映画PRのデジタル施策、不足分をカバー
AI旋風が吹き荒れる中、中堅・中小の広告会社はテクノロジーにどう対応するか。創業100年を迎えた広告制作会社、弘春堂の山田智大・副社長は、「ITをはじめ、足りない部分はパートナーと補い合って、次の100年を築いていきたい」と意気込む。そのパートナーとなっているのが、システム開発のトーテックアメニティ(名古屋市)だ。
弘春堂は1923年(大正12年)創業の広告制作会社だ。カタログ・冊子やWeb制作など、グラフィックデザイン全般を手がける。飲食やアパレル、金融など、幅広い業種のデザイン制作を手がけているのが売りだ。
トーテックアメニティは製造業や流通業のほか、自治体、医療・福祉、学校・図書館などさまざまな業種・業態のシステム開発や技術開発、検証の支援に携わる企業だ。業種共通のソリューションとして統合運用管理業務や、ECサイト構築、キャンペーンシステムの提供も行っている。
「この経験によって大きな成長の可能性を感じました」と、山田副社長が話す事例がある。ある映画のプロモーションで、ロケ地となった県の観光促進を図るためのデジタルスタンプラリーだった。トーテックアメニティの「WEBキャンペーントータルソリューション」を活用して実現した。
熱烈なファンが好きな作品とゆかりのある場所を巡る、いわゆる「聖地巡礼」を促した。デジタルスタンプラリーは、複数のロケ地に2次元コードを設置し、指定の数以上をスマホで読み取るとプレゼントがもらえるというもの。GPSと連動させるなど不正を防ぐ仕組みも取り入れた。コードの設置場所にはWeb地図サービスと連携させ、わかりやすく誘導。プレゼントにはグッズやご当地商品もあり、氏名や住所など個人情報の管理業務や発送業務、問い合わせ対応などもある。
参加する消費者の目には難しく映らないかもしれないが、主催者は多種多様な業務を手配する必要があり、アナログとデジタルが混在したコントロールが求められる。文字通りの縁の下の力持ちとなったのが、トーテックアメニティだった。同社が提供するソリューションの特徴は大きく2つある。一つはシステム開発企業ならではの、カスタマイズ性の高さ。もうひとつはシステム会社にも関わらず、コールセンター対応や配送など、「人」が行う事務局業務も提供する点がユニークだ。
トーテックアメニティで提供できる領域は、デザインからWeb制作、システム開発、インフラ環境、窓口対応……調達や配送など、オンラインキャンペーンでおよそ必要な業務はすべて揃えている。その上で、依頼主の得意分野については、自分達で行うことも可能で、依頼するサービスも自由に選択できる。たとえばブランディング、デザインのディレクション、告知方法のプランニングなどは広告会社が担務するといった調整が可能だ。
「WEBキャンペーントータルソリューションと名付けていますが、足りない部分をカバーする、というのがコンセプトです」と話すのは、トーテックアメニティの川原康徳氏。
「すべてお任せいただくことももちろん可能ですが、関係各社に得意なところはお願いし、残った部分を当社が担うというのが基本路線です」(川原氏)
関係者が増えれば、調整業務もかさんでいく。データのやり取りも、Webのデザインと発送業者間で効率よい整形や受け渡しなど、細かな調整がある。プランニング上、実現したい企画の姿と、その実現性をどう担保するか、という確認も各社間で必要だ。
「プロジェクトの調整役をご依頼いただくことも多いです。システム会社ですので、関係者との技術的な要件の詰めやオーバースペックな部分の切り落としなどのご要望をいただくこともあります」(川原氏)
弘春堂との映画PR施策以外にも、飲料メーカーによるTwitterと連動した、即時抽選機能付きのアンケートキャンペーンや、食品メーカーによるLINEでレシートを投稿するとポイント付与、賞品獲得が可能な施策、家電メーカーのブランドサイト会員向けアンケートキャンペーンなど、多くの事例を手がける。こうしたつながりから、逆にトーテックアメニティにも、「紙媒体を制作できないか」という話が舞い込むことがあるという。
「そういったときは、別の案件でご一緒したデザイン会社さんに当社からご相談したこともあります」(川原氏)
プロ同士だから協調できる
バーチャルリアリティやメタバース(仮想空間)など、次々と新たな手法が登場する。そのすべてに単一の企業だけで対応するのは、現実的ではない。「しかし、クライアントから『こういったことはできないか?』と言われれば、それに応えたい」と山田氏は話す。
「それ以上に、社会の変化に合わせて『こういった施策はどうでしょう』とこちらから提案できることが基本なわけです。そうでなくては、クライアントの期待を超えることはできませんから。ただ、具体的に業務に落とし込んでいくには、社内外のリソース確保だけでなく、自分たちには遂行できる、そんな自信も欠かせません。デジタルスタンプラリーの事例からは、自分たちにないものをパートナー企業と協力し、成し遂げていけるという実感も得られました」(山田氏)
山田氏と川原氏が口をそろえるのは、「デザイン会社は」「システム会社は」、「「星の数ほどある」」という点だ。
「広告制作会社として、ものづくりだというと言葉としてはそうかもしれませんが、ただ作るだけ、という企業はやはり難しいと思います。まず聞くことからがデザインの領域。そして『なぜこのデザインか』、その意味を踏まえて提案するということ」(山田氏)
クライアント企業は、その企業の主業におけるプロだ。しかし、デザインのプロではない。その企業の商品やサービスの分野ならいざしらず、広告やキャンペーンについてはどのように指示をするか? ディレクションを行うか? という点では、極端に言えば素人なのだ。
「たとえば今後、AIによるビジュアル作成が増えるかもしれません。そのとき問題は、どうやってAIに要件を伝えるか、そして、なぜそのビジュアルが最適なのか、どう判断するのか、という点です。まさかAIがそう言っているから、とはならない。ここは人間でないと、また、それを主業にしてきた人間でないと、かなり難しいのではないでしょうか。むしろ、100年貯めてきた知見や実績が競争力になると考えています。そういった蓄積はいまからやろうとしても不可能だからです」(山田氏)
「システム会社としても全く同じですね」と川原氏も同調する。
「システム構築だけなら、国内だけでなく、世界中に発注ができます。クライアントから言われたことを一言一句、そのままこなすだけでは単なる“発注先”でしかありません。要望の内容をさらに研ぎ澄まして、問題解決の芯に近づけていく、言われた以上のこと、依頼事項をどんどんブラッシュアップして実現していくことが本当に重要だと考えています。柔軟な対応が可能なソリューション設計でパッケージに固執しないのは、根底にそういった思いもあります」(川原氏)
「当社も活版印刷の鉛版製造が出自ですが、そこにこだわってしまっていたらいまがなかったでしょうし、かといって、野放図に軸足をぶらしていても、続かなかったでしょう。トーテックアメニティさんには何か同じマインドを感じますよね。世の中が変わるのに対応していくことももちろんですが、いままでの知識や知恵、経験の本質的なところを残しながら、新しいものを上乗せしていくことが重要なのだと思います」と山田氏も言葉をつなぐ。
テクノロジーも自社にとって、新しい風になる。山田氏は「従来の紙媒体デザインが、デジタルにかなわないところは多い。数値を用いた効果測定ができるなど、デジタルの良い点を取り入れつつ、むしろ、人間が携わるデザインの再評価も行われるのではないか」と話す。
無論、足元のビジネスへの貢献も広がる。キャンペーンで築かれた生活者とのつながりを踏まえ、どう次に生かしていくか。次年度は何をするか。その次は――。
「実際に、キャンペーンで得られたデータを顧客基盤につなぎたい、ですとか、決済までできるサイトに改修したい、ですとか、そういったご要望をいただき、お応えしてきました。逆に、数年先を見据えたプランをつくって、まずはこの施策から、という提案に同行させていただくことも常態化していますね」(川原氏)
AIやメタバース、NFT……と高度分野でのシェア獲得を図る道と、現業の強みを見据えつつ、足りない部分で手をつなぐ道と。わたしたちの前には分岐点が訪れようとしている。
お問い合わせ
トーテックアメニティ株式会社
WEBキャンペーントータルソリューション:https://totec-campaign.jp/
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