インターネット広告がマス4媒体総計の売上を追い抜き、さらに成長を続けています。この広告市場のなかで、マスメディア企業はどのような戦略を描いているのでしょうか。
昨今、マスメディア企業のデジタル・トランスフォーメーションを模索する動きは、加速しています。それでは、デジタル化の先に、どのような事業戦略、ビジネスモデルが見いだせるのでしょうか。
「Advertising Week Asia 2023」に登壇するメンバーを中心に、マスメディア企業で広告ビジネスにかかわるキーパーソン4名に一問一答形式で回答してもらいます。1つ目の質問のテーマは「新たな広告商品の開発と活用できる資源」でした。
2つ目の質問は「パブリッシャーとエージェンシーの関係性」です。昨今、メディア企業側がブランドスタジオなどのコンテンツ制作機能を強化したり、またデジタル広告配信の仕組みを構築するなど、広告会社的な機能を持ち始めています。そもそも、こうした動きが「ある」と考えるか。また「ある」「ない」いずれの回答をした場合でも、業界全体に、こうした潮流があるとするならば、その流れに乗るべきだと考えるかどうか?4人の回答者の見解を聞きました。
Q2:【パブリッシャーとエージェンシーの関係性】
パブリッシャー側がブランドスタジオなどのコンテンツ制作機能を強化したり、またデジタル広告配信の仕組みを構築するなど、広告会社的な機能を持ち始めていると思います。
そもそも、こうした動きが「ある」とお考えですか?また「ある」「ない」いずれの回答をされた場合でも、こうした潮流があるとするならば、貴社はその流れに乗るべきだとお考えですか?
【長崎氏のAnswer】
この場をお借りして、2年前の答え合わせをさせてください。
実は私は、AWA2021の開催時にアドタイで、今回と同様の連載企画に参加しておりました。その際に次のようなコメントを書きました。
「DXとともに問われるのは、広告主企業、広告会社、メディア企業の新たな三者関係ではないでしょうか? 従来の広告会社の役割は、クライアントとメディアをビジネスで繋ぐ『トランスレーター(通訳者)』でした。これからのメディアビジネスが出稿から『目標と成果』を共有するモデルへシフトしていくならば、今後期待されるのは、三者による鼎談を司る『モデレーター』の役割だと思います」。
さらに同年11月には、「宣伝会議サミット2021」の場で、博報堂DYホールディングス常務執行役員の安藤元博さん、「宣伝会議」編集長の谷口優さんとともに、「広告会社・メディアビジネスのDXとは?変化する時代における、それぞれの新しい役割を考える」というトークセッションに参加させていただきました。その際に3人で共有できたのが、次のような概念図です。
この図の中では以下のような考え方があります。
①マーケティング・コミュニケーション活動の基点は生活者であること。
②広告主企業においては、生活者(顧客)接点を持つ全ての部署が連携し、マーケティング・コミュニケーション活動を形成すること。
③広告主、広告会社、メディアはデータで結線され、フラットな共創関係に近づくこと。
ここでようやく、今回の質問への回答ですが、私としては「ある」になります。
当社のマーケティング情報ポータル「C-station」はメディア以外に、もうひとつの役割があります。それは、講談社の保有するライツ・メディアの資産を元に、様々なプレイヤーとのビジネスマッチを担うコンシェルジュサービスです。よく誤解されるのですが、これは広告主との直接商流を拓くのが主目的ではなく、前述の概念図にある共創関係を築くために必要なアダプターのひとつだと考えています。
ところで、現在における広告会社全体への印象ですが、「トランスレーター」と「モデレーター」それぞれのタイプが併存しているように感じています。逆に、私たちメディアにおいても同様のカオスがあります。それでも、理想とする「シン・メディアビジネス」へは道半ば。変わりなく、追いかけていきたいと思います。
【神田氏のAnswer】
「ある」と考えます。
メディアとして最も重要な点は、コンテンツを生み出すことです。そしてそれを生活者に届け、生活者と企業を継続的につなげていく事ができるかだと考えます。共感によって人から人へと伝えられるようなコンテンツの制作力が重要です。
その上で自社メディア価値向上の一環として、
例えば、デジタル、広告配信の仕組みを構築することで、広告主に、より効果的なターゲティングや計測データを提供ができるのであれば、自社開発によりそのような機能を持つことはより価値を高めることに繋がると思います。
ただし、生活者のメディア接点の選択肢や可処分時間は多様化していますので、ひとつのメディアのみですべてが解決することはないでしょう。メディアが生活者にとって、広告主にとって、何が求められおり、どのような自社資源が活用できるのか検討、開発し、新しいメディア価値の訴求のために、広告会社と柔軟に連携していく事が重要ではないでしょうか。
【牧江氏のAnswer】
繰り返しになりますが、パブリッシャーがコンテンツ制作機能を強化する流れは加速すると思います。電子版のタイアップ広告なども長期間で展開されるものでしたらPDCAサイクルに沿って顧客企業に伴走させていただけますし、自社媒体にとどまらず、タクシー広告やデジタルサイネージなどと連携する事例も生まれてきました。
確かにこれらは、広告会社的な機能だとは思いますが、だからと言って広告会社との関係は希薄化しているわけではありません。むしろ深化していく方向ではないでしょうか。近年、社会課題や経営課題に寄り添うコミュニケーションの重要性が高まり、広告会社の皆さんと企画段階からご相談させていただくことも増えました。また、近年はコンサルティング会社、PR会社などの存在も大きくなったと思います。業界の括りが良い意味で曖昧になって、様々な企業の皆さんと協業させていただくことで、コミュニケーションに関わる業界自身が活性化することは、とても良いことだと思います。
一例ですが、当社は昨年、インターブランドと共同でパーパス経営調査を実施し、たくさんの発見がありました。6月には、Advertising Week Asia2023が東京で開催されますが、こうした機会が新しい企業の皆様との出会いの場になるのではと期待しています。
【櫻井氏のAnswer】
グローバルでも日本でも「ある」と考えています。
LIVE BOARDも、パブリッシャーであり、プラットフォーム企業であり、データに基づいた広告配信を行っています。
メディアのDX化の進展によって、従来、メディア企業や広告会社のメディア部門が担って来た業務が自動化されていくのは自然な流れだとは思いますが、100%自動化されるには、まだまだ沢山の課題があるし、特にOOH業界はリアルな世界なので、その道のプロフェッショナルなインサイトが必要です。
一番、大切なことは広告主にニーズにかなったサービスになっているかどうかであり、OOH業界を見ると、一貫した評価基準に基づきワンストップであらゆるコンタクトポイントの中からターゲットに最適な配信プランを提供し、その結果を効果検証できると、それは広告主にとっても有益なプラットフォームということになると捉えています。
特に昨今では、テレビ広告やウェブ広告と同じテーブルに並べて比較検討できる材料が揃っているかが重要です。
それをOOH業界がひとつになって実現できると、OOH広告市場自体は大きく成長すると捉えていますし、LIVE BOARDもその実現に向けて貢献したいと考えています。
回答者4名のプロフィールはこちら記事にて紹介。