一橋大学大学院
経営管理研究科 教授
円谷昭一
「統合報告書について学生からの意見がほしい」。こういった企業からのオファーを受け、一橋大学大学院・円谷昭一研究室では、「学生による統合報告書感想プロジェクト」を2022年から開始。本プロジェクトは、大学1年生が統合報告書を読み込み、競合他社との比較検討も行うものだ。
学生と投資家の目線には当然違いがあるものの、「次世代の投資家・取引先となる若い層は、どのような情報が知りたいのか」という企業からの関心の高まりが、このプロジェクトの背景にある。
加えて、同大学には、就活時に統合報告書を読み込む学生が一定数おり、面接時に報告書に書かれた内容を逆質問したり、複数の内定を絞り込むときの最終判断材料にしたりしているという。では、学生からの評価が高い統合報告書にはどのような共通点があるのか。一橋大学大学院教授の円谷昭一氏に話を聞いた。
専門用語は言い換えを
まず、企業への理解が進む報告書は「ビジュアル・内容共に分かりやすい」。ビジュアル面でいえば「字が小さすぎない」「図解が多く使用されている」「専門用語や社内用語が使われていない」ことが重要だそう。内容面でいえば「課題から結果的にどう改善していく予定なのかが分かる」「将来の展望に沿った構成になっている」ことが挙げられるという。
「社内用語に関しては、つい当たり前に記載してしまいがちですが、社外の投資家にとっても分かりにくいもの。内容の充実を図るだけでなく、こうした細かい表現についても意識が向くとより伝わる統合報告書になります」(円谷氏)。
入社後成長できる社内環境か
では、分かりやすさがクリアされたとして、次世代のステークホルダーになり得る学生は、統合報告書の何を見ているのか。
働く先としての企業の魅力を知りたい学生にとって関心があるのは、面接や説明会だけでは分からない「社風や社内環境」についてだ。
「入社する企業を最終判断する際に、社内の実情が分かる情報を探し、比較検討している学生は少なくありません。自分がこの企業に入って成長できるのかといった指標のひとつとして、人的資本の情報は重要だと考えている学生もいます」(円谷氏)。
学生はどこを見ているのか
また、すでに投資家目線を持つ学生もいる。円谷氏が2022年、JSI(ジャパン・スチュアードシップ・イニシアティブ)と共同で、一橋大学の学生408名に実施した調査によれば、会社のサステナビリティ活動全般を高評価しているわけではなく、あくまで企業の経済活動に関与する領域におけるサステナビリティ活動を評価していることが分かった。……
※この記事の続きは『広報会議』2023年6月号 にてお読みいただけます。
広報会議2023年6月号
【特集】
企業のサステナビリティ
これからの伝え方
GUIDE
一貫性ある開示が企業価値高める
保田隆明(慶應義塾大学総合政策学部教授)
OPINION1
長期視点で評価される企業のESG情報とは
伊井哲朗(コモンズ投信 代表取締役社長 兼 最高運用責任者)
COLUMN
ポイントをしぼったサステナビリティ発信
関 美和(MPower parters ゼネラル・パートナー)
共感の輪を広げる「人的資本」の戦略的な伝え方
双日/KDDI/SOMPOホールディングス
OPINION2
人的資本の情報開示、広報の役割とは
経済産業省
OPINION3
メディアから見た
「ESG」発信の蓄積が上手い企業とは
会社四季報オンライン
【第2部】
ESG発信ケーススタディ
CASE1
世界初のCO2排出量実質ゼロフライトでメディア露出
日本航空(JAL)
CASE2
社会での自社の存在意義打ち出しパブリシティ獲得
アセンド
CASE3
未来を創造するための統合報告書
アバントグループ
CASE4
サイトでビジョンから商品を一気に紹介
オムロン
CASE5
ステークホルダーを巻き込み「本気感」伝える
不二製油グループ
CASE6
方針の明文化で従業員の当事者意識を醸成
ポーラ
CASE7
明確な目的掲げたインプットと議論の場づくり
TBM
CASE8
エアコン業界全体の脱炭素と発展に向けて
ダイキン工業
【第3部】
納得感を高めるサステナビリティ発信 実践編
OPINION1
ストーリー性のある開示・改善のサイクル
野村総合研究所
OPINION2
学生から見た「統合報告書」
一橋大学
COLUMN1
評価される「統合報告書」のポイントとは
イチロクザン二
COLUMN2
従業員が誇りを持てる取り組みにするには
揚羽
ほか