旅先のベトナムの市場で「局アナを辞めてフリーになろう」と決意した(宇賀なつみ)【前編】

「自分の言葉」で何かを伝えたかった

澤本:でも、今の「お天気お姉さん」の話を聞いてですけど、3年目になってそういう風に思うってことは、僕らから見たら華々しくデビューして順風満帆に生きているように見えたんですけど。結構、焦りがあるものなんですか?

宇賀:「ずっと同じ場所にいたくない」っていう、「常に一歩前に進んでいたい」っていう感覚があって。新しい挑戦がしたかったんですね。当時は『報道ステーション』に出ているアナウンサーは他の番組に出ちゃいけなかったので。

澤本:うんうん。

宇賀:だから、本当に「天気しかできない」っていう。多分、何かをやりながら天気予報もやっているんであればよかったんですよ。だから、「他のことにも挑戦したい」っていう気持ちがすごくありましたね。

中村:アナウンサー業界の常識として、さっきの報道の話もそうだけど、ここまではスポーツキャスターをやって、ここからはバラエティに行って、みたいな流れみたいなものがあるんですか、一般的に?

宇賀:いや~、本当はあった方がいいと思うんですけどね。正直言って、ないと思います。だって、「席はいくつ」っていうのは決まっていて、空いたらそこに誰かを入れなきゃいけない、とか。で、新しい番組ができたらそこに誰かをつけなきゃいけないので。やっぱり、当てはめる方も大変ですから。もちろん、一人ひとりのキャリアプランも考えているとは思いますけど、正直言って「運」と「縁」みたいなところが大きいですよね。

澤本:ふーん。普通に僕たちが昔から知っている宇賀なつみという人が、そういう気持ちになることがあったんだ、ということがビックリですよね。

宇賀:あ、そうですか?

中村:そうですよね。さっきの「もっと主観的に喋りたい」っていう話も、そんなことを思ってアナウンサーやってるんだ?って。

宇賀:あー。やっぱり、報道ステーションで発言するのって、観てくださっている人の数でいうと物すごいですよね。当時なんて、平場でもたぶん15%とか取っていた時もあったので。

でも、やっぱり言えることは決まっているし、尺も決まっている。実はひとりで自由に喋っている時間って、数秒から数十秒の話なんですよね。でも、たとえばラジオだとこんなにベラベラ喋ってるじゃないですか?(笑)

だから、影響の大きさというよりも、どんな場所でもいいから、やっぱり7年後には自分の言葉で、主観で何かを伝えたいなってその時に思ったんですよね。

澤本:そうなんですね。つまり、自分の気持ちを喋るのが7年後っておっしゃってたじゃないですか?もっと(前に)出たいっていう人もいるんですか?

宇賀:ああ~、それは人によると思います。やっぱり、「アナウンサー」になりたかった人もいると思うし、そもそも、おしゃべりが大好きで「伝え手」になりたかった人もいると思いますし。番組のスタッフのひとりとして、決められたことを滞りなく進行するとか、スタッフの気持ちを汲んで原稿どおり伝えることが得意な人もいるでしょうし……。それは本当に人によると思います。

澤本:宇賀さんは、自分はどういうタイプだと思いますか?

宇賀:局アナ時代は、「番組のために」と思ってやっていました。それが仕事だと思っていましたし、別に私自身の好き嫌いとか、どう思うかなんてことは関係ないと思っていたんですよね。でも、それが初めて変わったのが朝の『モーニングショー』(テレビ朝日)という番組についた時で。「意見」を求められるんですよね。

中村:あー。なるほど。

宇賀:それも、いわゆる「ご近所ネタ」みたいなものから結構意見が分かれるようなニュースまで、若者として、また女性としてどう思うかを振られることが増えた時に、「やっぱり、自分の言葉で意見を言えるようにならないといけない」と。でも、それも5秒なのか30秒なのかわからないんですよ、順番が回ってくるのは最後ですから。何の専門家でもないので……。そこはかなり鍛えられたところですね。

中村:専門家だったら求められているものが何かわかりやすいけど。でも、宇賀さんのポジションって、結構難しいですよね?

宇賀:難しかったですね。それまでは「お前の意見なんか言うな」って言われる立場だと思っていたんですよ。そう思われていると思っていたのに、急に必要とされたことで「え?こんなの初めてだ。どうしよう……」っていう戸惑いも本には書いてあるんですけどね。でもやっぱり、面白いですよ。電車に乗るのも、車で高速道路に乗るのも、ラーメンを食べるのも全部取材といえば取材なんだな、って、その時に思ったんですよね。

澤本:なるほど。

宇賀:やったことないよりも、やったことがあることがひとつでも多いほうが話せるネタが増えるっていう。だから、旅にも出るし、ご飯も食べるし、人にも会うしっていうことをちゃんとやっていこうと思ったことも書いてあります。

結局は「素直でいること」でしかないな、と。

中村:その時の「宇賀さんプラン」みたいなのってあるんですか?「このキャラでいこう!」みたいなのって。

宇賀:それもすごく迷っていて……。ちょうど、この頃はネットニュースも全盛期になっていたので、ちょっとした発言が全部見出しになったりするんですよね。別に怒っていないのに「猛反論!」とか書かれたり「激怒」とか見出しを打たれたりして、最初はすごく戸惑っていたんですけど……。

でも、ただニュースを淀みなく伝えるだけならロボットでいい、という時代になっているじゃないですか?それなら、わざわざ人間が伝えている意味ってなんだろう?と思った時に、やっぱり難しいニュースで一緒に悩んだり、悲しいニュースで一緒に傷ついたりできることなのかな、と思って。最終的にはテクニックとかじゃなくて「素直でいること」でしかないな、と思いましたね。

中村:おお~、キタ!

宇賀:「わからないことは、わからない」っていう、戸惑いをきちんと伝えるとか。

澤本:はいはい。

宇賀:あとは、ふつうに30代の女性としてどう思うかを素直に言うしかないな、という。「バカだと思われたくない」とか「無知だと思われたくない」みたいな気持ちを、一回捨てないとダメだな、というところに行き着きましたね。

澤本:ふーん。

宇賀:そもそも、人前に立つ仕事をしておきながら、「どう見られたい」とか「どう見られたくない」とか思うこと自体がおこがましいんだな、と思って。そしたら結構、楽になった部分はあるかもしれないですね。

澤本:なるほどね~。

中村:さっき、昔の日記に「もっと主観で喋りたい」みたいなことを書いたというその願いは、叶えられているんでしょうか?

宇賀:叶えられていますね~。でも、やっぱりラジオは、たとえばゲストの方もテレビで10回共演するよりは、ラジオで一回共演したほうが距離が縮まる感じがしません?

澤本:僕らはテレビを知らないですけど、ラジオはそうだよね。

宇賀:ね~!それぐらい、やっぱり皆さん鎧を脱いで普段の自分のままで喋ってくださるというか。私自身も本当に自分の言葉で喋れるし、次に何をどの順番で聞くかとか、どう表現するかということを全て自分で選べるので。そういう意味では本当にやりたかった「主観で伝える」ことができているな、と。ラジオで一番実感していますね。

〈後編に続く〉


 

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