今話題沸騰中の「グミッツェル」の仕掛け人でもあるカンロ執行役員 デジタルコマース事業本部長 兼 コーポレートコミュニケーション本部長の内山妙子氏と、Minimal – Bean to Bar Chocolate-を製造販売するβace取締役COOの緒方恵氏に、それぞれの視点からの「顧客の体験価値向上」について聞いた。モデレーターは、Shopify Japanシニア・セールス・リードの伊田聡輔氏が務めた。(本稿は、3月13日~17日に開催された「アドタイ・デイズ2023」のプログラム「人の心を虜にする大ヒットお菓子の秘密~商品+αの体験設計をする上で大事な3つのこと~」を再構成したものです)
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追い風に即応して売上を飛躍的に伸ばした「グミッツェル」
カンロが2012年に発売した「グミッツェル」は、噛んだときのパリッとした独特の咀嚼音がYouTubeなどで話題になったことをきっかけに売上が急増。現在も品薄状態が続いている。これはカンロ側から意図して仕掛けたものではなく、2018年頃からのASMR(咀嚼音)ブームが追い風となり売上を後押しした。その後、2020年2月の新宿ミロードでのポップアップストア(現在は閉店)のオープンに合わせて、ASMRを体験できるブースを設置。グミッツェルの公式咀嚼音も作成するなど、流行を的確に掴み、売上へとつなげている。
自然発生的なムーブメントを逃さず、そして継続させる秘訣は「その時々の環境の変化にすぐに対応したこと」と語る内山氏。ASMR動画が拡散された後、2020年からコロナ禍を受けて直営店「ヒトツブカンロ」を休業する必要があったが、突貫工事で自社のオンラインショップをスタート。そこでECの手ごたえを感じ、その後、店舗が再開するタイミングでオンラインショップを一時休止、2021年5月にShopifyにプラットフォームを変更してデジタルプラットフォーム「Kanro POCKeT」をオープンした。以降、グミッツェルの売上は継続的に伸びている。
「なぜこのような顧客体験価値を生み出せたかを振り返ると、グミッツェルの食べ物としての形状や食感が、SNSで映える・拡散したくなりやすいものだったこと。そして、店舗で購入しにくいところからECに誘導できたことで買えたことの喜びを増幅できたのではと考えています」(内山氏)
ブランドの情緒的価値を高めて競合に挑む「Minimal」
一方、Minimal -Bean to Bar Chocolate- はクラフトチョコレートブランドのスタートアップだ。世界中のカカオ農園に直接足を運び、良質のカカオを選び適正価格で仕入れ、自社工房で職人が全て手づくりで製造・販売をしている。
「これからのブランド体験は、商品単体の魅力や共感できるかどうかを超えて、企業としての哲学やスタンスが信頼できるかまで問われている」と語る緒方氏。
ブランドが大切にしていることや企業姿勢が正しく伝わり、理解され、それらがブランドのメッセージや商品にまでしっかり反映されていることで、初めて顧客が信頼を寄せる。信頼されたブランドは顧客の生活の一部となり、他社では代替できない存在へと進化した結果、購買だけではなく友人へのギフトやSNSでのシェアといった能動的な活動を通じて、売上に貢献するという。
Minimalでは、ECサイトでキャンペーン情報のほか、チョコレートとのペアリングでおすすめのドリンクなどを紹介する一方、公式noteで「MinimalのUX」をテーマに、1万字超に及ぶブランドストーリーや新サービスの開発背景といった、ブランドの考えや現状、試行錯誤の過程などのコンテンツを定期的に発信。「共感と尊敬」をつくりだすためのコンテンツづくりに力を入れている。
緒方氏は、前者の食べてみたくなる、買いたくなる提案など販促のための発信も欠かせないとしつつも、後者の一貫したブランドの人格を感じられるようなコミュニケーションと両輪で回していくことが重要だと説く。
「積み上げのための販促施策ばかりだと、PLだけを見ているようなもので、社内の組織風土や顧客心理もジリ貧になってしまいます。特に僕たちのような小さなブランドは、ブランドとして一貫した『一筆書きのコミュニケーション』も併せて行うことで、ブランドへの共感や思い入れをもってもらうことに加え、顧客から『尊敬できる友達』のように思っていただきたい。例えば、キャンペーンなどを行った際にも『Minimal頑張っているな、気合入ってるな』というように、積み上げ施策もポジティブに解釈していただける可能性が高まると考えています」(緒方氏)
緒方氏は前職の中川政七商店での経験も踏まえ「ブランド理解とLTVは基本的に相関している」と続ける。
「裏返して言うとそれは『思い入れの量』です。嗜好性食品の本質的な便益価値はおいしさですが、コンビニスイーツがここまでおいしい時代に、僕たちのようなスタートアップで4P(製品、価格、プロモーション、流通)のほとんどが欠損しているブランドは、便益的価値だけで戦うのは不利。そのため、思い入れに転換してくれる情緒的価値を高める必要があります。ブランド理解をしてもらうことにどれだけ執念を持てるかが、小さいブランドの生きる道だと思っています」(緒方氏)
同時にMinimalでは、4Pが十分に整っているとはいえないからこそ、共感づくりと「習慣づくり」を狙いとし、毎月違うチョコのスイーツが届くサブスクリプションサービス「CHOCOLATE ADDICT CLUB」を提供している。
オンラインショップに期待される役割・機能の違い
2社ともに、Shopifyをオンラインショップのプラットフォームに採用している。
内山氏は、「Kanro POCKeT」について、「商品を通じてお客様とつながるデジタルプラットフォーム」と位置づける。「ピュレグミ」や「金のミルク」など、カンロの個々の商品が好きな人は多いものの、カンロという企業への愛着を持つファンが少ないというのが同社の課題だという。
そのため「Kanro POCKeT」では、オンラインショップの機能だけでなく、商品情報やブランドサイト、キャンペーンLPのほかに、お客様サポート(問い合わせやFAQ、チャットボット)の機能も設置。「これらをきちんと整備し、カンロについてより知ってもらいつつ、同時に、疑問や不満をサイト上で即座に解消・解決するなど顧客の“痛点”をなくしていくことで、商品やカンロという企業に対して、よりプラスのイメージを抱いてもらえたら」と内山氏は話す。
一方のMinimalは、店舗は「感動の最大化」を担い、ECは「利便性の最適化」を担う機能であり「店舗と商品体験の補完」と位置づけている。
「先に述べたように、僕たちはブランドへの思い入れを持ってもらうことをまず重視していて、そのためには、五感を使ってもらうことと、目の前の人の熱意が伝わることが非常に重要。その意味で接客をすごく重要視しています。『おいしそうだけど店舗に行けない、でもECで買える』『前行ったお店はおいしかったな。でもしばらく行けないからECで買おう』という利便性の補完としてECは機能してほしいと考えています」(緒方氏)
2人が考えるShopifyの魅力
“豊富なアプリで新しい購買体験を比較的低コストで提供できる”
「自社で最初につくったオンラインショップは、食べ物に例えるなら、“素うどん”みたいな状態でした。一方Shopifyは、顧客体験向上のために必要なアプリケーションを、まるで具を足していくように簡単に追加していくことができ、その具(アプリ)の豊富さと手軽さで一択だった印象です」(カンロ・内山氏)
“ずっと待っていたヘッドレスコマースを無理のない投資で実現でき、ROIの向上にもつながる”
「ECに長く携わるものとして、ずっと待っていたヘッドレスコマースの世界。これまで、カスタマイズ不可で安く簡素につくるか、フルスクラッチで○○億かかるかの両極で、ちょうどよい中間がなかなかありませんでした。Shopifyは、API連携で拡張性があり、戦術に行き詰った時にはアプリストアを回遊するだけでも様々な打ち手を考えられます。アプリのつなぎ込みでUXとしてかゆい所に手が届かないシーンはあるものの、それを補って余りある爆発的なROIを出すことができています」(βace・緒方氏)
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