毎年、約173カ国から参加する巨大なイベントだが、もともとCESは家電ショーとしてスタートした。しかし今日ではテクノロジーとイノベーションのイベントに変化を遂げている。CESでは、スマート家電に始まり、モバイル、自動車、ロボティクス、IoT、AI、XR、そしてWeb3や環境に至るまで、先端的な取り組みに触れることができる。ここで触れることができるテクノロジーは、産業からビジネスモデル、ライフスタイルを大きく変化させることは間違いなく、マーケターにとっても注目すべきイベントだと言える。
コロナ禍を超えて久しぶりに、現地より「アドタイ」視点で、森直樹氏が最新情報をレポートする。
2023年のCESは、emerging technology(新興技術)が主役?
今年も注目のCES、今回は“リアルな現地”へやってくることができた。2023年の開催期間は1月5日から1月8日まで。クリエーティブ視点・マーケティング視点でお送りする、「アドタイ」恒例のCES現地レポートを無事にお届けすることができて感無量である。現地レポートの初回は、CES開催に先駆けて行われるプレス発表会より、CTA(全米民生技術協会)アナリスト視点での今年の見どころから触れたいと思う。
経済の低迷がイノベーションを起こし、技術革新を加速させる
CESの主催団体であるCTA(全米民生技術協会)のVPであるSteve氏は、経済トレンドと新しいテクノロジーの出現と浸透の関係について、イギリスの経済学者であるフリーマン氏の論文を引用して経済の低迷がイノベーションを引き起こし技術革新の加速と消費者体験のレベル向上に繋がるとの持論を展開。同氏は2008年から2009年の景気後退の際に、4GLTEの進展や、スマートフォンの普及などの技術革新が起こり、産業そして生活者の体験が大きく変わった過去について触れた。
そして、2023年においてウォール・ストリート・ジャーナルの調査ではエコノミストの60%が今年中に景気後退に陥るとの予測から、2009年と同様の大きな技術革新が起こると予測。また、その兆しを知るには、5Gが手がかりになるとも。
さらに今後10年で見ると、そこで起こる企業の技術革新は2つのフェーズに分類されるという。ひとつがDX(デジタル・トランスフォーメーション)、もうひとつがWeb3とメタバースの可能性だ。
メタバースの可能性を拓く「仮想化」と「没入感」
Steve氏は、メタバースが投機的な言葉であることを認めた上で、1990年代初頭のインターネット黎明期と重ね合わせ、メタバースというトレンドの周辺に、正当なマテリアルが形成され始めていると主張している。ひとつは、技術革新であり、2つめがビジネス戦略であるとのことだ。CESはこのようなメタバースの周辺に起きている予兆は非常に重要だと捉えており、メタバースは、MoT(Metaverse of Things)であるということを発表した。
またSteve氏は、メタバースには2つの領域があり、ひとつが「仮想化」であり、もうひとつが「没入感」であると解説した。仮想化とは、3Dのインタラクティブな空間で、ノートPCやタブレット、スマートフォンからアクセスできること。そして没入感は、多くの企業が没入感に関わる技術を開発し、デジタルツインやシミュレーション、コラボレーション、共有体験について取り組みCES内でいくついかのイノベーションに触れられるという。
新興技術とスタートアップが主役
MoTという大きな概念を発信したCTAだが、他にも注目の領域として、ヘルスケア分野、農業分野、サスティナビリティ・ESG分野が注目の領域だと説明。そして、これらの新しい領域でのイノベーションは大企業からではなくスタートアップから生まれるものであり、CESはその発表の場を作っているとのこと。大企業はこうした企業とトレンドに注目することが重要であると主張していた。
プレスカンファレンス初日から、非常に新しい概念を発表したCES。新しい製品プロダクトではなく、Web3に代表される新しい潮流を米国はどのように発信するのか?筆者は注目したいと思う。
森 直樹氏
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター
エクスペリエンスデザイン部長/クリエーティブディレクター
光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。
【CES2023レポート】
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