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5年間で劇的に変化が
齊藤:一方で、パナソニック ホールディングスとしても、2022年4月にブランドスローガン「幸せの、チカラに。」を策定されました。なにか関係性はあったんでしょうか?
山口:「幸せの、チカラに。」のベースの考えは、松下幸之助創業者が大切にしていた「物心一如」という、物と心が一体で幸せな状態という仏教用語から来ていて、パナソニックとして大切にしていることは昔から変わらないんですよね。私たちはその幸せのチカラ力になるために「現場から社会を動かす」そういう意味で松下幸之助創業者の DNAで繋がっていると考えています。
齊藤:本社から、策定の仕方やプロセスを聞かれたり、共有したりしたのでしょうか。
山口:先日も本社から依頼され、グループ各社のブランド責任者にパナソニック コネクトがいかにしてパーパスを作ったのかを共有しています。100人以上のプロジェクトとして、リーダーは私で、オーナーはCEO樋口、CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)の原田秀昭とも連携した体制で進めました。事業会社や各職能とも連携した全社体制でのプロジェクトでした。
齊藤:それは素晴らしいシェアですね。
山口:私たちもほんの5年前は直轄のマーケティング部署は無かったわけですが、それを4~5年かけて組織や機能を新たに創ってきたからこそ、こういう全社プロジェクトのプロジェクトマネージメントができる素地が出来てきたと思っています。いいタイミングだったなと思います。
この5年間で、働く環境も劇的に変化しました。オフィスも最初は普通の固定席だったのがフリーアドレスに変わり、今まであった社長・役員室を全撤廃しました。そもそも昔は平社員の椅子、課長の椅子とかって種類が違いましたけど、今はみんな一緒にして(笑)。最初は抵抗あったのかもしれませんが、やったらやったで意外とすぐ慣れるもんですね。
齊藤:先ほどご案内いただいたオフィスでも、役員の方もオープンにその辺にいらっしゃって。バリューズが貼ってあって、常に目に止まるようになっているのも印象的ですが、各テーブルにホワイトボードがついていて、アイデア出しがしやすい環境づくりも工夫されているなと思いました。
山口:でも本当に浸透するかどうかは、結局リーダーの行動次第だと思うんですよね。リーダーが本当にそのバリューズを体現しているか、自らやっているかどうかって、やっぱりみんな見るじゃないですか。だから本当にそこに尽きるかなと。
齊藤:我々もまさに日頃から経営層の方にそうお伝えしています。数字が厳しくなったり、問題があるとついそこを解決することに注力してしまいがちなのですが、リーダーがどれだけパーパスを信じて、行動しているかが鍵だと。
山口:まだまだチャレンジ中ですけど、カルチャーに関して妥協をしてはいけない、と思っています。それを一番意識して、社長の樋口自ら強く伝えていますね。
健全なカルチャーがすべての基本
山口:樋口はパナソニックで働いていてハーバードでMBAを取った後に一度辞めているのですが、「当時自分がパナソニックを辞めた理由をなくす!」と言っています。当時は若かったから、「若造が生意気だ」とか言われたりしたそうですね。より良い会社にしたい、そのために健全なカルチャーを創る、という思いがとても強いリーダーだと思います。
齊藤:リーダー自ら、とても信念を持ってお仕事に取り組まれているんですね。山口さんはカルチャーについてどうお考えですか?
山口:私もカルチャーは企業のすべての基本だと思っています。どんなによい戦略や組織能力があっても健全なカルチャーがないと企業は機能しない、と思っています。なので、健全なカルチャーを創ることにとてもパワーをかけています。パナソニック コネクトが、セクハラ・パワハラ撲滅に向けて、徹底的に妥協せずやっているのもそのためです。
業績評価だけでなくBehavior評価を重要視するのも、カルチャーをきちんと正しくすることが重要という信念があるからです。
齊藤:いいスパイラルですね。
山口:健全なカルチャーがあってこそ、その企業は正しい戦略、そして能力をつけられると思っています。コアバリューを実践する行動が重要というメッセージを示しています。
齊藤:会社としての「健全なカルチャーの定義」があったら教えていただきたいです。
山口:大企業病の反対といえばイメージがわかるでしょうか。「オープンコミュニケーション&フォーマリティ(形式的な縛り)の排除」が重要だと思っています。ヒエラルキーが支配する世界ではなくて、そうじゃない世界を作る必要がある。ヒエラルキーはオペレーションの時に必要ですが、 フォーマリティがありすぎると、本当に決定スピードが遅くなる、そして嫌なことがすぐ言えなくなる。良くないことが起こっても「すみません、ご報告差し上げます」って 2週間ぐらい経ってやっとレポートに出す…みたいな、日本の企業にありがちな大企業病が、組織の中でのアジャイルなスピードを無くし、企業の競争力が棄損すると思います。
私たちが行っている服装の自由化や席のオープン化、無駄な作業の効率化などは、あくまでも戦術としてやっていますが、最終的にはフォーマリティを排除して、もっと素早い意思決定をできるようにしたい。そしてその分の時間やパワーをお客様や市場に向ける。そのための手段なんです。手段の先に明確な目的があり、それが企業戦略として定義されていなければ、それはリアルなカルチャー改革の実践にはならないと思います。
フォーマリティを排除することでコミュニケーションが円滑になり業務のスピードを上げる。そして DEI は意思決定のクオリティを上げるんですよね。業務スピードと、意思決定のクオリティ、この2つを上げないと、これからの社会では生き残っていけないと思っています。まだまだですが、チャレンジを続けていくことが重要だと思っています。
齊藤:素晴らしいカルチャーです。ぜひ見習いたいです。
自身の存在意義は3つのキーワードにある
齊藤:さきほど、山口さんのキャリアの中で、今後は日本企業に貢献していきたいというようなお話しがありましたが、山口さんの「個人的なパーパス」についてお聞かせいただけますか?
山口:自分の働く意味・生きている意味としては、(1)ダイバーシティ (2)テクノロジー (3)マーケティング 、この3つのチカラを信じているところにポイントがあります。
私は人が幸せに生きるためにも、ダイバーシティがすごく重要で、そのチカラが社会をよくすると信じています。例えば個性ある子供たちが、普通と違うということで、嫌な思いをしない社会であってほしいと考えています。会社としてLGBTQ+も含めたDEI活動をしていますが、これらにも共通する考えがあると思っていて、これまでの「普通」ではないことや、少数であることによって、守られるべき人権が確保されていない状況は改善しなくてはならないと思っています。
テクノロジーについても、テクノロジーが世の中を変え、より良い未来につながるということを信じていたいのです。Metaverse Japanの理事もやっているのは、メタバースの世界でのダイバーシティを実現したいからなんです。メタバースだからこそ出自とか性別に関わらず、本当にオープンにより良い経験ができる場所になって欲しいです。「メタバース内は匿名で何をやってもいい」ではない、「みんながより良い経験が出来る」という良いほうの世界をいかに作るか、に少しでも貢献できたらと思っています。
マーケティングの本質×デザインの力
齊藤:それが、3つ目のキーワードである“マーケティング”にも繋がっていくわけでしょうか。
山口:マーケティングは、Force for Good, Force for Growthともいわれています。より良いことのため、成長のためのチカラ。つまりコミュニケーションによるコネクテッドハブ。人や組織をつなぎながら、より良い方向に進めるための活動だと思っています。私もそのチカラを信じているので、マーケティングは面白いと思っています。
齊藤:マーケティングの概念をそこまで広げて自分ゴト化されている方に初めてお会いしました。よく大企業にありがちなのは、「マーケティング=売れる仕組み!」みたいな(笑)。
山口:最近ではクリエイティブ・アワードなども、そのメソッドをどう社会課題に使っているかどうか、そういうところにフォーカスが向いていますね。
齊藤:確かに多くの広告賞など、クリエイションの評価軸はパーパスに沿ったものであるかどうかにシフトしていますよね。
山口:クリエイティブという話で言えば、実は弊社では、4月にデザインとマーケティングを一緒の部署にしました。マーケティングとデザインが一緒になると、いろいろなことをより良くする可能性が拡がると思っています。今まではプロジェクトで一緒になっても、別々の立場での連携でしたが、もっと戦略的なところから連携できるような体制に変えていこうとしています。
齊藤:それは良い相乗効果が期待できますね。お客様の反応は、いかがですか?
山口:まだこれからですね。でもここ 1年半少しずつ新しいチャレンジをしながら、「デザインでこんな風によくなるんだ!」というプロジェクトを増やしています。効果を実感して頂く機会が増えてきています。プロダクトデザインだけでなく、ブランディングデザインやイベントデザイン、サービスデザインなど。可能性は広がっていると思います。
齊藤:すごくわかります。私も日頃から、パーパスはもちろんのこと、そこにクリエイティブを融合させたコンサルティングというのを打ち出していて、うわべを綺麗にするだけでは効果が持続しないので、まずパーパスという軸があって、その上でデザインの力が加われば、企業は絶対良く変わっていくと信じて、お手伝いをしています。パナソニック コネクトさんは、パーパスがあり、カルチャーがあり、そこにデザインパワーが加わるとなれば、今後ますます期待ですね!
山口:まさに、デザイン&マーケティング連携は、経営の力になると思っています。
齊藤:ありがとうございました。
山口 有希子(やまぐち・ゆきこ)
パナソニック コネクト
執行役員 ヴァイス・プレジデント・CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)(兼)デザイン&マーケティング本部 マネージングダイレクター、DEI推進担当、コネクトカルチャーHUB担当
シスコシステムズ、ヤフージャパンなど複数の日本企業・外資企業にて、25年以上にわたりマーケティング部門管理職に従事。BtoBマーケティング全般の経験を持つ。日本IBMでブランド部長およびデジタルコンテンツマーケティング&サービス部長を経て、2017年12月より現職。マーケティングだけでなく、デザイン、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)、カルチャー推進担当役員も兼任し、企業トランスフォーメーションを推進している。公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 デジタルメディア委員長、一般社団法人Metaverse Japan理事。
齊藤 三希子
エスエムオー株式会社 代表取締役
慶應義塾大学経済学部を卒業、株式会社電通に入社後、電通総研への出向を経て、2005年に株式会社齊藤三希子事務所(後にエスエムオー株式会社に社名変更)を設立。「本物を未来に伝えていく。」をパーパスとして掲げ、ものの本質的な価値を見据えたパーパス・ブランディングを日本でいち早く取り入れる。フューチャー・インサイトとクリエイティブを融合させた、強く美しいブランドをつくるためのコンサルティングを行なっている。株式会社バルカー社外取締役。著書に『パーパス・ブランディング~「何をやるか?」ではなく、「なぜやるか」から考える~』(宣伝会議)。