イベントレポート 嶋野裕介×尾上永晃×コーラ小林「伊良コーラ メジャーブランドへの道」

『なぜウチより、あの店が知られているのか?』の刊行を記念して、著者である広告プランナーの嶋野裕介氏・尾上永晃氏と、クラフトコーラ専門メーカー「伊良(いよし)コーラ」創業者のコーラ小林氏によるトークイベントが開催された。今年3月に発売したコーラ缶についての開発秘話や、現在の「知られ方」の取り組みまで、多彩なトークが展開された。そのダイジェスト版をお届けする。

缶の発売で「伊良コーラ」は新たなステージへ

嶋野:今日は、伊良コーラさんからのご厚意で、参加者全員にコーラ缶を提供していただいております。まずは、参加者全員で乾杯しましょう。かけ声は「コーラ!」で。せーの!

全員:コーラ!

写真 乾杯中の撮影風景
イベントは5月12日に本屋B&Bで開催

嶋野:美味しい…!

尾上:うまいですね。今日は、我々(嶋野・尾上)が出した『なぜウチより、あの店が知られているのか?』でインタビューした小林さんに、改めてお話をうかがいます。前回のインタビューはもう3年前ですね。書籍にしたいと考えるきっかけになった大事なインタビューでした。そして、小林さんも今年2月に著書『イチからつくるコーラ』を出されたということで。小林さん、本を作るのって大変でしたか?

写真 表紙 なぜウチより、あの店が知られているのか?

書籍『なぜウチより、あの店が知られているのか?』(宣伝会議刊)

 

写真 表紙 イチからつくるコーラ

書籍『イチからつくるコーラ』(農山漁村文化協会刊)

 

小林:ちょうどコーラ缶の開発と並行してこの本を進めていたので、そこが大変でしたね。

嶋野:そのタイミングだったからなのか、この本から小林さんの熱量をすごく感じるんですよね。子ども向けの本なんだけど、最後の方とか、ちょっと涙ぐんじゃって。

尾上:わかります、泣けますよね(笑)。小林さん、改めて簡単に伊良コーラの紹介をお願いできますか?

小林:伊良コーラは、2018年に「世界初のクラフトコーラ専門店」として、青山ファーマーズマーケットに出店したところから始まったブランドです。当時は「クラフトコーラ」という概念がまだなかったんです。自家製コーラを出す店は昔からありましたが、もう少し技術練度を高めて、クラフトビールのように「クラフトコーラ」として売り始めたのが始まりです。そこから5年間いろんな紆余曲折を経て、今年3月にコーラ缶が出まして、ちょうど次のステップに進めたなというタイミングです。

写真 人物 コーラ小林氏
伊良コーラ創業者のコーラ小林氏

尾上:最初は、瓶づめのシロップ形式で売っていたんですよね?

小林:そうです。缶になって戦い方が変わったというか、全然違うゲームになった感覚はあります。これまで450円の瓶だったのを、缶になって300円以下に抑えることができたので、今まで躊躇していた人にも気軽に買ってもらえるようになりました。まとめ買いする人も現れたり。3月からはナチュラルローソンで、4月からは全国発売されています。

我々はずっと「コカ、ペプシ、イヨシ(コカ・コーラやペプシコーラに並ぶコーラブランドになる)」と言い続けてきたんですが、信じる人ってほぼいなくて。だいたいジョークだと思って笑われてきました。でも、缶を出したら「この人、本気で言ってるんだ」と思われるようになったみたいです。

尾上:コカ・コーラもペプシも、缶で飲むイメージがありますもんね。

小林:そうなんです。瓶だと“ご当地飲料”の域をなかなか出られなくて。缶になったことで、インディペンデントではあるけど、メジャーな市場に駒を進められたんじゃないかと。

 

謎のキャラクターは誰? コーラ缶のデザイン秘話

嶋野:コーラ缶のデザインも独特ですよね。飲料って、美味しそうな液色や果物のビジュアルなどシズル感を押したパッケージが多いと思うけど、このコーラ缶はカワセミのイラストがメインに書かれていて。

写真 商品・製品 伊良コーラ
3月に発売されたコーラ缶

小林:デザインはめちゃくちゃ大変でした!自分でもパワーポイントで何百案も出力して、缶に巻いて検証したり。デザイナーさんはカラフルなカワセミ推しで、意見のぶつかり合いもあって…。いま思い返すと、考えすぎてヤバイ方向に決定しかけた瞬間もありました(笑)。

嶋野:缶の裏側を見ると、これまた不思議で。上には小林さんのお祖父さんの写真があるし、この一番下にあるイラストは何か全くわからないんですけど…これは一体何ですか?

写真 商品・製品 伊良コーラ
写真 商品・製品 伊良コーラ

 

小林:僕の頭の中で、宇宙をテーマにした伊良コーラのSFストーリーがあるんです。その漫画のキャラクター達なんですよ。ここに飛んでるカワセミは、物語のストーリーテラーの役割をしているんです。

嶋野:なるほど。情報量が多い…(笑)

尾上:でも、あえて一見商品と関係のないものを入れることで、いい意味でその人やブランド特有の癖が出ますよね。雑味がなさすぎるブランドって面白くないというか。

小林:たまに漫画の中で「漫画じゃあるまいし」みたいなセリフがあるじゃないですか?そのセリフによって、一気に自分が漫画の世界に引き込まれる気がして。なので、漫画のキャラクターという雑味をあえて入れることによって、「伊良コーラ」ならではの世界観を際立たせようとしているんです。

嶋野:コーラって赤とか青のイメージもあるから、白っていうのもまた面白いです。

小林:伊良コーラには「その一騎打ちを三つどもえにする」というスローガンがあるんです。その3つ目の色ですよ、ということですね。でも缶の色は今後変えると思います。なぜならコンビニの棚に置いた時に、“あまりに目立たなすぎる問題”があって(笑)。

尾上:そうなんですね。でも、何かあったらブランドを変えていくのも大事だ、という話を我々も本の中でしております。あ、こうやって今日はちょいちょい宣伝を挟んでいきますので(笑)。

小林:進化生物学と一緒で、変化できるブランドや店は強いと思います。はじめから設定や細かい部分をガチガチに作り込んでいると柔軟に対応するのが難しくなるので、余白を残すのは大事だなと。この1年くらいはそうやってPDCAを回しながら正解を探していくつもりです。

 

ものづくりに対する考え方が、創業時と変わった

尾上:小林さんは、前職の代理店にいたころにコーラを作り始めたんですよね?

小林:最初は会社を辞めるつもりもなくて。平日はイベント屋として働いて、土日だけ趣味でコーラを作ろうと思ってました。ただ楽しんでいただけで。

尾上:でも、お店を出すようなタイミングになると、いろいろ言う人もいたんじゃないですか?そういうのって気になりそうですけど…どうしたんですか、全無視ですか?

小林:全無視ですね(笑)。それこそ、いよいよコーラでやっていこうと決めて、会社を辞めると周りに話した時には、色んな意見をいただきました。「仕事でお金を稼いで、そのお金で趣味としてコーラを作ればいいじゃないか」とか。でも、広告代理店の仕事は自分よりも得意な人がいるけど、伊良コーラは自分にしかできない。だから自分がやったほうがいいと思って。

嶋野:『なぜウチより、あの店が知られているのか?』のインタビューの中で、小林さんが「自分のやりたいことだけじゃなくて、好きなこと・得意なこと・求められていることを大事にしている」という話があって、すごく印象に残っていたんです。

尾上:本に載せたこの図ですね。3つが満たされてワクワクするし、ワークする。この本の指針にもなった考え方のひとつですよね。

書籍の中で紹介している図

書籍の中で紹介している図

 

小林:確かに創業当時はその3つを満たすことが大切だと思っていました。ただ、最近はちょっと考え方が変わってきたんです。いまは、ものづくりやブランドづくりはどれだけ熱量を込められるかだと思っていて。熱って、分子や原子が振動することで生まれますよね?つまり、世の中にあるものは全て振動から生まれている“熱”なんですよ。ものやブランドも、それをつくる人がどれだけ振動し、一つのプロダクトに熱を込められるかどうかの“振動勝負”なんじゃないかと思っています。

尾上:なるほど。もしかしたらその熱にも色んな種類があって、僕ら広告の人間の仕事は、クライアントの熱源を探し当てて、それを人々に伝える拡声器のような仕事なのかもしれませんね。僕は、この3つの基準は、自分が振動しているか?を考えるときのテスターとしてすごくいいなと思いました。

嶋野:3年前にお話伺ったとき、小林さんはこの3つを全て満たしていると感じたんです。たぶん、いま小林さんは次のステージに進んでいるから、二段階ロケットの二段目を切り離すためにもう一度熱量を入れ直していて、だからこそ考えに変化が出てきているのかもしれないですね。

写真 人物 嶋野裕介氏
嶋野裕介氏

小林:あとは、会社のメンバーが増えたこともあると思います。メンバーが共鳴共振して大きな振り幅になっているのを体感しているので、そういう意味で、全てのプロダクトやブランドは振動が大切だと思うようになったんだと思います。

 

商品と「知られ方」がつながっているのが、「いい知られ方」

写真 撮影 カット

嶋野:「知られ方」の話に徐々に移っていきましょうか。3年前に小林さんに取材した際は、ブランドを知ってもらうために雑誌の編集部に手紙を出した話などをお聞きしました。当時の体当たり的な知られ方と、コーラとしてメジャー商品になる階段を進まれている今では、知ってもらうための方法は変わってきたのでしょうか。最近は、「イヨシの湯」などの新しい企画もはじめていますよね。

写真 商品・製品 伊良コーラ

「イヨシの湯」。5都府県29施設の銭湯とコラボレーション。

 

小林:「イヨシの湯」は、伊良コーラの製造時に出た柑橘やスパイスなどの「コーラ粕」と特別に調合した入浴剤を入れたお風呂に入ってもらった後、コーラを飲んでもらう企画です。ブランドを知ってもらう目的もありますが、単純に楽しそうだったのと、美味しく飲むためのシチュエーションとして適していると感じてやってます。

嶋野:この企画は小林さんから銭湯に持ちかけたんですか?

小林:元々コロナの間に、高円寺にある「小杉湯」という銭湯から声を掛けていただいたのがきっかけです。小杉湯は元々ミルク風呂や何かの粕を使ったお風呂の取り組みをしていて、その一環として「イヨシの湯」は生まれたんです。そこから今年に入って、「せっかく缶もできたのだから銭湯やサウナにも広めていきたい。でもただ広めるだけではなくて何かしらのイベントをしたい」と考えて、30店舗ぐらいで横展開しました。

尾上:目的としては「知られる」ことよりも、「美味しく飲むための体験」に寄った取り組みだったということですね。

小林:そうです。結果的に知られることにつながったかもしれません。知られるために突飛なことをするよりも、商品と地に足がついてつながっていることの方が効果もあるし、している方も楽しいと思いますね。

尾上:我々の本でも「いい知られ方と、よくない知られ方」がある、という話を書いております。突然叫び出すようなことをすれば確かに「知られる」かもしれないが、それって商売には返ってこないよね、と。こういう商品とつながったところで知られるのは「いい知られ方」だなと感じます。

写真 人物 尾上永晃氏
尾上永晃氏

 

ホリエモンに「缶をやった方いい」と言われて火がついた

嶋野:缶の商品って、どこかから依頼があって始まったものだったんですか?

小林:いや、どこからもオファーはなかったです。缶の商品は、元々は瓶を自分たちでボトリングしようという話から始まったんですよ。それまでは九州のボトリング会社に外注していたので、自分たちでできたほうがいいよねと。それでボトリングの機械を色々調べているうちに、あるクラフトジンの会社が缶の商品を作ると発表したのを見て。クラフトビールはもうほとんど缶になっているという話もあり、確かに瓶より缶の方がいいなと。で、知り合いのクラフトビール屋さんに連絡して工場を見せてもらったりしてたんです。

そんなことを考えていた矢先に、たまたま「青春!バカサミット」(固定観念にとらわれないユニークな活動に取り組む突き抜けた人や企業が一堂に会するイベント)に登壇する機会がありまして。で、僕は登壇者の中から選ばれて、ホリエモン(堀江貴文さん)に何でも好きなことが質問できる権利が与えられたんです。そこで「自分は伊良コーラというものをやっていて、世の中に広めて行くためにどうしたらいいですか?」と聞いたら、堀江さんが「缶をやったほうがいいよ」って。

嶋野尾上:おお〜

小林:それで「やるしかない!」と始まったのが缶プロジェクトです。一時は八方塞がりで頓挫しかけましたが、製法に工夫を重ねてなんとか実現できました。でも、商品はできても売り先が決まっていない。コンビニに売りに行きたかったんですが、まだ商品もできていない小さなメーカーが取引してくださいと言っても、どこの馬の骨だって感じじゃないですか?それで、まず既存の瓶の商品をナチュラルローソンさんで売ってもらえるようにお願いして、ありがたいことに瓶の商品の反響がよかったので、後から缶も扱ってもらえるようになりました。缶は発売前に3カ月分用意してたのが、2週間で売り切れて。

嶋野:すごい。それは特別な告知キャンペーンなどもなく?

小林:特になくですね。

嶋野:理想的ですね。本当はここでこんな「知られ方」を仕掛けた、という話が欲しかったですけど(笑)。

小林:なんとか必死に食らいついて言った結果、という感じで、戦略的なことは何もないんです。でも、外から見るとありそうに見えるという…(笑)。

尾上:でも、それまでの積み上げがあったからこそでしょうね。

小林:はい。伊良コーラがコンビニで買える!とありがたいことに喜んでいただけました。結局、僕らがたどっているのは飲料の歴史なんです。コカ・コーラが150年かけてたどって行った瓶から缶へという道筋を、数年スパンで追いかけている。

 

日本発のコーラーメーカーとして、グローバル展開が目標

尾上:缶の流通も始まって、この先どうなっていきたいと考えているんですか?

小林:グローバル展開ですね。コカ・コーラもペプシコーラも欧米の会社なので、この2大企業の後追いができるのはアジアのメーカーだと僕は思っているんです。

尾上:今の話で、以前、Yahoo!とLINEが合併する際に広告でお手伝いした時のことを思い出しました。「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーを目指す」というビジョンを掲げていたのですが、欧米のテック企業が強い中で、アジアのAIは欧米とは違う視点を持てるのでは?という話がされていて、なるほどなと思ったんです。これまで積み重ねられた歴史や昔からある商品も今までとは違う軸で捉えていくと、新しい発明が生まれることもありますよね。

小林:そうですね。そもそも、コーラは漢方から始まっている「東洋思想の飲み物」なんです。例えばコーヒーやワインなどは単一原料から作られますが、これは西洋的な考え方で一神教の世界観なんですよ。一方、コーラは何か一つが立っているわけではなく、いろいろなものが混ざり合って全てが調和した飲み物なので、東洋的な多神教の世界観なんです。コーラはすごく西洋的なイメージがありますが、実はアジアとコーラは根っこの部分で繋がっている。根っこの部分で繋がっているものはすごく強いと思います。

先日バスプロ(=バスフィッシングのプロ)の伊藤匠さんとスポンサー契約したのですが、ある人から「釣りと伊良コーラをよく結びつけましたね」と言われたんです。でも自分としては全くそういう感覚はなくて。伊良コーラは自分の思考から生み出されたものですし、そもそも僕は釣りも大好きなので、どちらも「自分」という根っこで繋がっている。だから、伊良コーラは大自然の中で飲んでもらいたい飲料だし、自然へのリスペクトという要素も両方にある。商品やブランドを作ろうと思ったら、自分や歴史、ルーツを掘って「何かしらの根っこと繋がっているか」を考えるのが大切だと思います。

尾上:企業の歴史が長くなって大きくなり、従業員も増えると、ブランディングを細かく取り決めたりすることが多いと思います。でもその結果、決められたことにハマらない場合は取り組まないとか、上手くいくことだけに挑戦するといったことも多発しますよね。小さなブランドの場合はその逆で、当の本人が全て決めることができるのが大きなメリットだと感じました。いま、自身でブランドやお店をしている方の中には「上手くいくかはわからないけど、直感的にこれがいいんじゃないか」と思いながら取り組んでいる人もいると思いますが、たぶん間違っていないですよ、と伝えたいですね。

執筆:藤井美帆(Qurumu)、構成:田代くるみ(Qurumu)

 

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写真 人物 複数スナップ 小林さん 嶋野さん 尾上さん
左から、小林さん、嶋野さん、尾上さん

嶋野裕介 (しまの・ゆうすけ)

クリエーティブディレクター/PRディレクター。東京大学を卒業後、電通入社。主な仕事は「SUNTORY BOSS ゴジラシリーズ、ウマ娘シリーズ、「民放114局合同番組 一緒にやろう2020」「3cm market」「ぷよりんご」「フリー素材アイドルMIKA+RIKA」など。Cannes Lions、Spikes Asia、Adfest、ADC、ACC、OCCなど受賞。好きなものは、新聞とオセロと研修。

 

尾上永晃 (おのえ・のりあき)

プランナー/クリエイティブディレクター。企業広告からまちづくりまで臨機応変なコミュニケーション設計をしている。最近の主な仕事は、森永乳業マウントレーニア「もしも東京の真ん中に山があったら」、ネットフリックス「ジャイアント猿桜像」、TOKYO GAME SHOW VR、コピー年鑑2022編集長、越後鶴亀ブランディングなど。カンヌやメディア芸術祭などさまざまな賞を受賞。好きなものは、料理と読書。

 

小林隆英(こばやし・たかひで)/コーラ小林

1989年東京生まれ。伊良コーラ代表、コーラ職人。北海道大学農学部・東京大学農学生命研究科卒業。広告会社に勤務しながら、コーラ作りを探求。2018年に世界初のクラフトコーラ専門メーカー・専門店を立ち上げる。2023年2月に著書『コーラ (イチからつくる)』(農山漁村文化協会刊)発売。

 

 



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