この映画には、全てむき出しになった 「裸の吾郎」 が出ています(稲垣吾郎・今泉力哉)【後篇】

稲垣吾郎の存在が「メジャー感」を演出する!?

澤本:この間、草彅さんと香取さんがやっていらっしゃる『burst!〜危険なふたり~』(作/演出 三谷幸喜)の舞台を見に行ったんですけど。稲垣さんが「携帯しまえ」みたいなナレーションをやられているじゃないですか?あれ、めちゃめちゃ面白くて。

稲垣:場内アナウンスをね、急に三谷さんに本番3日前ぐらいに頼まれて。

今泉:ははははは!

稲垣:それで、三谷さんが書いて来てくださって。まあ、アドリブもちょっとあるんですけど。目の前に三谷さんがいて、稽古場で録ったんですけど、緊張しましたね(笑)。「今日は、僕のトークショーに来てくれてありがとう」って、そういう体になっていて(笑)。

一同:あはははは!

稲垣:今から2人がコントみたいなのやるけど、付き合ってあげてね、みたいな。ちょっとボケてる感じでね(笑)。

澤本:たぶん、稲垣さんが喋ってんだろうなって思ってるからこそ、めちゃめちゃ面白いんですよね。あとはね、こんな言い方してごめんなさい。でも、メジャーに見えるんですよ、映画が。これを今泉さんの目の前で言うと、アレなんですけど。

権八:あっはっはっは!

澤本:今泉さんの映画って、むちゃむちゃ面白いけど、ちょっとメジャーじゃないところが大好き、みたいなね。「私は、今泉作品が好きなことを誇りに思いたい」みたいなのがあるじゃないですか?でも、稲垣さんが出ていると、むっちゃメジャーなんですよね。「今泉さん感」はあるけど、やっぱり画がメジャーなので。ごめんなさい、今泉さんの前でこんなことを言うのは……。

今泉:いや、それは客観的にわかっているんです。自分のやっていることって、わかりやすい感情じゃないものを扱っているんですよね。自分の中の「やりたいこと」をあまり変えないまま、稲垣さんとこの作品をつくれたというのは、やっぱり相当特殊なことをやらせてもらったな、と思っていて。プロデューサーから「もっとわかりやすく!」と言われてもおかしくなかったりする中で、あんまり自分を変えずに、なおかつ、ある種、メジャーに見える形でやれた、というのは、誰しもがやらせてもらえることじゃないな、と。映画の尺も143分なんですけど、もっと商業的なことを言うなら100分とか2時間以内に、とか言われそうなんですけどね。そこはやっぱり、今澤本さんが言われたような映画になっている気がしますよね。稲垣さんがいることが大きかったです。

澤本:ああ~、よかった!怒られないで。

一同:(笑)。

今泉:全然ですよ!(笑)

驚愕の12分ワンカット撮影

中村:撮影に入って、監督は稲垣さんに、稲垣さんは監督に対してあらためて感じたことはありましたか?監督、どうですか。

今泉:元々の印象とあんまり差はなかったですね。第一線で活躍している方って、みんな柔らかいとは思うんですけれども、輪をかけて、威圧感を与えなかったり。そういう部分は大きかったですね。話したことをそのまま受け止めてくれるし、やっていて「あ、この人、芝居するのが好きなんだな」って思いました。

稲垣:あ、そういうのってやっぱりわかるんですか?

一同:あはははは!

権八:稲垣さん、どうなんですか?(笑)

稲垣:いやいや、もちろんもちろん!(笑)やっぱり、好きだから同じ仕事を何十年もやっているので。会話劇で同じシチュエーションでずっとやっていくのは、俳優として面白いんですよね。特に、今回は結構なワンカットの長回しで……。まるで舞台のように俳優さんに任せてくれるような撮り方が多かったので。

権八:はいはいはい。特に「ここ、長いな〜!」と思ったのは、奥さんと対峙しあう中盤の場面ですね。でも正直、あそこからぐんぐん面白くなりません?

今泉:あ~、嬉しいですね!

稲垣:嬉しいですね~!

今泉:稲垣さんと奥さんの中村ゆりさんが向き合って話すシーン、あれ、12分ぐらいあるんですけど。

一同:(爆笑)。

権八:すごい!

今泉:でも、あれはワンカットで撮るつもりではもちろんなくて。表情とかをちゃんと押さえるシーンだから、ワンカットなわけがなかったんですけど。

稲垣:そう、普通に考えたらね。

今泉:現場の段取りでお芝居を見て、間尺も気持ちもたぶん、これ一個の方がいいな、と芝居を見て思っちゃって。

稲垣:ね~!まさかのワンカットで。

権八:あっはっはっは!

稲垣:僕らはさ、撮影って、わからないじゃない?カット割りって。ドラマだと「カット割り台本」があったりするけど、映画ってやっぱりわからない。そこはもうお任せですからね、映画の場合は。こっちも何が出てくるか逆に楽しいし。でも、まさかの一回戦(一回線?)でね。ワンカットで、しかも、ちょっと僕の後ろから撮っているんですよね、前半は。だから僕、あんまりカメラを感じていなかったんです。すごく力を抜いてやっていましたね。

権八:そうでしたね~!

稲垣:それで、「こっちからまた撮られるかな?」と思ったら、そっちが本番だったという。

一同:ははははは!

稲垣:それが、逆に力が抜けて良かったんですよ。やっぱり、カメラが自分を撮ってると思うと、力んでしまうことがどうしてもあると思うんですよね。欲みたいなものが出てきて。相手が映ってるところで、本当はこっちがちゃんとやらなきゃいけないんだけど……(笑)。どうしてもさ、やっぱりレンズがここにあると、いまだに意識しちゃいますよね。

権八:はいはいはい。

稲垣:だから、逆に力が抜けてお芝居に集中することができたな、と思って。良かったんですよ、それが。

いつの間にか、セリフが増えていた

今泉:すごかったのは、稲垣さんのセリフが台本から2つ3つ増えていたんですよ。たぶん、向き合っている時に「相手に伝える」ことを気持ちでやっているからだと思うんですね。本当に、カメラとか照明がいないぐらいの空気感があったというか。中村ゆりさんと稲垣さんが感情でちゃんと向き合っていて、それで結果、自然と相手への言葉が増えることになったんじゃないか、と。

中村:勝手に増やしちゃった、と。

今泉:勝手に増えていたんですけど、それを稲垣さんに取材とかで「増えてましたよね」と聞いても、「あ、そうでした?」みたいな感じで。

稲垣:本当、覚えていないんですよね。

中村:稲垣さん的には、キャラとして入っちゃってたから気づかなかったと?

稲垣:う~ん、何か伝えようとして一生懸命だったのかもしれないですね。「アドリブを仕掛けてやろう」とか、そんな欲は僕には全くないので。なんか不思議ですよね、何度やっても毎回毎回違うものになるし。うん、やっぱり“なま物”ですよね。でも、中村ゆりさんは本当に素敵な俳優さんで、彼女の感情にも引っ張ってもらえました。

今泉:実際には8分ぐらいなんですよ、台本が。それがなぜか、12分になっていて。やっぱり、二人の時間や感情が、もう4分ぶん乗っかったというか。

稲垣:でも、それだけ感情を違和感なく出せるシナリオと、流れっていうのはなかなかないですよ、この仕事をしてても。「絶対うまくいく!」ってわかってたもん、脚本に描かれてるものを読んだ時に。

権八:へえ~!

稲垣:撮影もやりやすいスケジュールを組んでくれて。後半のシーンは後半に撮るし、それまでの気持ちも積み重なっていって。今日がいよいよクライマックスの二人のシーンだなっていう時に、このセリフがあったので「絶対うまくいくな」って、最初からわかっていたんですよ。

権八:う〜ん、それはすごいなぁ〜!!

稲垣:もちろん、ワンカットだとは思っていなかったんだけど。

一同:あはははは!

権八:まさかのね!(笑)

稲垣:「全部ここにぶつけてやろう」っていう感じがね、溜まってたんですよ。それがせきを切ったように、バーンと感情が溢れ出して。でも、それってやっぱり皆さんにつくってもらわないと絶対にできないことだから。本当に全てが揃って、自分も納得いくシーンが撮れたなっていう感じかな。

今泉:嬉しいですね〜。

次ページ 「たくさん撮った画って、ホントに使うの?」へ続く

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