2023年5月10日の朝日新聞・中日・東京新聞の朝刊に、ユニクロの「母の日」(5月14日)の広告が掲載された。今年、「母の日」広告に登場したのは、人気漫画・アニメ『ちびまる子ちゃん』の主人公まる子とお母さんだ。キャッチフレーズは、「話そうよ、母の日に。」。
「去年の広告を超えるべく、ユニクロの皆さんとチームでアイデアを出し合いました」と、アートディレクター 玉置太一氏。
2022年の「母の日」広告には、『あたしンち』のお母さんが登場。“「プレゼントはいらないよ」といながらも、実は欲しがっている母”というインサイトに基づき、新聞をめくるたびに『あたしンち』のお母さんが近づいてくる広告が話題を集めた。
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「昨年の反響を踏まえて、今年もまずは母と子のインサイトをチームで掘るところからはじめていきました。そこで出てきたのが、『お母さんは子どもにいろいろ求めてつい叱ったりしてしまうけど、本当はいてくれるだけで感謝している』『子どもはお母さんに口答えばかりしてしまうけど、本当は感謝している』という、分かり合えないけれど心の奥の方ではつながっている母と子の本音でした」(コピーライター 真子千絵美氏)
そんなインサイトをもとに、なんでも話している母と子でも、なぜか大切なありがとうの気持ちは言えないといった母と子の関係性にマッチする「ちびまる子ちゃん」を取り上げることになった。
そして、“新聞を心の壁に見立てる”という考え方のもと、母で15段、子で15段としてそれぞれの広告が成立しているけれど、間にある新聞(=壁)を抜くと、実は30段として繋がっている、というアイデアが生まれた。まさに新聞だからこそできる特性を利用し、そんな二人の姿を描いている。
まず、新聞の6面に左を向いているまる子の15段を掲載。そこには、お母さんに対しての想いが綴られている。同一紙の23面には右を向いているお母さんの15段。そこには、子に対する想いが綴られている。普通に新聞を読んでいくと、母と子の15段広告が違うページに2つあるように見えるが、間に挟まっている新聞の束を取り除くと、実は新聞の奥の方で30段としてつながっているという仕掛けだ。
「お母さんとまる子の絵はつながり、お互いを見つめ合う絵に。各々の想いだと思っていたコピーは、30段としてつながって読めるようになっています。普段、一番近い存在だからこそ、なかなか直接話せない母と子。その心の奥の気持ちを新聞で可視化したのです」(玉置氏)
それを実現するためには、母と子でそれぞれ15段用のコピーとして成立しながら、両者をつなげた時にも文章として成立する言葉が必要だった。コピーライター 栗田雅俊氏と真子氏は、かなり綿密に設計しながら、コピーをまとめていったという。
「互いに違うことを感じながら、徐々に同じ気持ちとなっていく二人を表現するために、4行目まではそれぞれの言葉でありながら、5行目からは互いの文章がつながっていくようになっています。単体だけではなく30段にした時に文章がつながっていることをわかりやすくするために、お母さんの方には『、』のみを使い、まる子の方には『。』のみを使っていたり、『話そうよ、』『母の日に。』の倒置法にすることで続きが反対側にあることを示唆したり、細かな点でも工夫しました」(真子氏)
絵は、これを表現するために、背景は何もなくお互いが見つめ合うだけのシンプルな絵になっている。
「無駄なものを削ぎ落とし、精神性を感じる、心象風景にも見えるシンプルで強い絵にしました。これができるのも、ちびまる子ちゃんというみんなが知っているスーパースターだからこそできた表現だと思います」(玉置氏)
新聞のほかにも、店頭ポスターやSNSも展開。こちらもさまざまな視点で母と子のインサイトを掘りながら考えていったという。特に好評だったのが、ユニクロのSNSで投稿された「よく怒るのは、よく見てるから。」。Twitterでは、この1投稿で4700件を超えるいいね!があった。
また、店頭でユニクロギフトを買うとプレゼントされた、花をモチーフとしたチャーム(メッセージカード)も制作。カードに描かれたたくさんの花々をよく見ると、「ありがとう」の文字が浮かび上がってくる。
「新聞のインサイトと同様に、一番近い存在だからこそなかなか言えない関係性をチャームでも表現できないかと考え、花々の中に感謝の言葉をこっそり込められる仕掛けをデザインに施しました」(アートディレクター 関口遼氏)
実際に遠近感を持たせた花をセットして撮影し、「ありがとう」を浮かびあがらせている。
「オリエンをいただく前に、昨年クリエイティブの成果と課題に関してユニクロさんとディスカッションさせていただけたことで、全体設計と各施策の役割がクリアな状態からキックオフすることが出来ました。
結果、今年は、メッセージカードの制作にも関わらせていただいたり、新聞以外のSNS、店頭ポスターなども話題化、さらには母の日ギフトの売上向上にも微力ながらお役に立つことが出来たのかなと思っています」と、クリエイティブディレクター 井戸真紀子氏。
今回の広告は、中国、香港のSNSで話題に、台湾ではテレビ番組などでも紹介されたりと、アジア圏でも話題を集めたという。
「チームやヒアリングにご協力いただいた方の母子の日々、気持ちに、真っ直ぐ、深く向き合い、伝えようとしたことが、国境を越え、何かを感じていただけたという経験は、次につながる思わぬ勇気をもらえました」(井戸氏)
スタッフリスト
■共通
- 企画制作
- 電通
- CD
- 井戸真紀子
- AD
- 玉置太一、関口遼
- C
- 栗田雅俊、真子千絵美
- D
- 菅原良太、田口美希、梁取幸子(sora inc.)
- 作画
- 吉岡彩乃(日本アニメーション)
- 作画補助
- 堀籠正樹(朝日新聞社)
- イラスト着色
- 喜多啓介・上嶋和巳
- AE
- 前田浩行、三浦良晃、高木綾乃、中山洋介
- メディアプランナー
- 赤松英治、田中僚、岡村莉紗子、小島里佳
- 印刷
- 精美堂
■チャームのみ
- Pr
- 伊藤圭太
- 撮影
- 興村憲彦
- 美術
- 吉嶺直樹
- レタッチ
- 小野隼人