顧客との接点を「多様化、多層化、多面化」でつくる講談社のメディアビジネス戦略

2023年のメディアトピックスとして「VOCE25周年」「ViVi40周年」「新生with事業」「多角化する現代ビジネス」「強力なIPと他メディアへの拡張」「新規ビジネス開発」を挙げる講談社。さらに、クライアントとの接点を「多様化・多層化・多面化」する戦略を打ち出す。2015年以降、広告メディア事業においても出版広告の再発明、DXを推進してきた講談社。今日においてはデジタル広告収入の比率が7割を超える。講談社が思い描く出版広告、ビジネスイベントの将来像とは?講談社のミライ構想が盛り込まれた10月開催の「講談社メディアカンファレンス2022」を振り返りながら、ライツ・メディアビジネス局次長兼メディアビジネス部長の佐藤栄氏に今後の展開を聞く。

2022年10月26日に東京會舘にて開催された「講談社メディアカンファレンス2022」の会場の様子。

ハイブリッド型のイベントで「過去・現在・未来」を俯瞰する

講談社は2022年10月26日、東京・丸の内にある東京會舘にてリアルイベント「講談社メディアカンファレンス2022」を開催した。当日は招待者、主催者合わせて約1000名が参加をし、広告界では久しぶりのリアルな交流の場に多くの人が集った。また11月22日には、ライブと収録動画配信を組み合わせたオンラインイベントも開催された。

2022年のカンファレンスのテーマは「Inspire Impossible Stories~語ろう。メディアのミライ」。1909年の創業以来、同社は「おもしろくて、ためになる」を社の理念としてきた。その精神を英語で表現したパーパスが「Inspire Impossible Stories」だ。また「過去」を顕彰する「メディアアワード2022」、「今」をつなげる「KMCビジネスハングアウト」、「未来」を語る「ミライトーク」の3つの柱で「過去・現在・未来」を俯瞰するという試みで企画された。

「講談社メディアアワード」は、優れた広告企画を顕彰するもので、今年は8本の企画が受賞している。「講談社メディアアワード」は前身である「読者が選ぶ・講談社広告賞」から数えると、通算で43回目の開催だ。「メディアカンファレンス2022」では、受賞企画の発表ならびに贈賞が行われた。
また「KMCビジネスハングアウト」は、参加者同士の交流の場で、贈賞式の後に開催された。

「KMCビジネスハングアウト」では「講談社メディアアワード」の受賞企画のひとつである、『進撃の巨人』と進撃の日田まちおこし協議会のコラボ企画について解説する、アワードの審査員の一人であるバービーさんも登壇してのミニセッションも開催された。

【参考】「講談社メディアアワード2022」贈賞式を開催 8本の受賞企画が発表に

約1000名が参加でリアルイベントを開催、オンラインイベントも実施

前述の「KMCビジネスハングアウト」は完全招待制イベントとして開催され、全体のうち、約8割が広告主、広告会社で占められた。リアルでのイベント実施を決めた背景について、主催者を代表して佐藤氏は「開催を決めた2022年の8月はちょうどコロナ禍第7波の最中だったので、リアルイベントの開催か否かは難しい決断だった。しかし、多くのクライアントから『リアルで会いたい』という声が寄せられていたこと。また2021年はメディアアワードの贈賞式のみリアルで開催したが、審査員や受賞者が語る熱いコメントはなかなかオンラインでは視聴者に伝えることは難しいと感じたこと。さらに講談社が考えるウィズコロナ時代の新しい価値を提案したかったという3点がリアルイベントの開催に踏み切った理由」と語る。

一方で、11月22日からはリアルイベントの様子のサマリーの他、「ミライトーク」と題するトークセッションも配信。アーカイブ配信は1月末まで視聴ができるため今後変動する可能性があるが、現時点での視聴登録数は約1000名を超えている。ハイブリッドでの開催とすることで、より多くの人が参加できるイベントの実施スタイルも見えてきたという。

オンラインでの配信においてもVRを活用するなど、最先端のテクノロジーを体感できる内容となった。

「出版の再発明」のその先に。半歩先の“ミライ”を見せたい 

講談社は2015年、野間省伸社長が「出版の再発明」を宣言して以降、全社をあげて大規模な組織再編を行ってきた。出版広告においても従来の広告枠セールスから“コンテンツ基点のソリューション”へシフトして出版広告のDXを加速させてきた。

そして「講談社メディアカンファレンス2022」も時代に合わせて当イベントの意味合いを模索しながらも、ベースとなるのは「出版社メディアの価値を再編」という視点だ、と佐藤氏は語る。「出版メディアの価値を見直し、さらに外部のパートナーの方たちの協力を得ながら、いかに共創という形で新たな価値を作っていけるかが問われている。今回のメディアカンファレンスにおいても、そうした戦略が強く打ち出すことができたと思う」。

「KMCビジネスハングアウト」の開催に先立ち、挨拶をする講談社の野間省伸社長。

今回の「KMCビジネスハングアウト」には、講談社と協力関係にあるパートナー各社も出展。NFTやVRなど、今話題のWeb3の世界観や、コミュニケーション技術を体感できるブースも設けられた。

佐藤氏は「出版社の編集者のアイデアやクリエイティビティは『半歩先に行く』『記号化していく』ことが大事で、それに共鳴してコミュニティ化する読者という構造になっていて、これをどうやってビジネス的にも可視化していくのか、ショーケースのような役割を担っているのがメディアカンファレンスの意義」だとも述べる。「カンファレンスを開催することによって『出版社や雑誌社と共創すること』や『IPやコンテンツは楽しい』とメディアプランナーやマーケティング担当者の方々、クリエイターの人たちに伝えることができれば」と話す。

また「講談社メディアカンファレンス」の意義を「講談社や雑誌メディアの現状を見せることにより、ビジネスヒントとして何か持ち帰っていただけるものを提示したいと考えてきた。社内向けには、総合出版社であると同時にコンテンツメーカ―である講談社の戦場が拡大している姿を体系的に整理するという意味合いもある。さらにイベントを通じてクライアントの皆様が当社に興味を持ってもらい、出版社が本来得意な中長期的に消費者との良好な関係を築いていくコンテンツを共創していく形のビジネスを行っていくきっかけにもしていきたい」と語る。

会場にはNFTやVRなどの最先端の技術を体感できるブースも。

コンテンツホルダーの異業種格闘技戦をパートナーとの共創で戦いたい

メディアビジネスの世界に目を向けると、マスメディア由来とインターネット由来の多種多様なコンテンツホルダーがひしめきあい、コンテンツホルダー同士の異業種格闘技戦の様相を呈しているのが今の状況だ。
過渡期にある今、「講談社メディアカンファレンス」の開催を通じて、佐藤氏は出版社や講談社の役割についてどのように感じたのであろうか。「講談社のパーパスである『Inspire Impossible Stories』を体現するコンテンツを読者・消費者・ユーザーに提供すれば、格闘技戦であってもそれにふさわしい盾と矛が作れると感じている。また講談社が持っている『ビジネスパートナーと一緒にやっていく力』で一緒に戦っていけたらいいと思っている」と語る。

さらに佐藤氏は、同社を取り巻く広告ビジネスの状況の中で最近の傾向として「コロナ禍を経て社内のメンバーが、よりクライアントの広告活動やプロモーション活動を経営視点で見ることができるようになったと感じている。これはクライアント側が広告コミュニケーションにおいても、ビジネスパートナーとしてふさわしい提案ができるかどうかをシビアに見ているからだと思う。これまで以上に、出版社ならではの企画力を持って経営に資する提案をしていきたい」と話す。

顧客接点を「多様化、多層化、多面化」でつくり、最適なサービスを提供したい

2023年の展望について、佐藤氏は顧客との接点を「多様化、多層化、多面化して最適な形でサービスを提供したい」と語る。
「多様化についてはあくまでもコンテンツ基点で、単なる広告取引だけではなく、協業や事業にまで進化させていくような取り組みをご一緒に行っていきたいということ。2021年の『メディアアワード』で受賞もしている『FRaU』発のプロジェクト「JAXURY(Japan’s Authentic Luxury)」などが好例。これは日本ならではの美意識によるラグジュアリーな「もの」「こと」「サービス」を深掘りしていく産・学・メディアの協同プロジェクトで雑誌の枠にとどまらない活動になっている。
多層化については、あくまでもクライアント視点に立ち、1つの案件・プロジェクトであっても広告発想だけにとらわれずに、クライアント様の課題解決や世の中ごとにしていくための様々な仕掛けや要素を提案していきたいということ。講談社の資源を最大限活用しうる複合的なプランニング力をさらに強化させたいと考えている。多面化では、短期のプロモーションだけではなく、消費者とのLTVを伸ばしていただくために、弊社のポテンシャルをフルに、そして中長期的に使っていただくということ。中長期的に成長するそれに対応した新しいサービスを提供していく」という。

これらの方針が具体化した機能として、メディア・広告枠の概念にとらわれない、コンテンツマーケティングを軸とした課題解決型コンサルティングサービスの「KiisS(キーズ)」を新たに発足。すでに稼働している、自社メディアの読者コミュニティと共にマーケティングリサーチや調査・分析・発信を行うコミュニティ活用調査分析サービス「MCL(講談社メディア・コミュニティ・ラボ)」、デジタルマーケティングサービス「OTAKAD(オタカド)」を加えて三本柱となった。そしてこれらの新たなソリューションの提供を通して目指すのは、クライアントにとってクリエイティブパートナー、マーケティングパートナー、メディアパートナーのいずれでも貢献できうる存在になることだ。
佐藤氏は「まだまだ道半ば。それぞれの分野を得意とするパートナーと組み実例を出していきたい」と結んだ。

講談社 ライツ・メディアビジネス局 メディアビジネス部 局次長兼部長 佐藤栄氏。

「講談社メディアカンファレンス2022」
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