「たくさん撮った画って、ホントに使うの?」
稲垣:これは僕、監督に一回聞きたかったんですけどね。今、ワンカットの話をしましたけど、いっぱい素材を撮る監督もいるじゃないですか?
今泉:あ~、はいはい。
稲垣:もう、どこを使われるのかわからない、どうやって編集されるのかもわからないぐらいに。そんな時、僕らはどういう風に受け止めてやっていけばいいのかなって。なんか、今更なんですけど。
今泉:それは、方法論が色々と違うだけで……。稲垣さんが言ったみたいに、どこを使うかわからなくなるじゃないですか?でも、それって実はいいことなのかな、と自分は思っていて。俳優さんが「これは絶対に使うな」って思う素材になってしまうと、感情を盛ったり、欲が出たりもしそうだけど、お互いがわからないながらも信用し合っていれば、できあがったものの方法が変わるだけなのかな、と思うので。
稲垣:うんうん。
今泉:例えば、通しで撮ることに関しては、「2カメとか3カメ体制で撮ったら一回で収まるし、俳優さんも一回で済みません?」とかたまに言われるんですよ。でも、それだともちろん照明にもこだわれなくなるし、実は一回目と二回目が違うからこそ、カットバックで時間を作れる時もたまにあったりするので。その監督が何を考えてそう撮っていたのか、というのは、その時の監督の頭の中だけにしかないんですけどね。
稲垣:うん。わからないけど、俳優が現場で聞くのも、やっぱり野暮だし……。
今泉:撮影って、結構広い画から撮っていって、例えばツーショットを撮って、そこから寄っていきますよね。「寄り」の時に芝居が固まってきて、「引き」の画はベースになるので、「引きの画をもう一回撮りたい!」と戻る時がたまにあって。
稲垣:ある!!
一同:あははははは!
稲垣:寄りで俳優の芝居がようやく固まって見えた時に、最初にロングで引きで撮っていたものを、もう一回撮り直したいって。
今泉:そうなんです。たまにやらしてもらうけど、照明や撮影部的には「いや、ちょっとそれは……」と。
稲垣:一番大変だもんね。
今泉:そうそう。バラしちゃった後だったりして。
稲垣:なるほどね。こういうことは、ほら、現場ではなかなか聞けないからさ。「これ、いっぱい撮ったけど使うの?」とか。
一同:あはははは!
稲垣:聞けないから、今ちょっと聞いてみました。
今泉:基本は、使うと思ってやってますね。お互いに。
いい意味で「揺さぶられる」作品
中村:ちょっと気が早いですけれども、今後挑戦してみたい役柄とか、撮ってみたい作品とかってございますか?
稲垣:そうですね、僕はやっぱり映画をやりたいですね。今もまた、2023年公開の映画の撮影中ではあるんですけれども。このお仕事を始めて30年ぐらい経つけど、やっぱりテレビの方が多かったので。本当はもっと映画をやりたいな、とずっとSMAPの時から思っていたんですね。まあ、お話をいただいてから成り立つものなんですけど。やっぱり、今後も映画をやっていきたいなって、つくづく感じましたね。だから、どんな役とか作品というよりも、いろんな日本映画に出ていきたいなと思いますね。
中村:監督はどうですか?
今泉:「小説を書きたい」という思いがずっとあって。この作品もちょっと小説の話が出てくるんですけどね。何年か前に編集の方から声を掛けていただいて、もう3、4年ぐらい経つんですけど、一行も書けずにいて。映画って、脚本をオリジナルで書いても、それをいろんなスタッフやキャストの力で最終的に映画にしているわけですね。脚本だけで完成して、世に出るものだとは思っていないから書けるんですけど。あとは、題材選びも一作目をどうするかな、と。いろいろな思いでなかなか書けずにいたんですけど、今ちょっとだけ書き始めていまして。それはちょっとやってみたいですね。
権八:今回、映画の中に小説家が何人か出てきて、文章も出てくるじゃないですか。また、これが綺麗で。
澤本:すごい良かったよね。
権八:劇中に出てくる小説ですね。
稲垣:そうです、そうです。ラ・フランスとかね。
権八:そうそう。素晴らしくて。あれは当然、今泉さんが書いているんですもんね?
今泉:書いてます。だけど、一部だからね。でも、受賞している作品の地の文を書くのって、めちゃくちゃ怖くて……。そんなの、書けるのかな?みたいな(笑)。
一同:あはははは!
権八:あとは、この映画にはいろんなテーマがあるわけですね。もちろん好きになる、ならないってどういうことだろう?みたいなこともあるし。そもそも、人が何かを「表現する」ってどういうことなんだろう?と。自分の生身がどれだけ出るか、みたいなことの恥ずかしさと、その赤裸々さがあるじゃないですか?
稲垣:ある!
権八:だから、すごい身につまされるというか、恐ろしい作品だな、と(笑)。
稲垣:そうか。クリエイター目線からだと、よりね。
権八:その一方で、「自分の存在は誰かの役に立っているんだろうか?」みたいなことも大きなテーマであるじゃないですか?(笑)
今泉:確かにありますね。
権八:だから、なんだかすごい揺さぶられましたよね、いい意味で。本当に面白かった。面白い、なんていう言葉では片付けられないぐらい。
今泉:いやいや、嬉しいですね。
中村:これは、ひとりでも見に行ってほしいし、恋人とかパートナーと観に行ってもいいかもしれないですよね。もしも自分が不倫していなければ。
一同:あっはっはっは!
今泉:自分が不倫していなければって、面白いですね!(笑)
中村:やましいところがある人は、ちょっとひとりで見に行った方がいいかもしれない(笑)。
今泉:色々話せますよね、この映画を見終わった後に。コメディにも見えるしね。
稲垣:僕がやることで、ちょっとひょうひょうとした感じでね。
今泉:巻き込まれていくというか、主人公が受け身で、ひたすらよくわからない人たちに付き合わされて巻き込まれていく、みたいなのが好きなんです。
稲垣:僕、結構翻弄されたり、巻き込まれたりするので(笑)。
今泉:いや、さっきのテレビCMの話じゃないけど、なんだか「やらせたくなる感じ」はあるかもしれない。
稲垣:そうなんですかね?よくイジられるんですよ、クリエイターの方に。
一同:あはははは!
「裸の吾郎」に、愛に恋
中村:そういうわけで、そろそろお別れの時間が近づいております。稲垣さんは月曜、火曜の午後3時『THE TRAD』が放送中なので、ぜひ聴いてください。そして、なんといっても映画『窓辺にて』が11月4日金曜日に公開です。改めてお2人から見どころを。
稲垣:そうですね。いろんな登場人物が出てきて、いろんな感情やいろんな思いであふれている映画なんですけれども。たぶん、全部の感情を理解することはなかなか難しいと思うんですけど、見ていただける皆様に何かひとつでも共感できるものとか、心が繋がれるようなものを拾い集めていただいて、この映画を楽しんでいただきたいな、と思っております。「むき出しの吾郎」が出ていますので。
一同:(爆笑)。
稲垣:赤裸々な、「裸の吾郎」を皆さんに見ていただきたいですね。
権八:あっはっはっは!いや~、そんな感じある!(笑)
稲垣:11月4日公開です。ぜひ劇場でご覧ください。
中村:今泉監督からもひと言、よろしいですか。
今泉:稲垣さんが演じる悩みって、万人が知っている悩みじゃないのかもしれないんですけど、自分にしかわからない感情だとか、一般的に映画や創作物にはしにくい「小さな悩み」みたいなものを映画にしたいな、とずっと思っていて。たぶん、その方が届いた時に深さが出ると思うんですね。でも、それはマスを捨てることじゃなくて、実は多くの人に伝わる方法なんじゃないか、という思いがちょっとあって。「自分の悩みなんて、ちっちゃいよな」とか思わずに、小さな悩みを大切にしてほしいな、と。本当に悩んでいることがある人には、ぜひ見てもらえたらな、と思います。
稲垣:そうだね~。
権八:いくらでも話せるというか、「掘る所」がいっぱいあるからね。
中村:今夜のゲストは、映画『窓辺にて』主演の稲垣吾郎さん、そして監督の今泉力哉さんでした。ありがとうございました~!
稲垣・今泉:ありがとうございました〜!
一同:拍手
〈END〉