日本ブランドのEC対応、外国人から見るとここが不便

2022年12月に発売した書籍『クロスカルチャー・マーケティング 日本から世界中の顧客をつかむ方法』に収録した、アマゾンジャパンのジョン・キング氏と著者の作野善教氏との対談の後編。キング氏の専門分野であるEC対応からマネジメントに至るまで、日本企業の課題や取り組むべきことを聞きました。

本書の詳細・購入はこちらから(Amazon)

前編「インバウンド需要の拡大に英語表記やユニバーサルデザインは必須」はこちら

海外のトレンドに敏感でないと生き残れない

作野:日本ブランドを海外に広めるには何をすべきでしょうか。

キング:私は日本に住み、日本文化に毎日親しんでいるため、より多くの海外の人に、もっと日本を知ってもらいたいと強く思っています。そのためにはまず、日本の会社は海外のカルチャーやトレンドに対してもっと敏感であるべきです。

ジョン・キング(アマゾンジャパン ファッション部門マーケティング責任者)
アメリカ・シアトル出身。ワシントン大学卒。テンプル大学大学院修士課程修了。広告会社レオ・バーネット東京オフィス(現ビーコンコミュニケーションズ)のエグゼクティブクリエイティブディレクターを経て、2018年アマゾンジャパン入社。日本在住歴、日本市場でのビジネス経験は16年以上に及ぶ。

もちろん日本らしさは失いたくはないのですが、日本国内での動きにばかりとらわれてしまうのは、近視眼的すぎます。外国人が何に熱狂しているのかを理解することは、日本人クリエイターとブランドにとって大事なことです。

自分のクリエイティブチームにもよく話をするのですが、様々な情報をキュレーションして、適応するのが大事です。ブランドにとって変えたくない大切なことは何か、海外のトレンドに合わせて変えるべきことは何かを深掘りし、それらをミックスすれば、ユニバーサルなものになっていきます。

日本のマーケティングの失敗例としてわかりやすいのは東京2020オリンピックの開会式ではないでしょうか。開会式は世界が熱狂する日本のカルチャーを、全世界に発信できる一世一代のチャンスでした。アニメキャラクター、最新テクノロジーなどを駆使して「やっぱり日本ってすごい」と再認識させることができたのです。

この開会式については日本でも物議を醸しましたが、結局和太鼓と、ランニングマシンが登場しました。日本のクリエイティブコミュニティがよくやる失敗の典型例です。視野を狭くして、年配男性で、グローバルな視点を持たない日本人上司の顔色をうかがいながらつくられたように見えました。これは絶対にやってはいけません。
 

日本ならではのオムニチャネルの発展に期待

作野:日本のEC(電子商取引)の対応についてはどう思いますか。海外とは違うのでしょうか。

作野 善教(doq創業者・グループマネージングディレクター)
シドニーのマーケティングカンパニーdoq創業者・グループマネージングディレクター。外資系広告代理店ビーコンコミュニケーションズを経て2005年に渡米。米系広告代理店レオ・バーネットのシカゴ本社で勤務したのちオーストラリアに拠点を移し、2009年シドニーにてdoqを創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームとともに、20年で50社以上の越境マーケティング戦略立案を手がける。2022年12月、初の著書『クロスカルチャー・マーケティング』刊行。

 

キング:日本はおくれているとよく聞かれますが、そんなことはないと思います。
日本のECには三つの特徴があります。

一つ目はほとんどがモバイル経由であり、デスクトップは15%前後にとどまっていること。

二つ目は幅広い年齢層がテクノロジーを使えることです。一般的にECは18歳から65歳までが主要ユーザーになりますが、日本は65歳以上の購入者の割合も高い。

三つ目は大都市における人口密度と、実店舗数の多さによる、買い物環境のユニークさです。首都圏であれば、スーパーや家電量販店、洋服店などがひしめいています。都内だけでもルイ・ヴィトンの店舗がいくつもありますが、アメリカであればどこかの大都市まで移動しないと店舗がありません。

このために実店舗が少ない国と比較すると、ECのあり方も変わります。コロナ禍でオンラインショッピングの割合が増えて、実店舗の存在価値が疑われ始めましたが、なくなることはありません。

今後オンラインとオフラインの融合が進み、真の意味でのオムニチャネルが加速すると思います。オムニチャネルという言葉は数年前から使われており、うまくいっているケースも少ないのですが、日本では新しい形で発展できると思います。オンラインとオフラインの在庫の共有、店舗やロッカーでの受け取りなど、消費者のニーズに柔軟に対応できます。

またファッションブランドは、店舗スタッフが空き時間に新商品を着て、コーディネートを撮影して、コメントを投稿しています。それを見たユーザーはオンラインで購入してもいいし、ショップを訪れてもいい。このように実店舗のスタッフがオンラインの売り上げにも貢献できるのです。
 

顧客とのコミュニケーションは大いに改善の余地あり

作野:日本ブランドのデジタルコミュニケーションはどうでしょうか。また、ECで日本ブランドを買う際のハードルはありますか。

顧客目線に立った改善が必要

キング: いくつかあります。まず資料がPDFであること。そしてテキストがハードコーディングされており、自動翻訳ができず、レスポンシブデザインではないことです。90年代では一般的にテキストはハードコーディングされていましたが、日本ではいまだによく見かけます。

また案内図には地図画像が貼り付けられている場合もあり、とても不便です。場所をタグ付けしてグーグルマップをサイトに表示してほしいです。地図をクリックすれば、自分の位置もわかり、目的地への行き方が一目瞭然です。

デジタル広告はAIの精度が上がり、表示されるものがユーザーに合ってきたと思います。CRM(顧客関係管理)はまだ優秀な人材が足りないのか、消費者との適切なコミュニケーションのタイミングが分かっていないブランドが多い気がします。

買ったばかりの商品を2日おきに勧めるなど、明らかに間違えているケースもあります。アプローチ後、30日待って何も反応がなかったら、違うシナリオでアプローチするなどの高度なCRMができていません。便利なツールが存在しているのに、いまだに古いデジタルコミュニケーションをしているブランドが多いので、アップデートが必要です。
 

経営層は目的のみチームに伝え、手段はスタッフに任せよう

作野:海外カルチャーを取り入れるには、多様性のあるチームを作って、リーダーシップスタイルを変えていかなければならないのでしょうか。既存の考え方やチーム編成をやめて、新しいスタイルに移行するためには日本人エグゼクティブは何をすべきなのでしょうか。

キング:私は日本にきたときに、日本の文化を理解し、なじむ必要がありました。偏見をなくして、学ばなくてはいけなかった。なぜこの人たちはこのように考え、行動するのだろうって。

日本のリーダーも同じだと思います。日本にいて、日本人スタッフに囲まれていると難しいのはわかりますし、そんな大変なことをする必要性も感じにくいとは思うのですが、人口減により市場が縮小する中で、そうするしかないのです。

外国人の視点を得るためには、チームの多様性が鍵を握ります。外国人を迎え入れるだけではなく、年齢、性別、地域の多様性を取り込むことによって、コミュニケーションスタイルが変わり、アウトプットが変わります。

リーダーはまず「みんな違う、そしてそれはいいことだ」ということを理解すべきです。そしてリーダーシップスタイルを変えること。

多様性のあるチームを率いるには、リーダーはまずビジョンや目的を示して、その理由も明確に伝える必要があります。そこから初めてやるべき活動が見えてくる。日本はこの逆なのです。やるべきことを先に決めて、目標設定はないがしろになっています。

つまり「これをやってほしい」という従来の指示の出し方ではなく「これがゴールで、この期日までに達成したい。そのための方法を考えてほしい」と伝え、各チームに目標達成のための手段を考えさせて、実行させるのです。多様性のあるチームには細かな指示は出さず、やり方は任せなくてはいけません。

作野:日本人は期日を厳守したがります。でも海外ではよりよい結果のためなら期日にはそこまでこだわらないところがありますよね。

キング:私はよくチームに「期日通りに提案できたかどうかは誰も覚えていないけど、その提案がよかったかどうかはみんな覚えている」と伝えてきました。期限に対する柔軟性も、もう少しあったほうがいいと思います。

定価:2,200円(本体2,000円+税) 四六判 268ページ

 
詳細・購入はこちらから(Amazon)


 

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事