サステナビリティ可視化で未来の旅のイメージを醸成

2022年11月、日本航空(JAL)はCO₂排出量実質ゼロを実現する「サステナブルチャーターフライト」を行った。未来のサステナブルな旅を体験する場をつくった同社の試みについて、ESG推進部の2人に話を聞いた。

※本稿は『広報会議』2023年6月号の「サステナビリティこれからの伝え方」特集より抜粋しています。
 

SUMMARY

❶「未来のフライト」の発信でメディア露出
❷ なぜ自分たちがこの活動をするのかを明確に
❸ トップメッセージとボトムアップの両軸でサステナビリティの浸透をはかる

2022年11月、日本航空(以下、JAL)は日本初となるCO₂排出量ゼロの「サステナブルチャーターフライト」を羽田~那覇便で実現させ、全国紙や各キー局で取り上げられた。CO₂排出量実質ゼロに成功したこともさることながら、「今出来ることのすべて」に業界全体で取り組んだ姿勢が、乗客からも好評だったという。この取り組みの背景について、JALのESG推進部企画グループ 西岡桃子氏は次のように説明する。

「世の中の潮流としてCO₂排出量の削減が話題になっていますが、飛行機というのはどうしてもCO₂排出量が大きい乗り物。今のまま運航を続けていては衰退していくことが目に見えています。そこで『未来の旅』について考えた結果思いついたのが、私たちの考える『未来のサステナブルフライト』を一度実現してみる、というこの企画でした」。

実施にあたって気をつけたのは、一方通行のコミュニケーションにならないこと。搭乗する乗客に趣旨を理解してもらい、サステナビリティについて考えるきっかけにしてもらうことを意識したという。

そこで、サステナビリティについて常日頃から考えている3人の有識者を外部から招いた。「慶應義塾大学でESGの研究をされている蟹江憲史教授、『ソトコト』編集長 指出一正氏、そして、サステナブルな食事に力を入れるシェフの狐野扶実子氏。それぞれ専門が違うこのお三方に『未来のフライト』をテーマにトークセッションをしていただきました」(西岡氏)。

また、乗客が機内で使用するプラスチックの袋を紙素材に変えたり、提供する飲み物と食事のすべてにサステナブルな食材を使用するなど、従来の取り組みに加えて新たな試みも加えたフルモデルチェンジを行った。また、D&Iの観点から乗務員の男女比率を変えるなどの配慮も行ったという。JALグループの社員で聴覚に障がいのあるスタッフに同乗してもらい、トークイベントの内容を手話で伝えるなど、多くのチャレンジを盛り込んだ意欲的なフライトになった。

サステナブルチャーターフライト内のトークセッションを手話で表現する社員の様子。

 

サステナビリティを“可視化”

このフライトは、JALだけでは到底実現しなかったと西岡氏は言う。

「『サステナブルチャーターフライト』は、様々な企業や社内外のステークホルダーの協力があったからこそ実現したプロジェクトでした。企画段階から“こういうフライトをやりたいんです”と話して回ったところ、凄くポジティブに賛同してくださる方が多かった。そこで感じたのは、どの企業も悩みながらサステナビリティに取り組まれている、ということでした。業界を挙げて取り組んだことで、サステナブルな空の旅の可能性を“可視化する場”をつくったとも言えます。その結果、航空業界全体にポジティブなイメージを与えられました。ですが、私たちのゴールはすべてのフライトをサステナブルなものにすること。今後は、例えば修学旅行を対象にサステナブルフライトを行うなど、テーマを取り入れながら拡充していくつもりです」(西岡氏)。
 

現場からの発案も

また、JALが2022年に発表した中期経営計画(2021~2025年度)の改訂版では、ESG戦略が経営の軸として置かれている。これは人やモノの流れもふくめ、すべての事業においてサステナビリティを推進することを意味しているという。2018年にはJTBと「日本アドベンチャーツーリズム協議会」も設立している。そういったサステナビリティに対する推進力は、どのようにして生まれているのか。ESG推進部企画グループ長 亀山和哉氏は次のように述べる……

※この記事の続きは『広報会議』2023年6月号 にてお読みいただけます。

広報会議2023年6月号

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