※本記事は月刊『宣伝会議』2023年3月号からの転載記事です。
クリエーティブディレクター/CMプランナー
山本友和氏
大学院で爆薬を研究後、なぜか電通に入社。7年間の営業局勤務後、CRに転向。ENEOS新車のサブスク「やさしいクルマの持ち方」、鏡月Green「たのしいお酒がいいお酒」、P&G「レノアリセットの罪」、すごい納豆「バレンタイン納豆」、ダイハツ「WAKE兄弟」、午後の紅茶「あいたいって、あたためたいだ。」、日本生命「父は、何があってもキミの父です。」、KAGOME「高性能爆薬でつくる野菜ジュース」など。
公募に応募する理由は2つ 「受賞」か「学び」か
―「宣伝会議賞」にはどのように取り組まれていましたか。
私は新卒で広告会社に入社し、営業局に配属されましたが、クリエイティブ局への転局を目指して「宣伝会議賞」に毎年取り組んでいました。異動後も含めると7~8年間ですかね。最高は二次審査通過だったと思います。
「宣伝会議賞」をはじめ、公募に応募する理由は2つあって、ひとつは「賞や賞金が欲しいから」。そしてもうひとつが、「勉強になるから」でした。そう考えると「宣伝会議賞」は応募数が非常に多いので、受賞を目指そうとするとコストパフォーマンスもタイムパフォーマンスも、正直全くよくないんです(笑)。ただ、勉強になるという視点では、コスパもタイパも非常に良い。私自身は、修行だと思いながら、すべての協賛企業の課題に取り組みました。
受賞することは本当に素晴らしいことで、目指すべき場所。だけど応募総数が60万通以上に及ぶなかで、多くは壁を超えることができない。だからまず、自分のコピーの腕を磨く場として活用するのがよいと思います。
―応募に際して質と量は、どちらを優先したらよいでしょう。
応募者の方の目的とフェーズに拠ると思います。コピーをはじめとするクリエイティブの仕事は、たくさんのアイデアから選び取る能力が重要です。審査をしていて、私の場合は、「てにをは」などの微妙な差や、似た表現のものが並んでいると票を入れづらい。だから、きちんと選び抜いて提出した方がよいというのは真理だと思います。
一方で、矛盾するようですが、公募の場合は、その選ぶ作業をせずに応募できるのが特徴でもあります。だから、とにかくいろいろなパターンを提出してみる。何が通って、何が通らないのか。差分を確認できるという意味で、これほどまでに勉強になる機会はないなと思います。まずは手を動かさないと、コピーもプランニングもうまくなりません。
『新しいことは強い』人の心をざわつかせるコピー
― 一次審査を終えられて、いかがでしたか。
よく言われていることですが、大切なのは「そのコピーがあることで、クライアントが達成したい目的に向けて、人の心を動かすことができているか」。宣伝会議賞の一次審査の場合はもう少しハードルを下げて、「人の心を動かしているか」という視点で見ています。
多くのコピーを審査していくなかで、切り口や視点が新しいものが、ほぼ直感で浮かびあがって見えてきます。新しいものは、つまり“当たり前じゃないもの”なので、人の心がザワっと動くんです。
私は一次審査通過の講評に毎年「新しいことは強いことだ」と、ほぼ同じ内容を書いているのですが、これは手を抜いているわけではなくて、どんな時でも不変なものだからです。
―山本さん自身はどのようなことを大切にしていますか。
コピーを考えるための方法はたくさんあると思いますが、とにかくたくさんのフィルターを持つことが大切です。人、場所、時代と、視点をひたすらぐるぐると変えて、フィルターをかけて、課題と向き合う。生み出す段階で、簡単にできた気にならないよう、自分のなかである程度高いハードルを持つことは重要です。
また、「宣伝会議賞」が実務と大きく異なるのは、クライアントと直接会話ができないこと。逆に「オープンな情報と限られたオリエンから、どんな解釈をしてもよい」と気楽に考えるのも大事です。せっかくの公募ですから、生活者視点じゃないと出てこない言葉を見つけてほしいと思います。
新しい考えや価値観を持って飛び込むチャンス
― 一次審査の通過結果を受けて、今やるべきことはありますか。
自分の経験を振り返ると、「悔しい」という気持ちは大事にした方がよいと思います。この後の二次審査とか『、SKAT.』で通過した作品が分かった段階で、具体的な課題はハッキリしてくると思うので、まずはそれまで、「次は絶対載ってやる」という気持ちを持ち続ける。 それから、その悔しさを増幅させるために、ライバルを見つけるのもよい方法かもしれません。SNSやリアルの知り合いでも、たくさん作品が通過していて、よく名前を見かける人でも。
「宣伝会議賞」をきっかけに新しいフィールドに踏み出す気持ちがあるのなら、とにかくじたばたすることが必要です。本を読んだり、講座を受けたり、クリエイターの方の話を聞いたり、コピーを書いて売り込んだり。新聞広告賞やラジオCMなど、他の公募に参加するのもおすすめです。目立つし、チャンスにつながると思います。
―これからコピーライターを目指す人たちに向けて、アドバイスをお願いします。
いま、メディア環境や消費者の価値観が大きく変わっています。これにより、いわゆる“炎上案件”に限らず、今までよしとされてきたものが通用しなかったり、逆に、価値が再発見されたりということが起こり始めています。また評価の場としても、広告賞や公募で新たな部門が設立されています。世代を区切ったものや、デジタルメディア、ショート動画の部門などですね。
これは大きなチャンスで、いわばフタが開いた状態だと思うんです。若い世代や、他の業界から、新しい考えや価値観を持って飛び込むポジションが、あちこちにある状態です。
時代やメディア、人に合わせて、コミュニケーションの仕事は必ず新しいものが生まれてきます。そこに対して今までになかった新しいことを始められたら、一気に注目される時代だと思います。
月刊『宣伝会議』2023年3月号
▼特集1
コスパ、タイパだけじゃない!
「ワクワク」する買い物体験を取り戻す!
・進化する店舗体験の今
梅体験専門店「蝶矢」/日本橋 兜町「BANK」/小田急百貨店「SHINJUKU DELISH PARK」/イケア・ジャパン
・『家事ヤロウ!!!』プロデューサーに聞く
番組で放送したくなる「楽しい店」選びの軸
・楽しく商品理解を深めるコミュニケーション
ライオン「by me」/野村アセットマネジメント「お金を育てるゼミナール」
・モノの背景にあるストーリーと購買体験
Minimal – Bean to Bar Chocolate –
・ワクワクする買い物体験はECでもつくれるか?
・「多すぎる選択肢」は買い物体験の満足度にどう影響を与えるのか
▼特別企画
第60回「宣伝会議賞」一次審査通過者発表
・一般部門一次審査通過者一覧
・学生チーム対抗企画結果発表
▼特集2
コネクテッドTVで劇的に変わる!
通信と放送が融合する時代のテレビCM活用
▼シリーズ特集
宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本
ダイレクトマーケティングの心を動かすクリエイティブ