相方不在のジレンマが、講座受講のきっかけに。
―最初に一期生のお二人から自己紹介をお願いします。
石野:コピーライター(以下CW)の石野です。私はもともと人材系の会社で営業職をしていたのですが、学生時代からの憧れもあって宣伝会議のCW養成講座を受けにいったことから制作会社に転職してCWになりました。最近また転職し、現在は博報堂プロダクツにてCWやプランナーとして働いています。
菊野:私は新卒からWEB広告代理店でデザイナーをしており、プランナー・WEB
ディレクターを経て、今はアートディレクター(以下AD)として働いています。
―講座に参加したきっかけを教えてください。
石野:講座に参加を決めた時は、ちょうど営業から転職して制作会社にCWとして入社が決まっていたタイミングでした。まずはCWとして経験を積むことを第一に考えてはいたのですが、若い人が少ない環境だったため、業務以外でも切磋琢磨できるかどうかという不安を少し抱いておりました。特に悩んでいたのが「同世代のデザイナーが近くにいない」という点。自分なりに講座に参加するなどして知り合いを増やす努力はしていたものの、自分と同職種の方とは知り合えてもアート系の方々とは接点が持てず、挑戦できる公募もコピーだけで取り組めるものばかり。遅いCWデビューだった私は、「実績としてグラフィックや企画に関わる賞も欲しい」と考えていたので、この講座をきっかけに相方を見つけ、相方といろんなところに挑戦し、起爆剤になる実績や経験をつかんでいけたらと思いました。
菊野:私も「CWと出会いたい!」という一心で参加を決めました。私自身は高校三年生の時から「ADになりたい」と明確に意思を持って美大に進み、デザイナーとして就職するという道を進んできたのですが、周りにはアート系以外の知り合いが非常に少なかったんです。私は言葉が大の苦手だったのもあり、相方になってくれるCWを社会人一年目から探し続けていましたが、なかなか見つからず……。そんな折に、twitterで尊敬するADの小杉幸一さんがこの講座のことを呟かれていたのを通じてアートとコピーの存在を知り、「これが私の行くべきところだ!」と。ちょうど8年いたweb代理店から新会社のクリエイティブブティックに異動したばかりで、心機一転、新しい自分になるぞと意気込んでいた時でもあったので、締め切り3日前のタイミングで駆け込み応募しました。
講座で0票だった案を、5週間で磨き上げた。
―お二人はアートとコピーでコンビになり、講座終了後に延長戦のようにして毎日広告デザイン賞に挑戦した結果、見事最高賞を受賞されました。講座の経験がどのように賞に繋がったのか、お聞かせください。
菊野:まず、講座で石野さんと組んだ時の課題は、「毎日広告デザイン賞に向けて、フォトグラファーに写真を撮ってもらうためのカンプをつくってください」というものでした。その回の講義ではフォトグラファーが20人集まることになっていて、受講生たちのカンプを見て、「これは撮りたい」と思うものに票を入れてくださるんです。講義の時点ですでに私たちは天塩の課題を選んでおり、コピーも「汗と涙をつくるもの」でしたが、アートとしてはオリンピック選手が日の丸の旗を掲げていて、今とはまったく印象が異なりました。それを出した結果、私と石野さんのカンプは獲得0票。フィードバックのコメントすらいただけず、悔しい思いをしました。
菊野:「絶対にいいコンセプトなのに、なんでだろう?」と思いつつも、9月から11月は最終課題があったり宣伝会議賞があったりと忙しく、しばらくこの案は寝かせていました。もう一度取り組み始めた時には締め切り5週間前になっていました。
石野:再度動き出すきっかけになったのは、私がCW岩崎俊一さんのコピー展に行ったことでした。数々の名コピーを眺めながら、なぜ岩崎さんのコピーにはこんなにも惹かれるんだろうと考えた時に、商品の本質をきちんと捉えた言葉だから響くんだなと改めてわかってきて。だったら「汗と涙をつくるもの」というコピーはそのままでいい、と自信を持てたんです。あとは見せ方を吟味しようと。
―講座で出したラフと、最終的な絵とでは随分変わりましたよね。
石野:はい。最初のラフは、「オリンピック」「ロゴと日の丸をかけている」「塩は体も感情の動かすもの」といくつも要素を詰め込みすぎていたことに気づいたんです。講座でも、「ふたりの自分と組む」という言葉があったのですが、これは「自分の中の主観と客観を行き来しながら考えた方が良い」という教えでした。まさに私たちも、時間を置くことでようやくその客観性を得て、自分たちの案を冷静に見ることができたのだと思います。今回の案ではまず要素を減らし、「塩は体も感情も動かすもの」という一つだけを残して、表現はスポーツに原点回帰しました。
菊野:スポーツに回帰した理由の一つは、私は陸上競技、石野さんはサッカーと、青春時代に打ち込んだスポーツがそれぞれあったことにあります。部活にてそれぞれが経験したシーンとして、「引退試合で負けて悔しい、あの瞬間」が共通の感情として出てきて、この解像度の高いシーンを広告にしていくことに決めました。ただ、ここからがアート生としての苦しみの始まりで、どういう絵にすれば「汗と涙」を主役にできるかは非常に悩みました。講座でも「絵とコピーの距離が近すぎる」「説明的になる」のは良くないと何度も言われていましたので、いかにそうならず、一枚絵で情緒的な表現ができるか。とても難しく、試行錯誤の連続でした。最終的には、自分で「負けたシーン」の再現をしている時に、膝に両手をガックリとついているポーズを下から見上げたら水滴がメインになるんじゃないか?と発見し、ラフをつくって石野さんに共有して進めました。さらに、さまざまな種類のスポーツ経験者に協力をあおぎ、ユニフォームを着てこのポーズの写真を撮ってもらって、それを素材として絵に描き起こして行きました。
石野:広告を見る人がイメージしやすく共感できるスポーツに、という基準で、一つは駅伝、もう一つは甲子園という設定にしました。ただ駅伝の方は駅伝に限らず、見る人自身がやっていた何か他のスポーツを想起していただいても構わないと思っています。とにかく受賞の電話が来た時には信じられず、本当ですか?と何度も聞いてしまいました(笑)。
ここでの出会いがきっかけで、人生が変わっていく。
―改めて、「二人で組む」上で大事なものは何だったと思いますか?
石野:何よりもまず「お互いを知る」ことではないかと思います。お互いの得意不得意を知るのは大前提だと思うので、アートとコピーの最初に出したポートフォリオは穴が開くほど読み込みました。また、組んでからはどうやって距離を詰めていくかを私は意識しました。あくまでも自分の場合ですが、自分の方が年下でもタメ語を使わせてもらったり、課題と関係のないプライベートな話もオープンに話すようにしたりしていました。
菊野:私はこの講座で何度も話されていた「目的の解像度を上げる」という言葉が印象に残っていて、石野さんと組んだ時も、たくさん話をする中で同じ目標を二人でしっかり見ることができたから良い形で前に進めたのではないかと思います。あとデザイナーとしては「ラフで決まる」という言葉も肝に銘じています。ついつい「ラフは微妙でも、ちゃんとつくればいいものになるよね」と思ってしまうのですが、それは大体勘違い。ラフの段階で微妙なものはいくら詰めても「しっかりと作り込んだ微妙なもの」にしかならないなということを痛感しました。
―卒業後に何か変化はありましたか?
石野:毎日広告デザイン賞で最高賞を獲り、さらに他のコンペにも入選を果たせたことで、転職につながったのが一番大きな変化です。講座で出会った仲間とは実務でもご一緒したり、今でもいろいろな活動ができていると感じます。
菊野:私も最高賞が獲れたことで、会社からヤングクリエイティブアジェンダというマーケティングのカンファレンスに参加させてもらうことができて、そこでも優秀賞を受賞することできました。同期とは今でも飲むし、仕事も一緒にするし、SNSでも絡むしと日々つながっています。本当に大切な存在です。
―最後に、この講座をどんな人に受けてもらいたいですか?
石野:まず、相方が欲しい人は間違いなく受けた方がいいと思いますが、そうでなくても何かの“きっかけ”が欲しい人であれば、受講することで掴めるものがあると思います。私の場合はダイレクトに転職のきっかけになりましたが、同期たちもここでの縁から展示の企画が始まったり、仕事を一緒にしていたり、リファラル採用につながったりと、人生にさまざまな変化が起きているように感じます。
菊野:たとえるなら、「ピン芸人に限界を感じていて、コンビを組みたい」人におすすめです。力はあるはずなんだけど、一人ではうまくいかなかったり、100%の力を出しきれていない人はたくさんいるのではないでしょうか。また、同じ相手との出会いでも、他の場で出会うのと、アートとコピーという場で出会うのはちょっと違うようにも思います。この講座で実際に組むこと、そして何より集まる同期のみんなから受ける刺激があってこそ、出会いが成果に結びつきやすくなるのではないかと思っています。
石野 亮真 (博報堂プロダクツ コピーライター、プランナー/アートとコピー第1期コピー生)
中央大学文学部卒業。大手人材会社で営業として過ごすも、「ちがうちがうそうじゃない」と思い立ち、コピーライター養成講座の基礎コースと叩き上げコースを受講。熱意と微々たるセンスを買ってもらって2021年に広告制作会社へ転職した後、賞の受賞をきっかけに2023年に博報堂プロダクツへ入社。コピーライター/インタラクティブプランナーとして奮闘中。高円寺が好き。札幌ADC Annual Competition & Award 2020-2021 入選、第89回毎日広告デザイン賞 最高賞、2019年M-1グランプリ出場。
菊野 くるみ(GMO NIKKO・ゼロイチ アートディレクター/アートとコピー第1期アート生)
1989年埼玉県浦和生まれ。モノづくり好きなため武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科にてテキスタイルを学ぶも、広告クリエイティブがやりたくて視覚伝達デザイン学科にて卒業。広告代理店 GMO NIKKO/クリエイティブブティック ゼロイチでは、プロモーションやブランディングなどのプランニング・アートディレクションを、広告のワクを超えて手がける。WEBも紙も好き。毎日新聞広告デザイン賞最高賞。
広告業界を超えて活躍する、最強のコンビを、ここから。
コピーライター養成講座×アートディレクター養成講座
「アートとコピー」コース 阿部広太郎クラス
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