場を増やすための販売代理店も揃っており、営業体制は整ってきました。課題はテクノロジーの部分です。現在、料金設定やマーケティングの工夫をオーナーさん自身ができる仕組みを考えています。
例えば、メルカリやBASEで商品を売るユーザーは、「料金を下げた方がいいかな」と思ったらすぐに自ら料金設定を変更したり、自分のSNSで宣伝したりと様々なことが容易にできます。akippaも機能をアップデートして、駐車場オーナーのエンパワーに貢献できればと思っています。
コロナ禍のピンチを切り抜けた秘訣は“取締役会”
中村:akippaの社外取締役として、月1回は取締役会に出席し、経営陣や他の社外取締役・監査役と意見交換をしています。経営陣と社外取締役は立ち位置こそ異なりますが、「akippaを伸ばすためにはどうしたらいいか」という共通のゴールに向けて議論が進むので、非常に意思疎通がしやすい会議です。
akippaはイベント時の駐車場予約が売上の約半分を占めていたため、コロナ禍では大打撃を受けました。取締役会議で「通勤需要をどうにか取り込めないか」という知恵が出てきて、その結果、また大きく駐車場が増加。すぐさま成長軌道にスムーズに乗れたという背景もありますね。
金谷:コロナ禍のデータを見ると、利用目的のうち通勤・通学だけが伸びていることがわかりました。オフィス周辺や駅周辺など、通勤・通学での利用が見込まれるエリアの駐車場を増やすという、今まで取り組めてなかった日常利用にシフトしていきました。結果的に、2020年秋頃にはコロナ前を上回りました。
2022年春頃には、イベントが復調してきたことに加えて日常利用も維持することができ、大きく成長することができています。それは、日々一緒にデータを見ていただきながら、「今のフェーズはこれが大事だよね」「今はこっちに振った方がいいよね」と、前向きに方針を議論できたおかげだと思っています。取締役会は本当にエキサイティングで刺激の場であり、そこでの意思決定が良い方向に進んでいますね。
中村:損保ジャパンに入社したとき、当時の西澤敬二社長(現会長)から言われたミッションは、自動車保険が自動運転の時代で厳しくなる中、「2026~27年までに、合わせて100億円の利益を上げられるような新規事業をつくってほしい」というものでした。
そのミッションの一つの形として、たとえばakippaの利益が30億円を達成できれば、3分の1を出資しているので10億円の利益になる計算です。現在は、保険代理店や「SOMPO Park」でのリコメンドが中心ですが、将来的にはさらに一体化して、損保ジャパンからオーナーもユーザーも送客するようにするなど、やり方はまだまだ考えられます。複数の新規事業が互いで相乗効果を生み出すことで、さらに利益を増やしていければと思っています。
金谷元気氏
akippa 代表取締役社長 CEO
1984年生まれ。駐車場シェアリング「akippa」の代表取締役社長。高校卒業後から4年間はプロ選手を目指し関西サッカーリーグでプレー。引退後に通信系の上場企業で2年間営業を経験し、2009年に自宅で会社を設立。2014年に駐車場予約アプリ「akippa」をリリースし、2022年11月時点で会員数は累計290万人を突破している。
中村 愼一氏
損害保険ジャパン 常務執行役員
上智大学経済学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。ハイホー・シーアンドエー代表取締役社長などを経て、2008年に会員サイト「CLUB Panasonic」を運営。会員数1000万人、月間2億PV規模に育て顧客ロイヤルティ向上に貢献。2017年11月損害保険ジャパン日本興亜(当時)に入社。執行役員ビジネスデザイン戦略部長として新規事業を担当し、個人間カーシェアサービス「Anyca」、マイカーリースの「SOMPOで乗ーる」、駐車場シェア「akippa」をはじめ6件の新規事業を推進。2022年から現職。4年目になる2022年度は売上100億円を目指す規模へ成長を続けている。現在も新たな事業を複数計画中。