第52回JAAA懸賞論文の金賞が発表に 『広告のパーパスとは何か 〜「主体性」こそが幸福への羅針盤となる時代へ〜』。

日本広告業協会(JAAA)では毎年、会員社社員を対象に「論文」と「私の言いたいこと」の懸賞募集を実施している。2023年3月24日、第52回懸賞論文の受賞作品が発表に。最高賞である、金賞を受賞したのは電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センターの福永琢磨氏の論文『広告のパーパスとは何か 〜「主体性」こそが幸福への羅針盤となる時代へ〜』。

本論文を執筆した背景について福永氏は、次のようにコメントしている。

今、時代が大きく変化していることは誰もが認めるところでしょう。この変化は、おそらく産業革命の対となって人類史に残るほどのもので、その原因は、地球の環境限界が「幸せとは何か」という本質的な価値の転換を求めているからだと考えます。
広告は今まで、豊かな消費生活の活性化を旨としてきました。それが人々の幸せそのものだったからです。しかしその一方で、広告は生活者から「自分で思考する力」を奪ってきた可能性がある。自己決定を他人任せにしてしまった生活者は、いつの間にか「幸せ」さえも他人任せにしてしまっていないか? しかし不確実なVUCAの時代は、我々に自ら考えること、幸せの主体性を取り戻すことを要請しています。そんな中で、広告は一体何ができるのか。新しい広告と幸せのトランスフォーメーションとはどんなものなのか。そんな向かうべき方向性を、広告そのもののパーパスを考えることで、指し示したいと考えました。

ここでは金賞を受賞した論文のサマリーを紹介する。

今、広告の世界では「パーパス」が大流行している。パーパスとは社会的存在意義という意味で、企業が社会に対してどのような志を持ってこの世に存在するのか、という非常に本質的なテーマだ。

ところで、広告そのものはどんなパーパスを持っているのだろうか。恐らくこれまでの広告なら「消費社会を活性化させ、人々を経済的に豊かにし、社会を発展させる」ということだったろう。それが人々にとっての幸せの物差しだったからだ。しかし、社会が様々な課題を抱え、持続可能性へと変革を迫られるこれからの時代、広告のパーパスは、それとはまったく別のものになっていくはずだ。

パーパスを策定するには自分自身とそれを取り巻く対象を徹底的に分析し、深堀りする必要がある。今回で言えば「幸せとは何か?」「それに対して広告は何をなすべきか?」についてだ。これからの幸せの形を示すのがWell-Beingだが、ではWell-Beingと今までの幸せとはどうちがうのか。それを脳科学の視点から深めると、脳内の幸せを感じる物質のちがいが挙げられる。今までの幸せはドーパミン的なもので、これからの幸せはセロトニンやオキシトシンの分泌を重視するものだ。両者のちがいは獲得の喜びか、状態による喜びかにある。Well-Beingは心の状態・在り方によって実現されるのだ。では心がどのような在り方になっていれば、人は幸せでいられるのか。そのヒントが、OECDが2030年への教育指針として策定した「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」にあると筆者は考える。教育とは、未来の人間社会づくりそのものだからだ。ここではWell-Beingへの条件として「主体的に考え、行動する人材であること」としている。

この社会変革の時代にあって、人々は自ら羅針盤を手にし、その変化と主体的に向き合うことで幸せになれる。つまりこれからの広告のパーパスは「生活者を社会の持続可能な変革の主役にする」ということだ。パーパス・ドリブンな広告に課せられた具体的な使命は、問いを立てる「ナラティブ化」、つながる場をつくる「コミュニティ化」、参加の仕組みをつくる「ソーシャル化」だ。自分が社会変革の主役であることに気づくことができたなら、生活者はWell-Beingの入り口に立ったと言えるだろう。意志ある購買行動はより良い社会への投票であり、生活者は経済システムの中の主権者なのだ。これからの広告の役割は、生活者に思考を促す。自分で考え、やってみて、振り返る。そのループこそが主体的な前進であり、そうやって過ごしている時間そのものがWell-Beingなのではないだろうか。「主体がつねに生活者にある」という状況を広告が創りだすことができれば、広告はまだまだ幸福な仕事と言えるはずだ。いや、今まで以上に幸福の本質に迫る仕事になっていくだろう。

「つねに生活者に主体がある」状況を広告を創りだすことを目指す。

 

【受賞者プロフィール】

電通
ビジネストランスフォーメーションクリエーティブ・センター
   事業シナリオ&ストーリーデザイン部
電通Teams SDGs SDGsコンサルタント
ソーシャル・デザイン・エンジン メンバーー
福永 琢磨氏

1994年、電通入社。以来、一貫してクリエーティブ局に在局。企業の社会的存在意義が重要視される中、クリエーティブの力をよりソーシャルに活かすべく、2020年より現局に移籍。思考の深掘りを可能にする独自開発のルーツ・シンキングメソッドを用いたワークショップで、企業のパーパスやMVV策定、サステナ文脈での商品開発などを行う。本質的な意義の発見=コアコンセプト・ファインディングを得意とし、教育分野も経験豊富。


 

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