ADFESTの若手コンペに3年越し出場!人事&営業出身コンビの戦い方/出国前篇

タイ・パタヤで開催されたアジア太平洋地域の広告アワード「ADFEST(アドフェスト)」における若手向けのワークショップ・コンペティション「ヤングロータス」。日本からは安本一優氏(ADKマーケティング・ソリューションズ CMプランナー)と高田雄大朗氏(ADKマーケティング・ソリューションズ アートディレクター/デザイナー)のチームが代表として現地参加しました。審査員の審査によるゴールドはダッカ(バングラデシュ)のチームに、そして日本チームは、会場の観客による審査で1位となったチームに送られる「Popular Vote」を受賞という結果に。今回は、この2人によるヤングロータス体験記を「出国前篇」「現地篇」の2回にわけてお届けします。

こんにちは。クリエイティブ2年目、まだまだひよっこのアートディレクター/デザイナー 高田雄大朗と申します。クリエイティブ職に就く前、4年間営業をしていました。つまり、タイトルの「営業出身」の方です。

そして同じ会社の先輩、「人事出身」の安本一優さんと一緒に、「ヤングロータス」日本代表としてアジア各国の若手と競い、会場投票で1位となる“Popular Vote”をいただきました。

広告祭の壇上に上がるという感動的な経験。間違いなく走馬灯に出ると思います。

「ヤングロータス」はアジア各国から予選を勝ち抜いた若手クリエイター(2023年は15の国・地域)がタイに集結し、現地で出題されるブリーフに対し24時間でアイデアを考えてプレゼンをします。人事と営業からのキャリアスタート。そんなクリエイティブの天才ではない僕たちが、この賞のために取り組んだ記録をお話しさせてください。

ようやく… 3年越しの本戦参加

3月19日朝、羽田空港。タイ・バンコク行き飛行機の出発ゲート。コロナが落ち着いてきて間も無いとはいえ、出発ロビーは大勢の人で溢れています。長蛇の列に並びながら、「ここに来るまでだいぶ長かったなぁ」と考えていました。

本戦に出られるきっかけとなった国内予選があったのは、なんと3年も前!(2019年11月~2020年2月)。コロナの影響で、開催が何度も延期されたんです。2020年の代表に選ばれ、ようやく3年越しで出場がかなったのが今回、2023年というわけです。

思い返せばあの予選は、“うまくいった”というよりは“うまくいっちゃった”という感じでした。

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“うまくいっちゃった”国内予選

僕らが出場した国内予選は2回戦ありました。1回戦のお題は、「日本のオーバーツーリズム(人気観光地に人が集中して、周辺住民や環境に悪影響を与える) 問題をどう解決するか」。僕らが出したアイデアは、入国審査を使って地方の温泉街を盛り上げる「SPAMP」というアイデアでした。

長旅で疲れた体の部位を入国カードで申告すると、その疲れに合った地方の温泉街の入国スタンプ、通称スパンプを押してあげる仕組み。行った先の温泉街でスパンプを見せると割引クーポンに。

「飛行機から降りた人はみんな疲れている」というインサイトや、クラフトを評価いただき、無事ファイナリストに。一方で、左脳的な真面目くんな企画だね、という反応もありました。

それならば!真面目くんじゃない一面も見せてやろう、と意気込んで取り組んだ2回戦。「架空のコーヒーチェーン店が、プラスチックごみ問題にどう取り組んだらいいか」というお題でした。僕らは、かわいいものが大好物な若者にゴミ拾いをしてもらう「プラッペ」というお馬鹿企画で挑みました。

透明なバケツにカラフルなプラごみを集めたら、その色味と同じかわいいオリジナルドリンク(フラッペならぬプラッペ)を作ってくれる。かわいいものが大好きな若者はみんなゴミを拾っちゃうはず!

プレゼンでも、僕が「かわいい〜!!」を連呼する原宿の女子高生役を演じ、「ほら真面目じゃないこともできるぞ!」とアピール。戦い方を変えたことでアイデアの幅を感じていただき、ついに日本代表に。

(ちなみにプレゼンに関して、「海外のプレゼンはもっとスマートだよ。こんな寸劇を世界で披露するのは恥ずかしいよ」と、女子高生の格好でちょっとだけお叱りをいただきました……)

…と、ここで問題がひとつ。1回戦も2回戦も、なぜアイデアが思いついたのか分からなかったんです。なんだか“うまくいっちゃった”けれど、本戦でこんな風にアイデアを出せるのか。天才でもない僕らが、同じように結果を出せるの?果たして「アイデア出しの再現性」はあるのだろうか……。

“うまくいく”本戦にするために……

ゲートが開き、いよいよ飛行機に乗り込みます。僕たちが手に持っている荷物は、普通の海外旅行とはちょっと違いました。いつでも資料を印刷できるプリンタ、アイデアを書き出せる大量のA3用紙、味噌汁の素……不安要素となっていた「アイデア出しの再現性」を高めるために持ち込んだもので、荷物棚がいっぱいに。

そんな中、僕らにとっての一番大切な荷物は「道しるべ」でした。

本戦はプレッシャーできっと迷うはず。もしかしたら現地の空気に圧倒されて、おかしな方向に突き進んでしまうかもしれない。そんなときでもこれだけは信じよう、という自分たちなりの「道しるべ」をつくることに決めました。

そこで出発前、図々しくも、大先輩のクリエイターの皆さまに審査員をお願いし、全6回、実践と同じ24時間の模擬課題に取り組みました。そこで見えてきた強みや弱みを踏まえ、たくさんの「道しるべ」が生まれました。一部を紹介します。

出発前、たくさんの「道しるべ」たちを整理している様子

道しるべ1:観客はみんな酔っている!?

いきなりなんだよ、という感じかもしれませんが、説明させてください。ヤングロータスには、審査員審査の1位ゴールドと、観客審査1位のPopular Voteがあります。過去の傾向を見ていると、ゴールドに選ばれる案はホストとなる広告会社の好みによって変わってくるようでした。一方でPopular Voteに選ばれる案は、常に大衆ウケするアイデアでした。

もちろん両方取れるに越したことはないけれど、何のしがらみもない観客に選んでもらえるPopular Voteを獲る「道しるべ」は、つくりやすそうだと思いました(何より、どうやったら観客にウケるか考える方が僕たちの性に合っていました。楽しそうですし!)。

では、どうやったらPopularVoteをとれるのか。

ここに小さく書いてあります。

それが、「観客はみんな酔っている。」でした。広告祭は年に1度のお祭。であれば、きっとみんな酒を飲みながらプレゼンを聞いているはず。だったら、「自分たちのアイデアは、酔っ払いでも楽しめるか」という視点で小難しい説明はせずに、「アイデアのシンプルさ」と「とにかく直感的なコピーとビジュアル」を突き詰めよう、と決めました。

(…と海外広告賞経験のない僕たちは本気で思っていましたが、実際は酔っている人などおらず、真剣に聞いてくれていました。すみません。)

道しるべ2:インサイトがあれば、あとはどうにでもなる!

課題を取り組む中で、「インサイト」がないとアイデアが膨らまないという経験をしました。

たとえば、「定期的な歯科検診に行ってもらうためには」という模擬課題に取り組んだ時。「グルメマンガのキャラクターがやわらかいものしか食べられなくなるドッキリで、歯の大切さを伝える」「Siriが突然うまく喋れなくなり、あとから歯がなくなったとネタバラシする」といったアイデアが出ていましたが、どれもなかなか膨らまない……。

原因は、そこに「インサイト」がないからでした。でも。「歯がなくなった未来の食事を見せて、“こんなの食べたくない!”と思わせられたら…?」という視点が出てからは少し違いました。

飲食店が、歯がなくても食べられる、BitingFreeMenuを開発。こんなの食べたくないでしょ?と訴える

インサイトがしっかりとするだけで、この施策に触れた時のターゲットの気持ちが見えてきて、勝手にアイデアとストーリーが動き出しました。もし当日迷ってしまっても、そこにインサイトがあれば信じて突き進むのみ。エグゼキューションは、きっとどうにでもなる!僕たちは、とにかくインサイトを企画の中心に置こうと決めました。

道しるべ3:コアアイデアをしゃぶりつくせ!

模擬審査のフィードバックで教えていただいた言葉のひとつ。これがまさに、今回一番明確に再現性を出せる方法でした。ひとつコアアイデアが出たら、こんなこともできるかもしれない、こんなこともやってみていいんじゃないか、とどんどんアイデアを重ねていく。

もちろんコアアイデアにはある程度の実現可能性が重要です。ただ、このフェーズでは多少それを無視したとしても、見た人をどこまでワクワクさせられるかを粘って考えます。それが企画の説得力に直結していくと思いました。

(特にヤングロータスは、若者のキラキラと熱意を応援してくれるアワードなので、アイデアが決まったらそれを信じてしゃぶりつくす方法が向いている気がします!)

他にも、「視座を上げる」「ターゲットの輪郭をはっきりさせる」「Simple/Smile/Surprise」「裏側のアイデアに行かない」… などなど、本番に向けてのたくさんの「道しるべ」が生まれました。

いざ、出国!

僕は小心者なタイプですが、そんな僕でもここまでやると、「なんかいけるかもしれない!」という謎の自信が生まれてきました。果たして力が付いたかは置いておいて、力を付けようとした過程って、気持ちの上で大事なんですね。

……といいつつ、離陸のアナウンスが聞こえると、いよいよかと心臓がバクバクしてきました。やっぱり小心者でした。

現地はどんな感じだろう。果たして「道しるべ」は役に立つのか!? 次回、安本さんにバトンタッチしてレポートします!

安本さんのレポートはこちら

安本一優(やすもと・いちゆう)
ADKマーケティング・ソリューションズ CMプランナー

2013年ADK入社。人事、営業を経て、クリエイティブ職に。CMが大好きです。受賞歴:ADFEST シルバー、ACC シルバー、JAA賞メダリスト、広告電通賞 シルバー、朝日新聞広告賞、FCC賞、CM総研「BRAND OF THE YEAR 2020」特別賞、PRアワード シルバー 、HRアワード 優秀賞、アドフェスト ヤングロータス2023日本代表 / PopularVote 他

高田雄大朗(たかだ・ゆうたろう)
ADKマーケティング・ソリューションズ アートディレクター/デザイナー

1995年生まれ。2018年ADK入社。4年間の営業を経て、2022年よりクリエイティブ職に。受賞歴:アドフェスト ヤングロータス2023日本代表 / PopularVote、メトロアドクリエイティブアワード、宣伝会議賞、奈良新聞クリエイティブアド、M1グランプリ2回戦敗退 他。



 

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