広告事業に力を入れる姿勢が見えた、Amazonの展示
Amazonのボイスアシスタントが、利用者のプライバシーを守りながら音声一つで、例えば家の近くの今夜の天気を教えてくれたり、いま自分が運転している場所から近いオススメのレストランを提案してくれたりするのであれば、人々にとってこんな便利なことはありません。Amazonが日常のあらゆるシーンにいても特に問題はないのです。もちろん、そのような行動様式がじわじわと広がる中、ターゲットにアプローチしたい広告主にとってみれば注意を払わないわけにはいきません。
以前シアトルのAmazon本社を訪問した際に、「Amazonは今後広告にも力を入れていきたい」という話を聞きました。そして実際にAmazonのプラットフォーム内での検索連動やディスプレイなどの広告枠だけでなく、Amazonのオーディエンスデータを使ってAmazon外で広告配信ができるAmazon DSPなども用意され、いま、広告主がデジタル広告をプランニングする際に、GoogleやFacebookにならぶ新たな選択肢になっています。
しかもAmazon Adsは、広告の出発地点から最終目的地までAmazonの管理下にあります。ターゲットが最初に見る広告も、その後クリックして最終的に商品を購入するページもAmazonの管轄です。広告主にとってみれば、ターゲットは最終的に購入してくれたのかが一番気になるわけですから、購入の有無をベースに広告の評価を行うことができます。
しかし、TikTokが自社プラットフォームで商品を購入できる仕組みを取り入れたり、FacebookがShopifyと連動したりして、他社でもアトリビューションの測定をすることは理論上可能ですので、これだけでは圧倒的な強みとは言えないかもしれません。
またマーケターにとっては広告のリーチ最大化はいまも優先事項が高いもの。それゆえ、リーチ力のある広告手段を選択することも考えられます。ただ、日常のあらゆる場面で接点を持ちうるAmazonの広告事業を見ていると、このリーチ最大化の考え方自体も、変わってくるように感じました。その具体例が、Amazon Adsの展示で紹介されていました。
Alexaを使った広告の具体例を、Alexaに教えてもらう
Amazon Adsの展示場にいるスタッフに、「Amazonならではのオーディオ広告の具体例を教えてほしい」と聞いたところ、Amazon Echoの前まで連れて行ってくれて、「Alexa、オーディオ広告の具体例を教えて」とEchoに話しかけました。するとAlexaが「どのカテゴリーの事例ですか?」と聞くので、スタッフは「コンシューマー・パッケージド・グッズ(消費者向けパッケージ商品)」と一言。するとAlexaが事例を話し始めたのです。
「お母さんがキッチンでAmazon Echoを通してAmazon Musicの音楽を聴きながら料理をしています。(無料サービスの利用のため)曲のあとにシャンプーの広告が流れます。(この後シャンプーの広告がラジオ番組のDJが話すようにAlexaの声で紹介される)これを聞いた後お母さんが、その商品を気に入ったので『Alexa、今の商品購入しておいて』と言います。Alexaは『分かりました』と言って購入を進めます」。
以上がAlexaによる、Alexaを使ったオーディオ広告の具体例の紹介です。この何気ないキッチンでのワンシーンが、今後どのくらいのリアリティを持つものになるでしょうか。近い将来、Amazon Echoを通してAmazon Musicを聞いていないかもしれません。しかし、SAMSUNGの冷蔵庫に搭載されたAlexaが、キッチンで料理をつくるお母さんやお父さんのためにAmazon Musicを流す日はきっと来るでしょう。Alexaを搭載したGEの洗濯機が、洗濯中に同じようなやりとりをする日もきっと来るでしょうし、リビングのPanasonicのテレビでPrime Videoを見ているときに同じようなやりとりをする日もきっと来るでしょう。そうした時に、広告はいったいどんな形になっているのか、それに向けてどんな準備をしないといけないのかを、マーケティング・広告関係者は考えはじめなければならない時なのかもしれません。
玉井博久
Glico Asia Pacific Regional Creative & Digital Senior Manager 兼 江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャー
広告会社のクリエイティブを経て、広告主のブランド構築に携わる。シンガポール在住。現在江崎グリコで全世界のポッキーの広告を統括。カンヌライオンズなど受賞多数。宣伝会議「カンヌセミナー」「メタバース基礎講座」「TikTokスタートアップセミナー」「オリエンテーション基礎講座」など複数の教育講座の講師を務める。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。