【前回コラム】評価軸を理解して競合プレゼンに勝つ
競合プレゼンを勝ち抜く評価のポイント
前回のコラムに続き、競合プレゼンの評価軸について書いていきます。クライアントは競合プレゼンというプロセスを通じていかにパートナーを決定していくのか。前回コラムはこちらをご覧ください。
競合プレゼンの評価項目として挙げた以下3つの大項目には、さらに細分化された小項目が複数設定されており、それぞれに得点が配分されます。
小項目はそのプロジェクトに応じて様々な項目が設定されますが、今回は各大項目で「何を評価しようとしているのか」を確認していきたいと思います。
1.理解・戦略:20〜30点
2.コンセプト・表現:50〜70点
3.予算・体制:20~30点
オリエン理解を表現につなげる
1.理解・戦略:20〜30点 における評価のポイント
このパートにおける戦略は、クライアントの意図を正しく理解し、オリエンから受け取ったバトンをしっかりと表現へ繋ぐことができているかが大切になります。
僕が過去に取りまとめを行った大型の競合プレゼンで、この大項目に「オリエン理解」という小項目を設けたことがあります。
理由は、「どれだけ表現が秀逸でも、クライアント側が設定した戦略を前提としない提案をする会社とは長く一緒にプロジェクトを進めていけるとは思えない」という、クライアント責任者の考えからでした。
実際、そのプレゼンは、企画表現で全評価員の評価において勝ったA社よりも、オリエンの理解度や体制から協力的な姿勢が伝わったB社が総合点で上回りプロジェクトを獲得しました。
戦略パートは、オリエンを作る段階でクライアント側が解像度を上げているため、戦略から表現への流れが理論的に組まれた提案は理解しやすい一方、先に表現を決めた後に戦略を後付けする逆説的なアプローチの提案はすぐに見透かされてしまいます。
逆説的な戦略が組まれている場合は、提案者が論理的思考に欠けているか、チームがクリエイターをコントロールできていない可能性があるため、その後のプロジェクトの協働パートナーとしては良い評価にはなりません。
表現のコントロールができているか
2.企画・表現:50〜70点 における評価のポイント
このパートでは、魅力的な表現を生み出すことができるかどうかはもちろんですが、表現のコントロールができているかどうかが大切なポイントになります。
企業の仕事はアートではなくデザインである限り、全ての表現には理由が必要です。仮に、クリエイターとしてどうしても提案したい秀逸な表現があるものの、クライアント側の戦略との距離があると考えた場合、まずは戦略と繋がった理論的な思考で表現されたA案を提示するべきです。
その上で、秀逸な表現をB案とし、戦略からどの程度の距離があるかを客観的に説明します。B案がクリエイターの独りよがりなものであったとしても、デザインアプローチのA案とアートアプローチのB案の位置関係を説明できれば、そのクリエイターは表現のコントロールができる人と評価されるのです。
表現のコントロールができるということは、前提となる戦略が変われば表現も変化するということも理解できます。つまりその後のプロジェクト進行において、クライアントとの変更が生じたとしても、表現をコントロールしてくれるパートナーとして良い評価を得られます。
従来の組織で共創できるか
3.予算・体制:20〜30点 における評価のポイント
競合プレゼンを取りまとめる経験をするまでは、このパート(特に体制)に大きな配点があるとは思っていませんでした。ここは、パートナーとしての姿勢を伝える大切なパートです。
先に予算に触れます。予算は割り当てられた範囲で実施することは当然ですが、そこにもアプローチがあります。
まず、マーケティング部門の予算の場合は、年度で使い切る予算なので単純に、安い=良いとは繋がりません。与えられた予算を最大限に使い、最大の効果を発揮する計画が評価されます。
新規事業やブランド開発予算も同様ですが、予算をオーバーした場合は超えたことで得られる利益や価値の向上を合わせて提案することで理解を得られます。
この考え方はマーケティング予算も同様ですが、マーケテイングの予算は超えたとしてもキャップは近いところにあります。また、事業領域のプレゼンの場合はレベニューシェア(成功報酬)型の予算計画とすることでパートナーとしての姿勢を示すことができます。
次に体制についてです。制作を進行するためだけの体制であれば、元請け会社と各協力会社の担当者が記載された縦型の組織体制で良いと思いますが、クライアントと共に価値を創り上げていく体制であれば、従来通りの縦型の組織が適しているのか、改めて考える必要があります。
昨年、僕が携わっている某企業の大型プロジェクトにおいて、体制だけの競合プレゼンを実施しました。この競合プレゼンは、企画・デザインのフェーズを一緒に進めてくれるパートナーチームの選定を目的としていました。
A社は、従来通りの縦型の組織提案でした。制作の中心となる制作責任者とその下に豊富な経験を持つプランナー、デザイナーが手厚く組織されとても心強い良いチームでした。一方、B社は縦型の組織ではありませんでした。オリエンで説明した戦略とコンセプトをいくつかの文脈で紐解き、文脈とクリエーターをマトリクス的に配置したチーム編成とプロジェクトマネジメント体制が提案されました。
結果採用されたのはB社でした。今回が実制作だけのプロセスであった場合には、A社を採択していたかもしれませんが、価値共創のパートナーとしてはB社がより適しているという判断になりました。
多角的にパートナーを選定する競合プレゼン
一言で体制といっても、考え方や伝え方にはクリエイティビティが必要です。クライアント側の期待にいかに答えるかを深く考えていくと、企画表現と同様に取り組めることは沢山あるのです。
このように、競合プレゼンは複合的な視点からパートナーを選定するプロセスになっています。もちろん、短期的なプロモーション施策や瞬間的な話題化を目的とした施策はアイデア一発勝負もありますが、より経営に近く重要な案件になればなるほど、パートナーとしての姿が問われることになります。
クリエイティブ・ディレクターとして競合プレゼンを勝ち抜くには、企画だけに力を注ぐのではなく、プレゼンをいかにプロデュースするかという意識が必要になることがわかります。
次回コラムは、「ファシリテーションというクリエイティブ・ディレクション」というテーマです。
クリエイティブ・ディレクターが持つべきプロデューススキルについて話したいと思います。
こちらのコラム「クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術」は、室井淳司のNoteで記事の背景やスピンアウト記事等も紹介していきます。
室井淳司のNoteはこちらから。