グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)が11月21日、GCNJシンポジウム2022~サステナブルな企業と社会の構築~」を開催した。
「日本企業のサステナビリティ経営」と題したパネルディスカッションでは、キリンホールディングス 磯崎功典 代表取締役社長と、コニカミノルタ 山名昌衛 取締役 執行役会長が登壇。サステナビリティ経営について、これまでの歩みを振り返った。
キリンがCSV(共通価値の創造)を経営の軸に置くようになったきっかけは、東日本大震災での仙台工場の被災だったと磯崎社長。当時危機管理の担当役員であった磯崎氏の先導のもと、莫大な予算のかかる決断ではあったが、復興に舵を切った。仙台工場がなくなってしまえば、バリューチェーンでつながっているパッケージ会社や製缶会社などもつぶれてしまう。復興は、長期的に見て社会的価値のあること、との思いから、最初は社内にも戸惑いがあったものの、粘り強く説明し、復興を目指したことが、現在のキリンのCSV活動、そして経営の軸になったという。
一方のコニカミノルタでは、2000年代に入り、デジタル化が加速し、カメラやレントゲンフィルムなど、従来のマーケットが縮小。経営方針の見直しが迫られるなかで、「なんのための事業なのか」という存在意義を突き詰め、それを軸として世の中に提供する価値を変え、増大することで、持続可能な会社であり続けることを目指すことにシフトしていった。この時設定したコニカミノルタが提供すべき価値は、BtoB事業のその先を見越したもの。それを『BtoB toP(Professional) forP(Person・Planet)』と表した。企業のその先にいるプロフェッショナルな人々に働きがいを届け、そしてそれは、プロフェッショナルのサービスを受ける人々や環境の価値につながっていく。「顧客価値が社会価値になり、環境価値も一体化して実現していく。経済価値ばかりを追い求めていたら、サステナブルな企業としての価値は上がらないのです」と山名会長は説明した。
サステナビリティ経営と利益の両立についても話は及んだ。両者とも、投資家からの短期的な利益への追求はあり、根気強く説明が必要としながらも、近年、変化が見られるという。「最近は、ESGの観点からの質問が増えてきた印象です。中長期的な価値を説明しないと、納得してもらえない」と磯崎社長。また、説明の仕方について山名会長は、「企業側から、データではなく指標(KPI)を提案していくべき。もちろん環境価値、社会価値のすべてを定量化できると説得力はあるが、難しいのが現実です。だからこそ、今起こっている問題に対して、どれだけのインパクトと利益が見込めるのか。粘り強く伝えていかなければならない」と話した。
サステナブル推進に取り組まない選択肢はない
ゲスト講演では、国連グローバル・コンパクト・ボード副議長で元ユニリーバCEOポール・ポールマン氏が登壇。企業がサステナブルに取り組むことは、もはや当たり前であり、「行動を起こさないことの代償は、行動を起こすことの代償よりはるかにリスクをはらんでいます」と警鐘を鳴らす。「社会のために、正しいことに長期的に立ち向かう勇気を持ってほしい。サステナビリティ経営に取り組むことで多くのチャンスが生まれることを理解し、長期的に目的をもって指揮をとるリーダーが、多く出てきてほしいと願っています」と、サステナビリティ経営への思いを語った。
磯崎社長、山名会長、ポールマン副議長によるディスカッションでは、「方針への疑問が出たり、短期的な利益を求める声に対してはどう取り組んできたのか」と磯崎社長が質問。ポールマン氏は自身がユニリーバCEO時代に行ってきた戦略を明かした。
「ユニリーバでは、投資家への3カ月ごとのレポートを辞め、半年~1年おきのレポートに切り替えました。3カ月だと、どうしても短期的な話になってしまう。自分のやろうとしていることを説明し、2~3年後のリターンを約束する。そして半年~1年おきに確認しつつ、確実に実現していくこと。そうすることで、忠誠心の高い、長期的な株主との関係構築が実現したのです」。リターンを犠牲にしているわけではなく、システムをつくることで、より高いチャンスで長期的にリターンをとっていると理解してもらうことが、重要だと話した。
また、サステナブルな社会の構築には、人が起点であり、企業文化の変容が必須とポールマン氏。それに対し山名会長は、一番重要なのはCEOがコミットメントし、ステークホルダーと向き合い、粘り強く繰り返し企業のバリューをナラティブに、ストーリーにして伝えていくことだ、と主張した。