横浜市は市政130年・開港160年を超える歴史を持ち、魅力に溢れた国内外で有数のブランド力を持つ都市だ。同市は開港150周年(2009年)を契機に市民とともに描いた都市の未来像(Vision)である「OPEN YOKOHAMA」を骨子として、ブランドコミュニケーション活動を続けている。
今回は、同市のさらなるブランド力向上のため、2022年12月に市職員向けに実施した『ブランドコミュニケーション研修』について、実施の背景と修了後の成果を聞いた。
—— シティプロモーション推進室の役割についてお聞かせください。
會田:シティプロモーション推進室は、2022年4月に新設されました。現在は40人ほどの職員が在籍し、市の発信力をこれまで以上に高めることをミッションとしています。
このミッションを達成するため、『①戦略的な広報・プロモーションを推進するための基本方針の策定、②プロモーションのデジタル化とコミュニケーションターゲットに応じた効果的な広報、③職員に向けた情報発信などのコンサルティングを通じた職員全体のスキルアップ、④効果検証に基づく継続的な業務の改善と、各区局への共有』という4つの取組を行っています。
以前は、広報部門と報道部門、プロモーション部門が、別々の局として分かれており、思うように連携できていないという課題があったため、横断的かつスピーディーに活動できるよう、この3つの機能を統合し、新設されました。
—— 広報戦略・プロモーション課はどんなブランドコミュニケーション活動をされていますか。
會田:主に「各区局が発行する広報媒体のデザインの向上」や「各事業のプロモーションをどのように行うと、より多くの方に分かりやすく魅力的に伝わるのか」といった相談へのサポートをしています。なお、2022年度は、前年度比で2.7倍(約310件、12月末時点)の相談に対応してきました。
相談件数の増加にも表れているように、市役所全体でプロモーションへ意識が高まっていると感じます。また、対応する相談件数が増えることで、私たちの対応スキルが高まっているという好循環を実感しています。
東:また、当課では、市役所全体からのプロモーションの相談に応えるだけではなく、自ら都市ブランドを高めるためのプロモーション活動も行っています。
例えば、Instagramの公式アカウントでは、横浜市のブランドに沿った発信をすることで、海外の方に横浜市の街並みや美しい夜景といった市の魅力を発信しています。
また、Facebookの公式アカウントでは、国内の方向けに、横浜に関する通な情報を発信しており、横浜市民の方がフォローしていても、面白がっていただける投稿を継続しています。
—— 2022年12月に『ブランドコミュニケーション研修』を開催した背景についてお聞かせください。
會田:2018年度から、制作物などを「より分かりやすく・伝わりやすくする」ためのデザイン研修を継続して開催していました。市の職員がデザインした制作物は、市民の方がじかに目にするものです。レイアウトや色使いといったデザインリテラシーを習得することが欠かせません。年に複数回開催するこの研修は様々な所属の職員が毎回30人程度受講しており、ちらしやポスターなどのデザインの修正点についてBefore・Afterで比較し、どういうところに着眼点を置いて作成するのかというポイントを身に付けてもらっていました。今年度は年間で420人と、2018年度と比較し受講者数が2.6倍になり、徐々にデザインの重要性が浸透しているとは感じていました。
しかし、同時に、中長期的な視点で自身の事業のブランド価値を高めるための知識とスキルも必要なのではないか、という問題意識を持つようになりました。なぜなら、「伝わるデザインによる発信」はあくまでブランディングの要素の1つにすぎないからです。例えば事業の軸となる方針決めや、日々の発信のトーン&マナーの統一を図ることなど、事業のあらゆることがブランディングに関わります。事業活動全体でブランドをつくり育てるという意識を持つことこそが、横浜市全体のブランドをさらに高めることに繋がるのだと感じることが多くなっていました。
こうした意識から、コロナ以前は、年2回程度、民間企業のブランディング担当を講師に招いて研修を行っていました。
ただ、好評である一方、事後アンケートでは「民間企業の事例は参考になるものの、なぜ行政においてもブランディングが重要なのか」「横浜市におけるブランディングとはいったい何なのか」「日々の実務で何をすればブランドがつくられ強化されるのか」という質問が多く寄せられました。
こうした質問から、ブランディングの概論と横浜市役所が行うべきブランドコミュニケーション活動を体系化し、職員間で共通認識を持ち、また各担当者が実務で生かせる知識とスキルを身に付けるという目的を持って、研修の実施を決めました。
—— 今回、宣伝会議の研修を選ばれたポイントは何でしたか。
東:まずは、私たちが公開講座の『ブランドコミュニケーション講座』を受講し、とても分かりやすく日頃の業務に繋げやすいと感じたことです。
その他にも、先ほどお話しした通り、当室が新設かつ40人の部門であるため、新しく異動してきたメンバーも含め、全員がブランドやデザインに関する共通の知識を得てほしいと考え、以前から『宣伝会議 スタンダードトレーニング』を活用していた実績もありました。
會田:先行していたスタンダードトレーニングでは、例えば、『女性向けマーケティング講座』を受講したメンバーは、知識を得ただけでなく、受講後に説得力が高い企画を提案することができるようになりました。女性向けメディアの方に横浜のスポットを巡ってもらうプレスツアーの提案であったのですが、どんなスポットが響きやすいか、どの順でまわると良いか、という提案が、魅力的かつ論理的に説明されていました。
提案に沿った形で実施したツアーは、プレスの方々から狙い通り好評を得て、実際にメディアに掲載された記事の内容も非常に良い内容でしたので、研修で学んだことが活かされより高い成果に結びついたという良い事例ですね。
他の部員全員も各々講座を受講し、スキルが向上しています。
こうした実績から、今度は当室のメンバーだけでなく、幅広い部署の職員が広く学べる研修の機会をつくりたいと考え、宣伝会議を選びました。
—— 受講者を公募したところ、定員の2倍を超える受講希望に驚かれたと聞きました。
東:はい。本当に驚きました。
コロナ禍でこのような研修を2年間実施していなかったため、どのくらい反響があるか読めない状態で公募しました。
結果を見ると、ブランドの考え方を学んで、普段の実務に活かしたい、という反響が予想以上にあり、早々に定員枠が埋まりました。そのため定員を当初の100人から調整可能な最大人数である130人に増員しましたが、それでも足りず、最終的な応募者は200人以上に上りました。それだけ多くの職員がブランドについて学びたかったのだということは嬉しい驚きです。
—— 研修で学んだことの中で特に印象に残っていることを教えてください。
東:参加者のアンケート結果で「ブランドとは何かを分かりやすく理解できてよかった」「ブランディングの視点を自分の担当実務に生かせる」という声が多く、満足度が高かったことです。以前開催していた企業事例の研修では、「面白いけれど、実務で取り入れられるかは難しい」という評価も混在していたため、対照的な結果として印象に残りました。
アンケート結果だけでなく、研修後に受講者の生の声を聞いても、多くの方が同様の実感を得ていました。
また、研修終了から1か月後にヒアリングをしたところ、早速成果が出ている事例もありました。
ある職員採用事業の例です。これまでも当室に頻繁に相談に来ていた職員採用ブランディングの担当者は、採用活動にあたって多くの悩みを抱えていたのですが、研修後には、「今回学んだブランド戦略の全体設計をもとに案を固めることができました」と話してくれました。
また、私自身も現在相談を受けてブランディングを支援している事業がありますが、研修を受けたことで、その事業のブランディングの現状について考えを整理することができたように思います。
—— 事後アンケートでは、「本研修を同僚にも学んでほしい」という他者への受講推奨が100%になったと聞きました。
東:はい。受講者全員が「同僚にも学んでほしい」と回答したことは、本当に凄いことですから、とても嬉しく思っています。
もちろんこれまでも、行政でもブランディングが重要であることを様々な機会を通じて発信してきましたが、本研修を通じて、これまで以上にブランディングの価値と必要性を感じて、自分事として捉え、同僚にも学んでほしいと思う前向きな変化が起きたと受け止めました。
會田:他者に推奨するというのはマーケティングファネルの最後の最後の段階です。今回の研修がそれだけ職員に響く内容であり、受講した全員にブランディングが自分に関係がある重要なことだ、と感じてもらえたと理解しています。
—— 研修から1カ月が経過しました。上記の他に成果を感じることは何ですか。
會田:以前は事業のブランディング担当の職員間で、「ブランドとは何で、なぜ重要であるのか」という共通理解を十分に持てておらず、上手くブランディングを推進できていないと感じており、各事業のブランディング担当に本研修を受けるよう案内をしました。
研修から2週間後に、ある事業で「ブランド提供価値」を検討するワークショップが行われ、私もオブザーバーで参加したのですが、研修に出席した職員たちがそこで学んだ内容を活かし、ワークショップにおける明確なゴールと、ゴールまでの必要なステップを決めて議論を行ったことで、具体的な提供価値のアイデアを導き出すことができました。
また、研修で学んだ「『お客様を笑顔にします』という抽象的な表現だけではあらゆる企業にもあてはまってしまうので、抽象的な言葉だけではなく、未来にどうありたいか、現状どういった事実があるかなど、具体的な言葉で価値規定をすることが重要である」ということをしっかりと再確認して議論をおこなったことで、横浜市らしいブランド提供価値を構築する、という共通意識のもとにアイデア提案や、アイデアに対する各自のフィードバックを行えました。
その他の案件でも、例えばイベント系の部門から、「公式SNSの投稿の仕方や、キャラクターの使用方法などのマニュアル化を行う」と方針を決め活動を始めた、という研修前に無かったアクションが起きていると共有がありました。
—— 最後に、横浜市の職員へブランディングの重要性を広く浸透していくことについて、実践していきたいことをお聞かせください。
東:ブランディングは横浜市という行政でも重要であるということを、職員に対してより広く深く浸透できるようしていきたいです。現状の横浜市の職員のブランディングへの意識は、ブランディングについて全く知らない人、必要とは思っているけれどどうすればいいかわからない人、普段から意識し実践している人など、人によって様々です。今回は、全く知らない人、どうすればいいかわからない人をメインのターゲットとして研修を開催しましたが、今後も様々な段階にいる職員それぞれに寄り添った内容で研修を行えるよう意識していきたいです。
會田:今回実際に受講できたのは130人です。その人たちがエヴァンジェリスト(伝道師)として、所属している局や区内で共有してくれると、横浜市全体でブランドに対する理解が向上します。まずは今回受講した職員と一緒に、私自身も伝道師になっていきたいです。
受講者が今回学んだことを活かそうと動いたとき、学びを得たからこそ、新たな課題を発見し、悩みを感じることもあると思います。そんな時は、まずは私たちシティプロモーション室に相談したい、と思ってもらえるような関係を築いていきたいと思います。
また、市全体の方針として、多数の事業で、やる気のある若手などに積極的にプロジェクトに入ってもらい、早期から大きく活躍する機会を提供しています。本研修の修了生のなかで若手職員には、こうしたプロジェクトでも、今回の学びを実践して欲しいと考えています。
職員の知識やスキルを高めることは、市のブランドを向上させるために必要なことです。そして市のブランドを向上させることが、ひいては市民の方の住みやすさや幸福等につながると考えています。そうした先を見据え、職員のスキルアップに資する活動を継続していきたいです。
宣伝会議の「カスタム研修」でした。
宣伝会議の教育講座をベースに、カリキュラムや時間、講師などをアレンジできるカスタム研修。現場で活躍する一流の講師により、貴社のためだけのプログラムで講義が展開されることで、全員でより目の前の課題解決に向かうことができます。
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