ブランド資産となるネーミングとは。~ビジネスを動かす「なまえデザイン」論2 小藥元

5月23日に発売した『なまえデザイン』は、なまえから始まるコミュニケーションや広がる未来までを考えた、新しいネーミングの本です。「はじめに」の公開に続き、著者・小藥元さんによる「なまえデザイン」の書き下ろしの短期コラム連載の二回目です。

【前回コラム】ビジネスを動かす「なまえデザイン」論1

 

ブランド資産となるネーミングとは。

この間、RIMOWAのスーツケースを修理に行きました。
ふと、これは果たして「修理」なのか?と思ったんです。
というのは、RIMOWAの店舗に自分の故障したスーツケースをわざわざ持っていく行動は、「修理」や「直す」という行為を超えている気がしたのです。なぜならマイナスを0にするだけではない。そのスーツケースに人間の感情がもっとあるからです。

「ケアサービス」「生涯保証」というのもブランドが約束する素晴らしいサービスであり、ホスピタリティーの言葉。しかしユーザー側にとっての(この場合リモワ側も同じですが)旅と人生とスーツケースが積み重っていく感覚や価値観を言語化すると、よりブランド価値になる、リモワにしかない言葉になるのではないかと思うのです。

写真 イメージ図 キャリーケース

(C)123RF

ディズニーランドの「キャスト」はよく知られています。アルバイトではなく、キャストと定義した。それによって、ブランドが持つ個性を感じ、競合にはない視座の高さを伝えることにも成功している。
アルバイトではなく、キャスト。「修理」ではなく、何なのか。ブランド資産となる名づけが生まれそうな気がしてなりません。

このように企業名やブランド名だけなく、それはサービスであったり、技術であったり、職種であったり、ビジネスの様々なポイントで、ブランドにとって力となる、資産となるネーミングが生めるはずだと私は考えています。

「シャープの亀山工場」を覚えていらっしゃる方も多いと思います。世界の亀山モデルとして「作られる工場」をブランド化した秀逸な視点ですよね。

 

似たものが多すぎる時代。だから固有のものが必要となる。

世界に一つしかないもの。それであればその名詞でいい(新しい名詞が誕生したり)。カレーが一種しかないなら、カレーでいいわけで、カレー屋というものが世界に一つしかないなら、「カレー屋」でいいわけです。
ただ、世界はそうもいかない。マスカラも、軽自動車も、珈琲も、靴下も、ビールも、テレビも、同じカテゴリーの物はたくさんあるのが現実です。
違いは明快ですか?全ての物ではっきりそう言えたらいいですが、そうでもないかも…もあるでしょう。

細かい差別化ポイントを訴えることはもちろん大切。ただ、物自体のクオリティーが著しく低いものが並ぶ国ではありませんので、厳しい見方をした際「同じもの」として括られる可能性がある。
あるいは「安くていい」という判断をされる事もあるでしょう。
そもそも選ぶ行為って、時間がかかり、意外と大変。おいしい店は本当は山ほどあるはずなのに、点数で絞る行為や人の口コミで選んだことは誰しもある経験だと思います。

ライバルと同じに見えたくない。
その時に大切になってくるのが、名詞ではなく固有名詞です。「アイスゼリー入り珈琲」は他にもあるけれど、「ジェリコ」はコメダ珈琲店にしかない。シャリシャリした飲み物はたくさんあるけれど、「フラペチーノ」はスターバックスにしかない。「ガリガリ君」のようなアイスを真似したものを万が一作れたとしても、あのキャラクターのついたガリガリ君は唯一無二。アイスキャンディーは山ほどあるのにです。

ブランドそのものとも言えますし、ブランドの大きな資産がネーミングなのです。

 

IからWEの時代へ。

コピーもネーミングも、ブランドから発する言葉ですよね。しかし私は常に「IからWEへ」というイメージで考えています。決して一方通行の言葉にはしない心がけです。
パーパスやスローガンであれば、社員全員が腹落ちし、一致団結する言葉を目指しますし、どんなコピーもブランドとユーザーが繋がる・結ぶ言葉を考えたい。

残念ながら「つけて満足」「いいこと言った」顔をした自分勝手なコピーやネーミングを社会で見受けることは少なくありませんが。
「Z世代向け」など、さぞかしわかってる風の言葉も興醒めですが。

 

遊べる言葉。

前回、関東最大級のサウナ宿泊施設に「かるまる」とブランドネーミングしたと言いました。
「かるまる?」「かるまろう」「かるまります」「かるまった~ 」他。かるまるに行くとき、人はこのように言葉を発しています。もはや「かるまる」とは名詞だけではなく、動詞かもしれないし、形容詞かもしれない。ブランドのネーミングが、みんなの言葉に進化する。

それだけではありません。かるまるは「サウナ界のディズニーランド」と称されていますし、そもそも「整う」という名づけは天才ですよね。オロナミンCとポカリスエットを混ぜて「オロポ」なんていうメニューもサウナ界で人気。もうブランドだけが名づける時代ではないのです。

「人間は、言葉と遊ぶ。」このことを意識した方が良さそうです。
昔からそう。あだ名もその一つですよね。
Iだけではなく、WEとなれるか。
大谷翔平選手の「IT’S SHOW TIME!」も、とにかく明るい安村さんの「PAN-TASTIC!」も、みんなの言葉だからこそ愛され、流通するのです。

 

信じられるかどうか。語れるかどうか。

今の時代、遊べるかどうかが大事。
同時に大切に考えているのは、信じられるかどうかです。
ビジョン、ミッション、バリュー、パーパス。
あれもこれも足されて覚えられなかったり、神棚にあげるだけなら、その作業は残念ながら無意味。
しかし自分たちが腹落ちした確固たるものができれば、企業を、ビジネスを確実に駆動させていくエンジンや翼となる。
同じほどに、ネーミングはブランドアセットだと私は捉えています。
そのとき、そのなまえは、ブランドを体現できていますか。理由をちゃんと関わる人が説明できますか。

なまえって、不思議な力がある。
その話は、また今度。
そして本書で。

⼩藥元(こぐすり・げん)
クリエイティブディレクター/コピーライター

1983年1⽉1⽇⽣まれ。早稲⽥⼤学卒業後、2005年博報堂⼊社。2014年meet &meet設⽴。
主な仕事に、FIBA バスケットボールワールドカップ2023 テレビ朝⽇「1 歩、1本、⽇本。」、TikTok「もっと世界を好きになる。」、KAGOME「よろこびを、⼀から⼟から。」、NHK 連続テレビ⼩説『おかえりモネ』「晴れ、⾬、進め。」、川崎市「Colors,Future!いろいろって、未来。」、岡⼭県「暮らしJUICY!」、ダイハツROCKY「新⾃由SUV」、アンパンマンこども ミュージアム「いっしょにわらうと、いっぱいたのしい。」、池袋PARCO「変わってねえし、変わったよ。」、マイケル・ジャクソン遺品展「星にな っても、⽉を歩くだろう。」などのブランドコピー開発に加え、⼤ヒット商品「まるでこたつソックス」、⼈気サ ウナ宿泊施設「かるまる」、PARCO「パルコヤ」、コメダ珈琲店「ジェリコ」「⼩⾖⼩町」「コメ⿊」、モスバー ガー×ミスタードーナツ「MOSDO!」、DAISO「THREEPPY」、Panasonic Homes「artim」、Google「肯定度」、YAHOO!「Yell Market」、clear「SAKE HUNDRED」などのブランドネーミング多数。ブランドコンセプト及びコピー開発をコアに、様々な企業の事業定義、CI策定、ブランディングプロジェクトをリードする。東京コピーライターズクラブ会員(2006年新⼈賞)/宣伝会議コピーライター養成講座 講師

目次などはこちらから
写真 表紙 『なまえデザイン そのネーミングでビジネスが動き出す]

なまえデザイン そのネーミングでビジネスが動き出す
著 者:⼩藥元
定 価:2,200円(本体2,000円+税)
詳細・購入は こちらから



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