英国・ロンドンにて2023年6月8日(現地時間)から「Adobe Summit EMEA2023」が始まった。「Adobe Summit」はAdobeが主催するマーケティング、コンテンツ制作、デジタルエクスペリエンスをテーマにしたカンファレンス。ロンドンでの開催に先立ち、2023年3月には米国・ラスベガスで開催されている。今回、ロンドンで開かれる「Adobe Summit」には、ヨーロッパエリアを中心に約5000名のマーケターやプレスなどが参加した。
3月に米国で開催されたAdobe Summitから約3か月で、世界的に生成AIの活用が一気に進んでいる。「Adobe Summit EMEA2023」でもこうした潮流を受けて、生成AIを搭載した「Adobe Firefly」と「Adobe Express」の企業版提供の開始、顧客体験管理ソリューションである「 Adobe Experience Cloud」に新機能「Adobe Sensei GenAI」が搭載されることなど、AI関連のニュースが目立った。
初日のオープニングキーノートに登場した、Adobeデジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデントAnil Chakravarthy氏 は、3月のラスベガスでのAdobe Summitから継続 して「Experience-Led Growth(エクスペリエンス主導の成長)」を掲げた。一貫した顧客体験が、企業を収益性の高い成長に導くという考えだ。
「Experience-Led Growthとは、すべてのチャネルやタッチポイントを統合することはもちろん、獲得からエンゲージメント、リテンションにまたがるカスタマーエクスペリエンスのすべてを結びつけることにより、顧客に対して一貫した体験を提供し、結果として企業の収益性の高い成長に貢献する構想だ」(Anil Chakravarthy氏)。
Adobeは多様化する顧客ごとのインサイトやニーズを把握した上で、パーソナライズされた顧客体験を提供することこそが、企業にとって収益性の高い成長を実現するとの考えで「Costomer Experience Management(顧客体験管理)」の重要性を提唱してきた。今回の発表では、同社が近年注力するAIと機械学習のプラットフォームである「Adobe Sensei」をAdobe Experience Cloudに搭載し、企業における顧客体験設計やコンテンツ制作をより精緻に、効率的かつ効果的にサポートしていく考えを示した。ちなみに「Adobe Firefly」は、「Adobe Sensei」に内包される、画像や動画などの生成に特化したサービスだ。
また、Adobeの会長兼最高経営責任者Shantanu Narayen氏は、AIとの掛け合わせが起こす大きな変化として、大規模なパーソナライズを可能にし、顧客体験を向上させると指摘した。
「企業が発信するコンテンツは、適切な人に、適切なタイミングで、適切なチャネルで提供されることにより、ブランドと消費者の間のエンゲージメントを深め、それによってブランドの価値を高めることに貢献する必要がある。Adobeは「コンテンツ、人、タイミング」という3点の機会にフォーカスし、一人ひとりの顧客インサイトに基づくパーソナライズしたコミュニケーションの実現によってマーケターを支援することで、すべての人の創造性を解き放ち、生産性を加速させ、デジタルビジネスを強化する。」(Shantanu Narayen氏)
マーケターが感じるコンテンツ需要は過去2年間で2倍、今後2年でさらに5倍に拡大
Adobeの調査では、マーケティングおよび顧客体験(CX)責任者の 88%がコンテンツ需要は過去 2 年間で少なくとも 2 倍になったと回答し、約3分の2が今後2年間で、その需要は5倍になるとの結果が出ているという。急速に大量のコンテンツを制作する必要が生まれるなかで、マーケティング部門に求められる課題は、「リアルタイムに顧客のインサイトに応えるパーソナライズされた多様なコンテンツの生成」と「生成されたコンテンツの著作権」であるとAnil Chakravarthy氏は指摘。
これらの課題を解決することを目的に6月8日に発表されたのが「企業版Adobe Firefly」だ。「Adobe Firefly」は商用利用可能な高品質のコンテンツを生成する生成AI サービスで、米・ラスベガスで3月に実施された「Adobe Summit」にてベータ版が発表されていた。生成可能なコンテンツとしては、画像や動画、バナー、SNSコンテンツ、3Dモデリングなどに対応する。
企業版では、組織全体のすべての従業員にアカウントを付与し、誰もが素早く簡単に、ブランド価値向上に寄与するコンテンツを生成、編集、共有できるという。自社が所有するブランド資産で「Adobe Firefly」 をカスタムトレーニングすることで、ブランド独自のスタイルでの言語でコンテンツ生成を支援するのが特徴だ。
さらに、昨今マーケティング業務へのAI活用において課題として挙げられていた商用利用の問題についても言及。Adobe Stockに収録された何億枚もの高品質かつ著作権上の利用制限がない画像でのみ機械学習を行っているため、商用利用も可能となる。さらに、コンテンツ生成の透明性を担保するため、生成AIの活用有無や編集履歴を画像に組み込むコンテンツクレデンシャル機能も新たに発表した。
2023年3月のベータ版提供開始以来、すでに「Adobe Firefly」 を使って自動生成された画像は2億枚以上に及ぶ。その中でも「Adobe Photoshop」 のユーザーは、「Adobe Firefly」を搭載した新機能 「ジェネレーティブ塗りつぶし」を使い、発表から2 週間で1億 5,000 万枚以上の画像が生成されるなど、今後急速なマーケティング業務への活用が見込まれる。
パーソナライズされた顧客体験をリアルタイムで提示
Experience-Led Growthを実現するためには、「オンラインとオフラインを問わず、あらゆるチャネルで発生する顧客の動向をリアルタイムに把握し、チャネルを統合してパーソナライズされた顧客体験を瞬時に提示し続けることが求められる」(Shantanu Narayen氏)。
この顧客体験管理を実現するのが新たに「Adobe Sensei GenAI」が搭載された「Adobe Experience Cloud」だ。「Adobe Firefly」がコンテンツ生成に特化しているのに対し、「Adobe Sensei GenAI」が搭載された「Adobe Experience Cloud」はデータ分析やカスタマージャーニーの生成などに特化した生成AIだ。
「あらゆる企業の事業成長においては、社内におけるマーケティングやコンテンツ制作業務の効率化を目指す取り組みと、より優れた顧客体験の提供を目指す取り組みの双方が不可欠です。そして両者の取り組みを成功に導くために重要な役割を期待されるのがジェネレーティブ AI 。『Adobe Sensei GenAI』 は、組織の取り組みを加速し、強化してくれる真の副操縦士として提供します。」 (Anil Chakravarthy氏)
これまでChatGPTなどのAIサービスに企業の保有する情報を学習させることは情報漏洩の観点で推奨されてこなかった。「Adobe Sensei GenAI」では、この点を考慮しながら企業が独自に管理するカスタマージャーニーなどの情報を機械学習させ、自社ブランドへの最適化を実現できるという。 サードパーティークッキーの利用規制に伴い、ウォールドガーデン化が進む中で、同サービスでは自社が保有する顧客データに基づくインサイト発掘、分析、マーケティング施策の提案から実行までを一気通貫してサポートすると説明した。
Adobe Sensei GenAI は、8日から Adobe Customer Journey Analytics、 Adobe Experience Manager、Adobe Journey Optimizer、Adobe Marketo Engage などの Adobe Experience Cloud アプリケーションから利用可能になる。