さまざまな分野のトップランナーに密着取材するドキュメンタリー番組『情熱大陸』(毎日放送)のロゴが、4月2日の放送から刷新される。デザインはTSDO佐藤卓氏。番組が1998年に開始して以来25年間で、ロゴが変わるのは初のことだ。
刷新に至ったのは、「コロナ禍を経て番組の再スタートを打ち出したかったから」と、同番組のプロデューサー 沖倫太朗氏は話す。数カ月から長ければ2年ほどに及ぶ長期間の「密着」取材を特徴とする同番組にとって、「密」を避けるべきコロナ禍は大きな痛手だった。「それを経て、心持ち新たに番組をさらに盛り上げていきたいと考えていました。そこにちょうど番組開始25周年というタイミングが重なった形です」。
刷新にあたり、現行のロゴを考案した初代プロデューサーに沖氏が成り立ちを尋ねたところ、「ご自身が書いた最初の企画書に沿えたデザインを形にしたものだと教えてくれました」。初代プロデューサーは会社の大先輩で、「デザインを変えてもいいか」聞くと、「どんどん新しいことをやってほしい」とのこと。それならばと思った一方、前例のないロゴの刷新で、「次に誰に相談すればいいのかもわからなかった」と振り返る。
そこで沖氏が話を持ち掛けたのが、グラフィックデザイナーの佐藤卓氏だった。「実は、2022年10月23日放送回に向けて料理研究家の土井善晴さんに密着取材をするなかで、土井さんが佐藤さんと打ち合わせをするタイミングがありまして。その時僕は演出側として土井さんに密着していたのですが、佐藤さんのデザインに対する考え方やお話ぶりを思い出して、もしかしたら相談に乗っていただけるかもしれないと思ったんです」。
そこで佐藤氏には、“リニューアルの依頼”ではなく“変えないという選択肢も含めた相談”という形で話を聞きにいった。その際、佐藤氏は旧ロゴについて「お話を聞き、改めて元のロゴをじっくり拝見して、いやぁいいロゴだなと(笑)。挑戦する人々の粗削りの勢いがよく表れているなと思いました」と率直な印象を語る。
旧ロゴも非常に認知度が高く、変更しない選択肢もあったが、沖氏から「より多様なメッセージを届ける番組でありたい。『頑張る』ことを押し付けるのではなく、それぞれの場所で努力する人のひたむきな姿勢を伝えたいので、強さだけでなくもう少し柔和な印象も与えたい」と番組の目指す姿を聞く中で、より現代らしくアップデートする案が見えてきたという。
そして佐藤氏が提案したのが、外側の正方形を円にし、その底辺を少し切り取ったロゴだ。元のロゴにあった背景の亀裂の入った氷のようなディテールは、べた塗りに刷新した。
「まず正方形の輪郭とこの迫力のあるロゴタイプの組み合わせが“強さ”の印象を与えていると考え、正方形ではなく円を用いることにしました。ただそれだけでは座りが悪い。そこでその円の下部を少し切り取ります。すると、ロゴ自体が昇る太陽のような形になり、その下に続く『大陸』が見えてきます。『情熱大陸』という番組を、明るさや未来を連想させる存在として位置付けました。また青色は番組の大切な財産なのでそのままに。輪郭を優しくした分、ロゴタイプはあえて変えず、挑戦する人の強さ・勢いなどを表現しています」(佐藤氏)。
ロゴを見た際、「ハッとしました」と沖氏。「『情熱大陸』という番組は日曜の夜11時から放送されていることもあり、番組で取材する人たちや見てくださる方々にとっての“夜明け”を体現できればと自分の中で位置づけていたんです。そしてそれをロゴに表すのであれば、例えば青から明るい色へのグラデーションで示すのはどうかなと。でも佐藤さんが示してくれたのは、番組自体が太陽となり、夜明けを通り越して“日の出”を体現するデザインでした。番組のストーリーを再定義してくれたのだと感じています」。
ロゴは「さまざまなメディアに適応できるように」(佐藤氏)と3DCGを用いた立体的なバージョンも制作。球体を半分に切った断面にロゴが現れたようなデザインで、映像やプロダクトを含め、より多様な表現を可能にする。
新ロゴは、4月2日の放送から採用。番組の開始時、終了時のモーションロゴも合わせて刷新されている。
スタッフリスト
- 企画制作
- 毎日放送+TSDO
- AD
- 佐藤卓
- D
- 田上亜希乃
- 演出(映像)
- 柴田大平