より多くの人へ効率よく伝え、より伝わりやすい表現を実現する広告産業には、可能性もある一方、さまざまな問題があることも指摘されています。広告産業はどこへ向かっていくべきか。
予防医学研究者・医学博士の石川善樹氏は、「『国内のウェルビーイング実感』を改善できるかどうかを、広告産業の重要なKPIに位置付けてみたい」と話します。
――「広告産業(広告会社)」と聞いて、どのようなイメージを持ちますか。昨今、広告産業に関して、気になる話題やニュースはありますか
石川善樹氏 デジタル化の進展や、メディアの多様化によって、広告産業のすそ野がとんでもなく広がっているように感じます。ゆえに、もはやどこまでが広告産業なのか、イメージが持ちにくい時代だと思います。
だからこそ、旧来型の広告会社は象徴的なイメージとして良くも悪くも目立ちやすいのだと思います。あえて挙げるまでもなく、2022年はそのような広告会社にとって、世間が大変厳しい目を向けた年でした。
また、そのような厳しい目を払しょくすべく、迅速な方針を打ち出せなかったことも気になりました。
――「広告産業」は、変わるべきでしょうか
石川氏 狭い意味での旧来型の広告産業は、非連続的な変化が求められると考えます。それは表現やコミュニケーションの改革ということではなく、「社会における旧来型の広告産業の存在価値」について、世間からのイメージを改革しなければならないと思います。
言い換えると、「旧来型の広告産業はどのような社会価値を生み出していますか?」という問いについて、まずは広告人が共通見解を持つことから始めるということかもしれません。
――「広告産業」を使いこなせる側に立つとしたら、どんなふうに使ってみたいですか
石川氏 日本の課題をウェルビーイングという視点で眺めると、「将来の生活に対する希望が絶望的にない」ことが気になっています(世界ランキングで120位以下)。もちろん、今の生活に対する自己評価も国際的にみると低い(世界ランキングで60位以下)のでそちらも重要な課題です。
何を言っているかというと、結果として、「国内のウェルビーイング実感」を改善できるかどうかを、広告産業の重要なKPIに位置付けてみたいと思います。
――発信者や受信者、それらをつなぐ媒体や伝搬される表現と、広く社会とコミュニケーションを見渡し、いま課題だと思われること、気になっていることがありましたら、ぜひお聞かせください
石川氏 いま、デジタルの台頭によって、広告産業だけでなくコミュニケーションの在りようが広がりを見せています。それゆえに、「よい表現/コミュニケーションであったかどうかを、私たちはどのように評価するのか?」について、専門家だけでなく、一般市民も含めて倫理的な指針/行動が求められていると思います。