はじめまして。小藥元です。
新卒で入社した博報堂を10年目で独立し、meet&meetという屋号を掲げ、もうすぐ9年が経とうとしています。クリエイティブディレクターとして様々な企業のCI開発やブランディングプロジェクトに関わりますが、主軸は言葉の力を信じるコピーライターです。
この度、約2年の時間をかけて『なまえデザイン』という一冊の本を書きました。
宣伝会議さんから執筆ご相談を受けた際、2つのことをお伝えしました。
若手コピーライターのためだけの本にはしたくないこと。
「ヒットネーミングの作り方は3つ!」のような軽薄なハウツー本にはしないこと。
この本は経営者へ、そして多くのビジネスパーソンへ届けたいのです。
いま、ビジネスにネーミング発想を。
「なまえ」やネーミングと聞いて、皆さんが思い浮かべるものはなんでしょう。
ご自身のお名前、ユニクロのような企業名、ヒートテックのような商品名でしょうか。あるいはお好きなアイドルのグループ名、楽しみにしているNetflixの作品名でしょうか。
どちらにせよ「今の仕事と関係ないし…」「自分が書くことはないだろうし…」と思われた方…ちょっと待ってください。
「ビジネスと関係しない仕事」をされていないのだとしたら、必ず関係ある話。関係あるというか、ネーミング力はあなたの力になるはずです。
ネーミングは、実はビジネスと密接に関わっている。真っ先に挙げられるのは、ブランド名ですよね。
2015年、「三陰交をあたためる」という冷え性の方向けの靴下を「まるでこたつソックス」にリブランディングしました。売上はなんと17倍に (リブランディング前年と2016年比)。既に大ヒット商品だった2020年と21年の比較でも6倍を記録しました。
「かるまる」という関東最大級サウナ宿泊施設をブランドネーミング開発しましたが、翌年のサウナシュランで2位に。今や大人気施設に成長しました。仮にお風呂がたくさんあることが最大価値と捉え「セブンスパ池袋」となっていたら…同じ未来を描けたとは思えません。
意識を変える。行動が変わる。ビジネスの未来が変わる。
しかし、ビジネスにおけるネーミングとは、ブランド名だけではありません。
例えば、職業名。私の古巣である博報堂も、営業ではなく、AE(アカウントエグゼクティブ)でもなく、ビジネスプロデューサーです。
名一つで、職業の価値を引き上げることができる。社員の視座を上げ、意識を変え、スキルやお客様に提供する価値を向上させる効果だってあるでしょう。
博報堂時代の仕事でターニングポイントだったのは、モスバーガーとミスタードーナツが資本業務提携を結んだ際にネーミングした「MOSDO!」。当時のオリエンペーパーに書かれていたのは「Mプロジェクト」というプロジェクト屋号でした。
この2つの名は、決定的に違います。
「なんだか大変かも…」から「なんだか面白そう!」というスイッチ。プロジェクトに関わる人の、受け身から自発への転換。モチベーションが劇的に変わったのです。
だからこそ、その後「ドーナツバーガー」という話題性高い企画や、ハンバーガーもドーナツも食べられるMOSDO!という名のリアル店舗だって実現していった。15年以上経った現在もMOSDO!は続いています。
一つのネーミングから、人の意識が変わり、行動が変わり、ビジネスの未来が変わることを私はこの仕事から学びました。
なまえデザインとは何か。
さて、ここまで散々「ネーミング」という言葉を多用してきたのですが、実はネーミングという単語に違和感が拭えません。嫌悪感すらある。「ダルマに目玉を書く感じ」が、持っている感覚と少し違うのです。
私にとって「なまえ」は、名詞というか動詞の意味合いを多く含んでいる。なぜなら「書いて終わり」ではないから。「なまえ」は、はじまりです。広がり、つながり、育てるものです。
「なまえ」の先に生まれるコミュニケーションや未来をデザインするもの。
それが、なまえデザインです。
名前は、辞書的にいえば名詞。しかし私は、ビジネスや社会におけるあらゆる物・事に名づけることができると広く捉えています。ですので「名前」というのも限定されてしまうため、「なまえ」と開きました。
名づけるという行為は、名をつける・与えるということですよね。「16時間断食」なんて言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。自分の企画や提唱する考え方・コンセプトに名をつけた。これも人間の興味を引く素晴らしい名づけであり「なまえ」であると思うのです。
「伝える」と「伝わる」は違う。「伝わる」よりも「動かす」へ。
NBAの名将フィル・ジャクソンは「THE LAST DANCE」と名づけ、シカゴブルズを束ねそのチームでの最後のシーズンに臨んだ。
巨人の長嶋茂雄監督は「メイクドラマ」と名づけ、日本中の関心を引きつけながら大逆転劇を実現した。「絶対優勝!」「昨対120%必達!」と言われるよりも、人を巻き込む力がある言葉がある。
御社の中で、いまいち社員のやる気を引き出せない仕事や、浸透しないプロジェクトがあれば、真っ先にタイトルをつけたり、変えた方がいいかもしれません。
この際「業務連絡」という言葉も一度疑ってみましょう。今の時代に、仕事を業務と呼ぶセンスでいいのかどうか。
そもそも「人事部」でやる仕事は明確でしょうか。
会社の事業の広がりを考えたときに、あるいはライバル他社との差別化の中で、「運送業」で足りているだろうか。
伝えているだけで、伝わらないものは多い。
しかし伝わるだけでも足りず、巻き込み・動かすまでいきたいのが私の理想。
繰り返しになりますが、なまえデザインは未来をデザインするからです。
ネーミング発想でいちど会社やブランド・組織の未来を見つめ直すと、気になるところが色々出てくるかもしれませんね。
「それ、なんて呼ぶ?」が、ビジネスに新しい景色を連れてくる。
「それ、なんて呼ぶ?」ビジネスをブレイクスルーするために、これがキーワードになってきます。
人事部ではなくて、なんて呼ぶ?
驚くほどの艶を、なんて呼ぶ?
長続きする香りを、なんて呼ぶ?
口触りのたまらないビールの泡を、なんて呼ぶ?
みんなを巻き込みたい新規事業室の愛称を、なんて呼ぶ?
前代未聞と言えるこの新技術を、なんて呼ぶ?
多種多様に広がってきた我が社を一言でいうと、なんて呼ぶ?
それはもうブランドの太いコンセプトになり、他社にはないエッジになり、広告における強いコピーになったりする。会社のビジョンや事業定義になるでしょう。
「競合と差別化するために」「売れるために」「価値を上げるために」
「意識やモチベーションを変えるために」「巻き込むために」。
そもそも「覚えてもらうために」「愛されるために」。
どうしたらいいのか。どう考えたらいいのか。
なまえって、本当に面白い。
その話は、また今度。
そして本書で。
クリエイティブディレクター/コピーライター
1983年1⽉1⽇⽣まれ。早稲⽥⼤学卒業後、2005年博報堂⼊社。2014年meet &meet設⽴。
主な仕事に、FIBA バスケットボールワールドカップ2023 テレビ朝⽇「1 歩、1本、⽇本。」、TikTok「もっと世界を好きになる。」、KAGOME「よろこびを、⼀から⼟から。」、NHK 連続テレビ⼩説『おかえりモネ』「晴れ、⾬、進め。」、川崎市「Colors,Future!いろいろって、未来。」、岡⼭県「暮らしJUICY!」、ダイハツROCKY「新⾃由SUV」、アンパンマンこども ミュージアム「いっしょにわらうと、いっぱいたのしい。」、池袋PARCO「変わってねえし、変わったよ。」、マイケル・ジャクソン遺品展「星にな っても、⽉を歩くだろう。」などのブランドコピー開発に加え、⼤ヒット商品「まるでこたつソックス」、⼈気サ ウナ宿泊施設「かるまる」、PARCO「パルコヤ」、コメダ珈琲店「ジェリコ」「⼩⾖⼩町」「コメ⿊」、モスバー ガー×ミスタードーナツ「MOSDO!」、DAISO「THREEPPY」、Panasonic Homes「artim」、Google「肯定度」、YAHOO!「Yell Market」、clear「SAKE HUNDRED」などのブランドネーミング多数。ブランドコンセプト及びコピー開発をコアに、様々な企業の事業定義、CI策定、ブランディングプロジェクトをリードする。東京コピーライターズクラブ会員(2006年新⼈賞)/宣伝会議コピーライター養成講座 講師
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