今回はTBSラジオ「ハライチのターン!」を取材。お笑いコンビ「ハライチ」の岩井勇気さんと澤部佑さんがパーソナリティーを務める同番組は、毎週木曜の深夜0時〜1時の放送。番組の魅力のひとつが、「広告なのに面白い」企業コラボコーナーだ。
この広告企画には、嫌われ者になりつつあるとも言われる広告が生活者に受け入れられるためのヒントがあるのではないか。そんな仮説を持って、広告営業を担当するTBSラジオUXビジネス局アカウントマネージメント一部の阿部千聡さんとTBS GLOWDIAイベントラジオ事業本部ラジオ制作部副部長で、「ハライチのターン!」のプロデューサーも務める宮嵜守史さんに、インタビューを行いました。
前篇では、「ハライチのターン!」独自のコラボ企画が生まれた背景に迫りました。後篇の本記事では、リスナーを巻き込みSNSでも盛り上がった“神回”の放送の舞台裏を聞きます。
※本取材の企画・取材・執筆は葉いずみが、また取材は櫻井恵、野崎佳奈子、山川凱生が担当しました。
スポンサーのラジオへの理解が、「神回」コラボを生む
――ぺんてるさんとのコラボで実現した「ボールペンあるある」のコーナーが面白く、個人的に“神回”だと思っています。コラボコーナーの内容はどのように決めているのでしょうか。
2022年10月6日から3週にわたり「ボールペンを使い切れたこと、人生で1、2回」「三色ボールペンを一気に出そうとして詰まらせがち」など、ボールペンあるあるを募集。採用者には、岩井さんのネタの評価に応じた本数だけ、ぺんてる一押しのボールペンである「エナージェル」がプレゼントされました。
番組に用意された「エナージェル」は100本。しかし澤部さんに煽られた「2代目バカ社長(自称)」の岩井さんは、1週目で62本もプレゼントしてしまいます。そこで「ぺんてるさん、おかわり!」と「追いエナージェル」を要求すると、50本追加してくれました。
残り88本のエナージェル。これであと2週乗り切れるか、と思いきや、煽られるとつい熱くなってしまう岩井社長はまた大盤振る舞い。2週目にして手持ちエナージェルを全て放出します。コーナー存続の危機に陥った最終週、果たしてどうなってしまうのでしょうか。
宮嵜:コーナー決定の経緯はケースバイケースですが、ぺんてるさんの場合で説明しますね。まず、ハライチは「あるあるネタ」が好きなので、このネタだと絶対に面白くなる確信がありました。
ただ、ぺんてるさんが当時、推していた商品である「エナージェル」限定の“あるある”を募集しても、リスナーにとってハードルが高い。そう考えていたところ、ぺんてるさんから「『エナージェル』の話だけをしなくてもいい。ボールペンそのものに注目してもらうことが目的なので、たとえ他社のボールペンの話をしてもかまわない」とおっしゃっていただきました。そこで、広くボールペンネタの“あるある”を募集することになったのです。
阿部:一方で、番組中に流れるぺんてるさんのCMは、「エナージェル」のPRに徹することで、全体のバランスを取りました。
宮嵜:投稿しやすいテーマだったため、コラボコーナー史上最多の投稿がありました。さらに、ぺんてるさんのラジオに対する理解とフットワークの軽さもあり、リスナーの皆さんと大いに盛り上がりました。
「追いエナージェル」の要求はもちろん台本になく、流れで決まったもの。ただ実は、ぺんてるさんは気前が良いから、追加のボールペンをくれるかも…、という気持ちは当初から僕の中にありました。
一方で、岩井君が追加の「エナージェル」を欲しがるだろうことも予想していたので、わざわざ指示するのも野暮だし、ミスリードを招きうる。だから僕の心の中だけに留めていました。この、出演者とスタッフの気持ちの重ね合いで番組を進めるラジオの魅力が、この回は見事にはまったのだと思います。
阿部:ぺんてるさんは、番組のことをすごく信頼してくださっていて、スポンサー契約のマスト条件も少なかった。このように自由度が高い方が、ラジオのトークバラエティだと盛り上がりやすいと思います。
「バズらせる」は目的にしない
――大塚食品の「マイクロマジック」のコラボ企画も面白かったです。
2021年8月12日の放送回で、岩井さんが昔好きだったフライドポテト「マイクロマジック」を食べながら放送したいと言い出します。しかし、現在はなかなか売っておらず、翌週の収録に用意できませんでした。そこに製造元の大塚食品から「送りましょうか?」とメールが。しかしスポンサーではない企業からの商品提供を嫌がる岩井さんは「企業から贈られたマイクロマジックは『養殖』だ!」と断固拒否。「店で生きる『天然』マイクロマジックを自力で見つけよう!」と、リスナーにマイクロマジックを探すよう呼びかけます。
すると翌々週、急遽大塚食品がスポンサーに。マイクロマジックの差し入れもしてくれました。岩井さんは手のひらを返してペコペコしますが、それでも「養殖」は食べないと依然拒否。そこで再び「天然」マイクロマジックをリスナーに「捕獲」してもらうことに。そして、その証拠写真に「#天然マイクロマジック」と付け、翌週の放送で合図とともにTwitterに投稿する、SNSの海への「天然マイクロマジック稚魚放流スペシャル」を実施するのでした。
――この回は、SNSも含めて大きく盛り上がりました。SNS展開の流れは、どの段階で決まったのですか。
宮嵜:トーク内で「マイクロマジック」が出てきたことから、大塚食品さんにアプローチをし、その際にSNS展開も提案しました。
これは、写真と共に「『マイクロマジック』が近所のお店にあった」とツイートするリスナーがいたことから着想を得ました。
ただ、コロナ禍だったこともあり、外出を推奨することも憚られますし、小売店に迷惑がかかってはいけないため、番組内では「お店で『マイクロマジック』を買って写真を撮って」とは明言せず、代わりに「捕獲」と言うのはどうか、と思いつきました。それを大塚食品さんに提案して採用されました。ハライチにもそれを説明し、面白いね、やろうと実施に至ったのです。
阿部:ただ、こうしたSNS展開提案の際に「バズりますよ!」とは言わないようにしています。わざとバズらせようとしても、その姿勢がリスナーにバレてしまいますし、そもそも確約もできないからです。
宮嵜:バズらせることを目的にすると、大体失敗しますよね。面白いからリスナーが増え、スポンサーがついて番組も長続きする。制作側の第一の目的はリスナーに面白いと思ってもらうことです。だから「バズったけど面白くない」より、「バズらなかったけど面白い」の方がよいと考えています。
この企画は大塚食品さんに喜んでいただき、当初、番組タイアップ期間は1カ月でしたが、その後5カ月間にわたりCM枠に出稿をいただきました。
ラジオ局のビジネス的な話をしてしまうと、本来の広告営業の理想はSNS展開やコラボコーナーなどなくても、番組のCM枠に出稿いただく単純提供が増えることです。ただ、そんなメディアビジネスのかつての常識はもう通用しないこともわかっている。だからこそ、広告とそれ以外の部分をいかにシームレスにつなげて面白がってもらえるのか、考えていく必要があると思っています。
――今後の展望を教えてください。
阿部:番組の魅力をより正確に企業の方々に伝え、「タイアップしてよかった」と思ってもらえる企画を形にすることです。その実現には番組制作メンバーの知恵を借りつつ、広告と番組の適切なマッチングをする必要があります。
宮嵜:ラジオはテレビ以上に番組ごとに性格があります。それは、ラジオはパーソナリティーの個性が色濃く出るから。テレビだと番組と出演者のかかわりは部分的ですが、ラジオの場合、パーソナリティーが全面的に企画にかかわっており、まさに“薄皮饅頭”のように、番組の際の際までパーソナリティーの個性が詰まっています。
それゆえ広告の内容によって番組に合う、合わないの差が如実に出る。企業が求めることと、番組の特性をマッチングすることが、我々が第一歩として尽力すべきことだと考えています。