講談社は12月、2018年に滋賀県で起きた娘が母を殺害した事件を題材とするノンフィクション『母という呪縛 娘という牢獄』(著:齊藤彩)を刊行した。著者の齊藤彩さんは司法記者出身で、発売1カ月弱で重版となった。
装丁と装画を手がけたのは、城井文平さん。悲しく凄惨な事件を扱う内容だが「尊い愛の本」のような佇まいにこだわった。「お話をもらった時、このような事件と悲しくつらい母娘関係が実際にあったとは信じられませんでした。“これからを生きる主人公(娘)の励みになれば”と、丁寧に真摯に本づくりに取り組む担当編集者の姿勢に応えたいと思いました」(城井さん)。
カバーの紙は、凹凸のある手触りが印象的なグレーのタントを使用。愛憎の間でゆらぐ情感を表した。グレーと黒の文字が新聞紙のように見え、事件のセンセーショナルさを想起させる。タイトルはオーソドックスな活字らしい書体をセレクト。余白を広く取り切実さや尊さを表した。
ノンフィクションの場合、写真や実際の資料を用いた装丁が多いが、今回はイメージを飛躍させたイラストを主体とした。縦に細長く伸びた母娘は、2人が過ごした時間の長さと閉ざされた空間のよう。毒を思わせる鮮やかな紫と、紫と色相的に近い関係にあるピンクを組み合わせた。ぴったりとくっつき抱き合う2人は互いを愛しんでいるようにも締め付け合っているようにも見える。下部の溶け合い混ざり合う水面のようなゆらめきは、絵を水に浸して写真を撮り、その写真を基に描いた。
本文は地の文、判決文、手記や日記、LINEのやりとりなどが混在している。読みやすさを保ちつつ明快に区別するため、明朝体、ゴシック体、ペン字体を使い分け、字下げのルールを設けた。著者や担当編集者の真摯な姿勢に応えよう、当事者のためにつくろう、という想いが先行し、「書店店頭で映えるか」「類書との差別化」といったところには思考が至らなかった。
「本の装丁は複雑な感情を表現し、時にネガティブな内容であっても魅力になり得る、豊かな表現の場だと思います。自分の親子関係に思いを馳せるきっかけや、誰かにとっての救いになれば幸いです」(城井さん)。
スタッフリスト
- 装丁+装画
- 城井文平
月刊『ブレーン』2023年3月号
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