SNSの利用時間が着々と伸びる中、企業公式アカウントはどのように運用すればよいか。CCI Social AdTrim アカウントコンサルタントの白岩すみか氏は、「SNSでは発信者が誰なのか、という点が重視される。発信者間で差異化しづらい中、公式アカウントの持つパーソナリティ(人格)自体の好意度を高めたり、共感してもらったりするスタイルが増えている」と話す。
「たとえば、商品購入で迷った際、最も参考にするのは『家族や友人』という調査結果もあります。そうした信頼関係がない状態で、一方的に『おすすめ』と発信しても聞き入れてもらいづらい。発信している内容を信用してもらうには、事実であることはもとより、親しみを感じてもらえる関係を築くことが重要です。SNSはそれに輪をかけて、ユーザーと同じ目線での発信が求められます」(白岩氏)
MizkanはSNSの運用スタイルをどう変えた?
生活者へのコミュニケーション接点として、SNS運用のスタイルを変更し、反響を集めているのがMizkan(ミツカン)だ。TwitterとInstagramで公式アカウントを運用している。Twitterは2019年3月の開設でフォロワー数は31.9万人、生活者とのコミュニケーション最大化を主眼に置く。Instagramは同年4月からで、フォロワー数は21.4万人、レシピに悩むユーザーへの情報提供がメインとなっている。
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いずれも運用方針を22年春までに転換しており、Mizkan CRM本部メディアPRチームの平尾麻椰氏は、その狙いについてこう話す。
「最初の一歩として、アカウントそのものを好きになっていただくことを意識しています。アカウント自体に親しみを持っていただいた方が、ミツカンに好意を抱いていただき、いつかミツカンの商品を1品でも買っていただけたら嬉しいな、と考えています」(平尾氏)
まず投稿の判断や頻度を大きく変えた。アカウント運用開始当初は、数カ月前から内容を決め、社内で確認を取って投稿するという方法をとっていた。Instagramでは、レシピを投稿するという点は同じだが、「生活者のニーズを念頭に置いているというよりは、機械的に投稿しているかのような、いわば『レシピbot』のようなアカウントでした」(平尾氏)
現在では、Twitterは基本的にSNS担当者の裁量で投稿できるように。各商品担当からの投稿リクエストについては共有カレンダーを用意し、同じ日にプロモーショナルな投稿が重ならないように調整している。
Instagramに関しては、世の中のレシピニーズを分析するチームを部門をまたいで設置。消費者が〈いま〉必要としているレシピについて仮説を立て、投稿から検証を経て、ニーズに沿った内容になるような枠組みを整えた。ユーザーの反応の変化にも目を配り、投稿の仕方についても改善を重ねている。
「以前は、写真を1点添え、文章でレシピを紹介するような投稿を平日実施していました。しかし、ユーザーからの『いいね』やリポスト(再投稿)、投稿の保存といった反応(=エンゲージメント)が少なくなってしまったんです。改めてInstagramで広く投稿を見ていくと、動画で説明していたり、というふうに、よりわかりやすいものが支持されているようでした」(平尾氏)
白岩氏は「確かに、1投稿における情報量が多ければ多いほど、ユーザーが投稿を保存する傾向があります」と話す。調理途中がよりわかりやすいように写真の枚数を増やし、説明文も写真に入れるなど細かく調整したことで、保存数は以前の2倍に増加した。
「季節定番のレシピのほかには、自分が生活者として買い物に行った際、旬の野菜が出ていればその野菜を用いたレシピを自社サイトで検索して投稿することもあります。投稿ごとの反響を見て、ずば抜けて高いものがあれば、その理由を考えて、同様の投稿をするといったこともあります」(平尾氏)
話題のコラボや“中の人”問題…、バランスの取れた運用のために必要なことは
Twitterで重視しているのは、ユーザー自身が話題にしていることへの感度を高めることだ。スポーツブランドのアドミラルとのコラボレーションは「ロゴが似ている」という生活者の投稿がきっかけ。「味ぽん」に似たカプセルトイの写真が投稿されているのを見つけ、手に入れるまでの過程を投稿していったこともある。いずれも最終的には、各社とのコラボレーションにまで至った。
「特徴的なのは、コラボありきではなく、そこに至るまでのストーリーをユーザーが目の当たりにできていることだと思います。いきなりコラボだと、ともすれば取って付けたような印象を持たれてしまう方もいらっしゃるかもしれません。Mizkanさんの場合、SNSの一ユーザーとして、一般ユーザーの話題に自然に参加していった結果、企画化されている。その経過を見ているからこそ、ユーザー側も喜びが大きいのではないでしょうか」(白岩氏)
コラボ企画は「生活者の方々が自社ブランドについて話題にして盛り上げてくださったことに対し、何を還元することができるかを考えて実施しています。一過性のもので終わらせたくない、ということもあります」と平尾氏。話題に即座に飛びついているわけでもなく、アドミラルのケースでは、ある程度時間を置き、複数の投稿が確認されてから、自分たちのアカウントでも話題に。カプセルトイは反対に、「せっかくなので本当に欲しかった」(平尾氏)ために、目当てのものが出てくるまで挑戦している。
こうした、いわゆるアカウントの“中の人”、担当者の人格が伺える運用スタイルには、「リスクを感じられることも少なくないと思います。たとえば担当者の交代や、非難が急速に集まり拡散してしまうような投稿をしてしまったりしないか、という点です」(白岩氏)。特に“中の人”問題について、平尾氏は、「私もかなり悩みました」と話す。
「企業アカウントとしての発信だということは強く念頭に置いています。アカウントへの好意度、企業への好意度、その果てに商品購入があり得る、という考えで運用しているので、ただちに購入に結びついた、などの数値が出せるわけではないので、なおさらだと思います。異動などアカウントを離れるケースもあると思いますが、以前、他社で“中の人”を担っている方の言葉を聞いて、個人的には納得がいきました」(平尾氏)
曰く、「ラジオのパーソナリティ、テレビのMCの交代と同じ」。
「確かに、ラジオやテレビ番組は、ときに司会者やメンバーが交代することがあります。だからといって、視聴者やリスナーが必ずしもその番組自体から全員離れてしまうわけではありません。担当が担当している間、ファンになってくれる方を増やし、意思や方針を継いでいけば、必ずしもフォロワーが離れてしまうわけでもないと考えるようになりました」(平尾氏)
「Mizkanさんの運用スタイルは、非常に参考になる考え方ではないか」と白岩氏は話す。
「SNSは公式Webサイトではなく、ユーザーと同じ目線での会話での発信が求められる双方向の場であり、それが魅力です。Mizkanさんの運用スタイルは、まさに一ユーザーであり、企業アカウントとしてもバランスの取れたスタイルだと感じます」(白岩氏)
そもそも、「SNSは借り物」というのが平尾氏の考えだ。「それぞれの運営企業がやめてしまえばなくなってしまう場所を借りて発信しているに過ぎません。そういった場所ですから、企業もほかの生活者と同じように楽しんでいることが非常に重要ではないかと思います」(平尾氏)
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