【前回コラム】宮藤官九郎さんに出会わなければ、全く違う人生だった(仲野太賀)【後編】
今回の登場人物紹介
※本記事は2023年4月30日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
「Chat GPT」のせいで、大学がまさかの先祖返り!?
澤本:はい、皆さんこんばんは。CMプランナーの澤本です。
権八:はい、こんばんは。CMプランナーの権八です。
中村:こんばんは、Web野郎こと中村洋基です。近況報告はなにかありますか?
澤本:近況はね。昔、CMや広告をやっていた人で、今は大学の教授になった山本高史さんていう人がいるんだけど。
権八:はいはい。
澤本:その人が「学校の成績がつけられない」っていう話をされていて。
権八:学校の成績がつけられない?
澤本:つまり、ChatGPTで全員が論文を書いちゃうわけ。となると、成績をつけるにはもう対面で面接するしかないんだって。
権八:はいはいはい。
澤本:生徒が書いてきたものだと成績がつけられないから「面接ばかりで大変だ」って言ってた。
権八:すごいね~!
中村:AIのChatGPTが、生徒の代わりに卒論や論文を書いちゃうんだけど、精度が高すぎて、もう教授にも見分けがつかない、と。
澤本:そう。だから成績をつけるには面接しかないと。もう、先祖返りしてるよね。そういう波が、広告にも来るんじゃない? もうすぐ。
中村:来ますよね。僕もWeb野郎だけにChatGPTをちょっと触ったりしてますけど。実は、歌詞などをそれっぽく書かせるの、めちゃくちゃうまいんですよね。ヒップホップ調で韻を踏む、みたいなのもめちゃくちゃ速いし。コピーライティングも「新しいサービスのネーミングを10個出して」って言ったらもう一瞬でポーン!って出してくるんですよね。
権八:うん!
中村:今はまだ「それっぽいもの」を出してくるだけだから、驚きやひらめきという点では人間のコピーライターの方が上だとは思うんだけど……。でも、これは近いうちにヤバいことになるんじゃないかな、広告の領域も。
澤本:だって、例えば「糸井重里さんみたいなコピー書いて」と言って糸井さんのコピーのデータを読み込ませれば、なんとなくそれっぽいのが出てくるんだよね。
権八:今だと、データを読み込ませなくてもあっという間にやってくれるわけでしょ?
中村:そうですね。
澤本:でもさ、「澤本さん風のコピー」や「権八さん風のコピー」って入力した時に、偏ったものが出てくるとイヤだよね(笑)。
権八:すごいね、でも本当にあっという間にそうなりましたもんね。だから、大学によってはChatGPTを禁止してるとか言うけど。
澤本:だって、国でも禁止してるところもあったもんね?
権八:恐ろしい……。でも、これって恐ろしいのかな。なんなんですかね?
澤本:うまく転がれば、僕たちが頭を使ってやる部分がもっと専門化できるだろうけど。うまく使わなければ、機械に従属してしまうな、と。
権八:うんうん!
澤本:もう、この先はわかりません……。
蜷川幸雄さんの愛情に、思わず号泣
中村:あははは! そんな、リテラシーの高い話を珍しくしたところで、このブースからイケメンの雰囲気がしています。
澤本:僕らではないからね(笑)。
中村:そうですね、おじさんたちですからね(笑)。というわけで、超素敵なゲストにお越しいただいております!俳優の勝地涼さんです。よろしくお願いします~、こんばんは!
勝地:よろしくお願いします~!こんばんは。
中村:勝地さん、なんか目がウルッとしてるんですけど。
勝地:ちょっと朝の番組に出てから家に帰って寝てて……(笑)。気付いたら、出発する時刻になっていて(笑)。すみません! 今、必死に起こしております(笑)。おはようございます!
権八:だって、朝の番組で号泣したんでしょ?
勝地:そうです。蜷川幸雄さんから10年前にいただいたVTRを改めて見た時に、当時は感じられなかった蜷川さんの愛情の深さだったり、今も戦っている問題だったり。あー、こういうことをあの時から言ってくれていたのか……と思うと、すごく感慨深くなってしまい、お恥ずかしながら、泣いてしまって(笑)。
権八:いやいやいや。その名残がちょっと、目の周りの赤さに、ね(笑)。
中村:泣いたからなのか、寝起きだからなのか(笑)。
勝地:すみません(笑)。
中村:蜷川さんとのお話もまた聞いていきたいんですが。毎回、ゲストの方にお願いしている「20秒自己紹介」というのがございまして。この「すぐおわ」は、広告の番組ということで、ご自身の自己紹介をラジオCMの秒数 20秒間でやってみてくれないか、という。
勝地:20秒ですね。頑張ります!
中村:早速、いいですか?
勝地:はい、大丈夫です。
中村:それでは、いきます。では、どうぞ!
カーン♫
勝地:14歳の時にデビューさせていただきまして、10代の頃は自分のことを「二枚目俳優」だと思い、20代前半ぐらいまで過ごさせていただきました。ところがある時、古田新太さんから「三枚目俳優だよ?お前は」と。でも、俺は「2.5枚目」だって抗っているうちに、気づいたら「3.5枚目俳優」になっている、勝地涼でございます!
カンカンカン♫
一同:あはははは!
権八:すごい!
澤本:完璧だね。
勝地:最後、ちょっと合わせにいきました(笑)。
権八:いやいやいや。寝起きとは思えない!(笑)。仕上がってますね~!すごい!
たった一度の「前髪クネ男」が大反響!
澤本:「お前は三枚目だよ」って、古田さんに言われたんですか?
勝地:はい。「劇団☆新感線」の舞台でご一緒させてもらって、古田新太さんから「なんかお前、二枚目風の顔でそこにいるけどさ、お前違うぞ? お前こっち側のレールだぞ」って言われて。「いや、違う!」と言いながら、2つのレールにかけた足をグーッ!と我慢してたんですけど……(笑)。
権八:2.5枚目の場所で?
勝地:そうなんですよ。気づいたら3.5枚目ぐらいの場所まで飛んでいた、という。
澤本:あ~、向こうにいっちゃった、と(笑)。
勝地:はい(笑)。
権八:そうですか? やっぱり、二枚目じゃないですか?
勝地:いやいやいや! でも、今の自分があるのは、古田さんが導いてくれたおかげというか。その時に、同じ舞台に宮藤官九郎さんも役者で出ていて。「勝地くんて、バカだよね!」と言ってもらって。語れば語るほど、バカがバレる、というか。
権八:あはははは!
勝地:でも、「それが君の良さだよ」みたいな感じで言ってくれて。そこから舞台に立つ時にも殻が破れた感じがあって、映像をやる時も「バンッ!」ていけるようになった感じがあります。
澤本:へえ~! その新感線の舞台は、例の「前髪クネ男」より前ですか?
勝地:全然、前ですね。前髪クネ男が2013年くらいで、その舞台は……。あれ、ちょっと計算できないな。
澤本:あはははは!
勝地:それが20歳ぐらいの時で。前髪クネ男は26、27ぐらいですよ。
澤本:じゃあ、結構初期に「お前はこっちだ」と言われたってことですね?
勝地:そうですね。
中村:当たり前のように連呼してますけど「前髪クネ男」をリスナーに説明しますと、朝ドラの『あまちゃん』(2013年、NHK)の役ですよね?
勝地:そうです。
中村:『あまちゃん』で、1話だけ出てきたんですよね?「前髪クネ男」が。
勝地:そうです。150話以上あるうちのたった1話ですね。
中村:そのたった1話で話題をかっさらっていった、と。
勝地:そうですね。
中村:勝地さんがチャラチャラと「前髪クネ男」で出てきた時に「あれ? この人、二枚目かと思ったら『3.5枚目』なんだ?」みたいな(笑)。
勝地:そうですね。僕を知らなかった人の多くが「この人、誰?」と覚えてくれた作品なので。
権八:「前髪クネ男」というのは、役名だったの?
勝地:いや、役名は「TOSHIYA」です。
権八:あっはっはっは!
勝地:ZOO STREET BOYSの「TOSHIYA」っていう役で。ただ、のんちゃん演じる主人公が心の声で「前髪を変な髪型にして、なんかジャラジャラつけて、腰をくねくねさせて……。もう、オラ、『前髪クネ男』と呼ぶことにする!」って言っただけなんですよ。
権八:わはははは!
勝地:だから、前髪クネ男は別に名前でもないんですよ。僕は、その時までに色々実績を積み重ねて、ようやく「月9」に出て。まあ、その時も恋愛ものなのにコメディーっぽい役でしたけど……(笑)。でも、「月9」に出てたんですよ? 大河ドラマ『八重の桜』(2013年、NHK)で「山川健次郎」という汚名を晴らすべく最終回まで出続ける会津の男の役をやっていたのに、その途中で放送した『あまちゃん』のたった1話、「前髪クネ男」だけでそれしか言われなくなって。もう、ビックリしました!
一同:あはははは!
勝地:でもなんか「面白いな」とは思いました。役者って、自分が積み重ねてきたものや「自分はこうだ」と思っていることとは関係なく、世間の人の「私はこの時から知ってる」「俺はここからだよ」ということで全然いいと思っていて。だから、今日のラジオで初めて勝地涼を知っていただく人がいていいわけですし。そんなふうに思うようになりました。
中村:そうですよね。今はネットニュースなんかで一夜にして俳優さんが人気者になったり、見方が変わってしまったりしますもんね、クネ男さん?
勝地:あ、どうも、クネ男です……。
一同:(笑)。
権八:じゃあ、クネ男で認識した人は当時いっぱいいたんですね。
勝地:そうですね。そこで知っていただいたのが大きいですね。もちろん、いろいろなジレンマもありましたけど、でもやっぱり「人に求められること」が大切だと思うので。「俺は違うんだ」って抗ってもしょうがないかな~、とは思いますね。
舞台の袖から「チッ、今日もダメだったな!」
中村:古田新太さんはよく見出しましたね〜。それより何年も前に。
勝地:そうですね。でも、古田さんが朝の番組で言ってくれたのは「三枚目ができる方が、武器になるんだよ」という思いもあったんだと。だから、舞台で笑いを取ることに関しては、もうめちゃくちゃ厳しくて……。本当に、毎日のように稽古後の飲み屋でも稽古が始まり、帰りのタクシーの中でも稽古をして、と。その上、舞台は終わったのにもう一度そのセリフをやらされて。もう本当に師匠ですね、僕にとって。
澤本:「飲み屋の稽古」って、どういうものなんですか?
勝地:単純に稽古場の延長で「ちょっと、今これをやってみろ」だとか「なんでお前は、そこで間を持つんだ!?」みたいな。それは、呼吸するタイミングが違ったり、「笑い待ち」は俳優として一番やってはいけないことだったり。「笑いがドッカンドッカン来てる時に“待ってあげる”のは、次のセリフを聞かせるためであって、お前が喜ぶための時間じゃないから!」と言われたり(笑)。
中村:あはははは!
勝地:もう、当たり前のことなんですけどね。やっぱり、舞台に立っているとだんだんそういう部分が麻痺してきたりするので。そういうのを、厳しくも愛のある言葉で。
でも、古田さんは自分の出番が終わったら楽屋にいればいいのに、僕が課題にしているシーンを袖まで見に来てくれて。その時の舞台は堤真一さんも出ていたので、堤さんと古田さんが2人で「今日はどうかな?」って袖まで来て。「チッ、今日もダメだったな!」っていう。
権八:あはははは!
勝地:「今日もダメだったな!」が袖から聞こえてるんで、途中で心が折れそうになるんですけど……(笑)。
中村:あ~! それはドキドキしますね(笑)。
勝地:はい。でも、それぐらいしごいていただきました。
権八:すごい! みんな愛がありますね~。勝地さんは「愛されキャラ」なんですね。
勝地:どうなんですかね~。でも、10代で映画の賞をいただいたりしたので、「このままいけるのかも」みたいに勘違いした時期があったりして。ただ、その後、映画では思うように続かなかったので「俺はどうしたらいいんだろう?」みたいな時だったんですね。
今はとにかく、そばにいて叱ってくれる先輩についていこう、という感じがあるので。「古田さん、今日はどこ行きます?」って、ずっとくっついていた感じですね。僕の方がもう、大好きだったんで。
権八:へえ~! すごい。ちゃんとしているんですね、古田さんも(笑)。
中村:そうですね、あんな感じなのかと思えば(笑)。
勝地:でも、飲み会の9割は下ネタとくだらない話ばっかりですよ。
権八:あっはっはっは!
勝地:でも、その中で1割。ホントにちょっとだけいいことを「ふわっ」と言って帰るので。「ヨシ!」って思いますね。勉強になることをいっぱい言ってくださるんで。
権八:へえ~! イイ話。
学校帰りに「おじいちゃん」に会いに行く!?
澤本:さっきの蜷川さんの話もそうですけど、舞台の比率が高いんですか?
勝地:そうですね。17歳の時に初舞台に立たせていただいてから、毎年1本はやれているペースで、やらなかった年は一回あったかな?という感じです。今年は2本やるんですけど、できれば年に1本はやりたいな、と思っています。
澤本:じゃあ、蜷川さんとは初期にやられたということですか?
勝地:初めての舞台が蜷川さんでした。みんなが「怖い」って言うから、どんなもんだろう?と思ったら、全く怖くないんですよ。むしろ、右も左もわからない僕を、初日の冒頭のシーンから全く止めずに「自由に動いていいよ」みたいな感じで。
一番最初のシーンが二宮和也君と僕のシーンなんですけど、二宮君が「ケンイチくん」って声をかけて、僕が「お、久しぶりだな!」っていうところから始まるんですね。さらに蜷川さんが「天才だな、お前ら!」みたいな。「いいよいいよ、もっと自由に動け」と。舞台に立つ上での計算が全くできないからこそ自由にやっていいよ、と。もちろん、本当はうまくできていない部分なんていっぱいあるんですけど、そういう引き出し方をしてもらったのですごく楽しかったんですよ。
澤本:はいはい。
勝地:その頃はまだ学生でしたし、学校帰りにおじいちゃんに会いにいく、じゃないけど……(笑)。
澤本:あはははは!
勝地:すごく厳しくもあり、愛のある、「演劇が大好きな方」のところに行って色々教わってくる、という感じだったので。「怖い」っていうイメージはなかったんです。舞台は5本ぐらい一緒にやらせていただいたんですけど、『ムサシ』(井上ひさし作、蜷川幸雄の代表作)という舞台の時に、井上ひさし先生が亡くなられたタイミングで。蜷川さんにとっての盟友であり戦友でもある方が亡くなるかもしれないという時の蜷川さんが、稽古場でとんでもないピリつきようで……。その時は大変でしたね。今だったらありえないかもしれないけど、髪の毛を引っ張られながら「痛みを感じてセリフを言え!」みたいな。もう本当に厳しくて。
でも、共演者の吉田鋼太郎さんが声をかけてくれて。「もしかしたら、井上さんが亡くなるかもしれない状況なんだよ。だからこそ、いいものをつくりたい、という思いで厳しくしてるんだ」と。その話を聞いた時に、なんだか感動しちゃって……。だから、「怖い」というよりは「頑張ります!」っていう感じでした。
澤本:うーん!
「勝地涼に、もっといい役を!」
中村:そんな勝地涼さんは、5月2日からの舞台『夜叉ヶ池』で主演を務められる、と。パルコ劇場の初座長ということですが、これが決まった時はどんな感じだったんですか?
勝地:そうですね。後々聞いた話でいうと、演出の森新太郎さんが「テレビを見ている人たちのイメージとは違って、勝地涼の良さってその“清淡”さなんだよね」と。森さんは、僕の初めての舞台だけでなく、何本か見てくれていたらしくて。「勝地涼にもっといい役を。もっと難しくて、頑張って乗り越えられるような役を与えたい」と思ってくださっていたんですね。それでオファーをいただいたんです。
澤本:ほぉ~!
勝地:自分が10代の頃からPARCO劇場で見させてもらっていたので、そこで主役をやれるというのはすごく嬉しかったです。
中村:これは、泉鏡花の作品ですよね?どんなお話なんですか?
勝地:「夜叉ヶ池」という池に、龍が棲んでいるという伝説があるんですね。龍と人との約束の中で、「朝と夜と真夜中の三度、鐘を鳴らせ」と。鐘を鳴らさなかったら、池の水を氾濫させて、村も里もすべて水の底に葬るぞ、と。
澤本:はぁ~!
勝地:「でも、その代わり三度鐘を叩けば、この池を守ってやろう」と。僕の役は、北陸地方に残るいろんな伝説を聞くために旅をしている旅人役で、その旅の途中、言い伝えの鐘をつく「鐘つき男」のおじいさんと出会うんです。そのおじいさんは「丑三つ刻」の鐘をついた直後、急病で亡くなってしまうんですね。でも、おじいさんから伝説を聞いてしまったもんだから「僕が代わりに鐘をつかなきゃ!」と。
澤本:ほうほう!
勝地:でも、村人たちはそんな伝説を信じてもいないし、「最近じゃ日照り続きだから、むしろ鐘をつかずに水浸しになればいい」なんて言うわけですね。そんな中「ある女」との出会いもありつつ、ひょんなことからその村で「鐘つき」になる男の話なんです。
澤本:文芸大作ですね~!
勝地:そうなんですよね。泉鏡花がこの戯曲を発表したのは大正時代のはじめごろ(1913年)で、セリフの一つひとつを見ると、その時代の日本という国への思いが溢れているんです。あとは、泉鏡花自身が自由恋愛主義者だったらしく「貧富の差には関係なく、自由に恋愛してもいいじゃないか」という思いも書かれている作品なんです。
澤本:ふう~ん!
「もう一回!」の千本ノックはへっちゃらです
中村:今は公開直前なので、稽古場もだいぶ激しい中でこの収録にお越しいただいてると思うんですけど。どんな感じなんですか、稽古場の雰囲気というのは?
勝地:演出の森新太郎さんが延々と「もう一回!」の方なので。シーンを繰り返すんじゃなくて、今言った一行を「もう一回!」「違う違う、もう一回!」と。多分、普通の役者だったらパンクしちゃうと思うんですけど、僕はそういう「千本ノック」的なものは蜷川さんでも体験しているし、劇団☆新感線のいのうえひでのりさんでも体験してるので……(笑)、へっちゃらなんです(笑)。
澤本:へえ~!
勝地:むしろ楽しいというか。だんだん森さんが「もう一回言わせてる理由」が浮かび上がってくるんですね。僕自身、「視野が狭くなっちゃうと厳しい稽古場なんだろうな」とは思いつつも結構楽しめちゃう人なので。それで、なんとかやれてる感じではありますけどね。
権八:それは「ここがこうだから、もう一回」じゃなくて、「とにかくもう一回!」なんですか?
勝地:そうですね。もちろんそういう時もありますし、なんなら、森さんがそのトーンを演じてくれる時すらあります。「その一行」の言い方云々もそうなんだけど、話の流れでいったらそんな言い方にはならないじゃないか、ということをおっしゃっているんですよね。
なので、森さんのトーンだけをマネするとただのオウム返しになってしまうわけで。そうなると、稽古の意味がないよね、という感じで……。
だから、森さんとやるのは初めてなのに、勝手にシンパシーを感じている、というか……(笑)。
中村:あはははは!
勝地:長台詞で「ここはちょっとうまく繋がってないな」と思った場面で「森さん?」て言うと、「あ、そこな!」という風になるんで。それが嬉しくなるというか、楽しいんですよね、森さんの演出が。
中村:役づくりに関してはどうなんですか?
勝地:とにかく、泉鏡花が「夜叉ヶ池」で書くセリフが難しい、と言いますか……。昔の日本語を、そのままやっているので。まずはそれを伝えることが一番大切なことだと思うんです。それが今、皆さんが一番苦しんでいるところでもあるんですけど。でも、だんだんと言葉の意味を理解して、情景が浮かんでくるようになると、難しいセリフが自然とつっかえなくなるんですね。だけど、どこかで自分の集中力が切れたり、イメージしてる「絵」が切れたりすると、それが途端に出てこなくなる、というすごいギリギリなラインなんですけど……(笑)。
中村:そこまで難しいと、日常的に覚えてスラスラと出てくるのとは違う部分もあるかもしれないですね。
勝地:たぶん、日常的な感じで覚えてしまうと、意味が伝わらなくなると思うんですよね。うーん、ちょっと難しいんですけどね……。
澤本:それは見ないとわからないよね。ちゃんと見にいって、感想を述べないと。
勝地:ぜひ!
中村:すごいですね。勝地さんは「スパルタ演出家」とやられることが非常に多いんですもんね。
勝地:そうですね。基本的にへこたれないんで、僕は。もう、どんな演出家の方でも大丈夫です。
中村:それでは改めて、勝地さんから舞台の見所をリスナーに向けて一言お伝えください。
勝地:はい。『夜叉ヶ池』や泉鏡花を知っている人でも、ちょっと難しそうに感じるかもしれませんが、話自体はすごく単純ですし、僕らもなるべく昔の日本語を丁寧に伝えるつもりなので、安心して見に来ていただきたいな、と思います。
あとはやっぱり、いろんな人たちが蠢いている渋谷という街にPARCO劇場があって、劇場の扉が閉まった瞬間から「夜叉ヶ池」の世界へ連れていかれるわけですね。そういう「渋谷」から「夜叉ヶ池」へという、全く別物の演劇体験を楽しんでいただけたら、と思っております(5月23日に終了)。
澤本・権八の「すぐに終わりますから」。まだまだ話は尽きませんので、来週も引き続き俳優の勝地涼さんをお迎えしてお送りします。
〈END〉