日本気象協会は6月26日、デジタル広告の成果を高めるタイミングなどを気象データから予測する「ウェザーマーケティングレポート」の提供を始めた。勘や経験による出稿の機会損失を防ぎ、より需要喚起に役立つデータ分析が可能になるという。
協会の実証実験では、天気予報アプリ「tenki.jp」のインストール促進広告で、広告効果を高める気象条件を分析。それに合わせて予算を変動させたところ、インストール単価がそれまでの17.7%低くなった。
2カ月以上1年未満分の日別のインプレッション数やクリック数、クリック率といった過去のデジタル広告出稿データを提供すると、日本気象協会が同期間中の気温や降水量などの詳細データをかけ合わせる。効果が出る見込みの高い「しきい値」を割り出し、実施や予算配分に生かせる報告書を作成する。
報告書は5〜15枚で、同じ気温でも月によって成果が変動するといった実態を明らかにするなど、需要を左右するような消費者インサイトを探る示唆も提供する。
日本気象協会がオリジナルで開発した人口の重み付けをした気象データを活用することで、実際の売上と相関の高い分析が可能となる。
「さまざまな要因があるなか、はたして気象がどれだけ影響しているのか。気象データの扱いは難しいこともあり、気象はもちろん、これまでデータ解析の知見・ノウハウを培ってきた日本気象協会が全面的にサポートさせていただければと思います」と、コンシューマ事業課tenki.jpグループの増田あやめ氏は話す。
気温一つとっても、消費者はその日その日の絶対温度だけで行動を変えるわけではない。むしろ前日までとの気温差で「暑い」「寒い」といった相対温度のほうに敏感に反応する傾向があるという。
「『きょうは暑いから、この商品の需要が増す』といった簡単な分析だけではわからないような、出稿でより効果が増す、あるいは逆に予算を抑えるほうがよい、というタイミングがあります。これまでの経験則では取り切れなかった成果が出せるようになると考えています」(増田氏)
気象の予測は、ダムや道路、電力など、公共インフラ企業やライフラインの維持、事故回避のためにも重要なもの。日本気象協会が予測データを提供しているのは、まさにそうしたニーズを持つ自治体や企業だ。精度の良さは折り紙付きと言える。
気象データはブルーオーシャン、約9割の企業が活用できていない
食品や飲料、アパレルのほか、商業施設やテーマパーク、イベントなど、気象の変動が需要に影響を及ぼすものは少なくない。しかし、「実際に活用されている企業は、まだまだ少ないというデータがあります」(気象デジタルサービス課技師の大森明子氏)。
気象庁の「令和2年 産業界における気象データの利活用状況に関する調査報告書」によると、「事業実施にあたり、気象情報・気象データを利活用している」と回答した企業は32.5%だった。さらにその中で、どのように活用しているかを尋ねると、そのうち5分の3が「気象情報を勘と経験により利活用」と答えている。残りの5分の2が、「気象データを収集・分析した結果から、予測を行い、事業に利活用」で、全体に戻すと約1割となる。
つまり、気象データを真の意味で活用できていない企業は実に9割を占める。すなわち、先行した企業が優位に立つ状況にあるということだ。「天気」が身近なものであり、発信者も体感しやすいものであることから、自分の実感に依拠しすぎてしまう、という特性も伺える。
例えば、おおよそ夏は暑いというイメージがあり、具体的な施策は実際に暑くなってから、と考えるケースは珍しくない。具体的に『最高気温が何度に達したら』といった具体的な条件を定めておらず、例年同じタイミングで始めることが多いのではないか。
「たとえば記憶に新しいのは、昨年2022年の早い夏の到来です。6月下旬から7月上旬、東京都心では9日連続の猛暑日(最高気温35℃以上)を記録したほか、東日本の内陸部では最高気温40℃以上を記録する日が3回出現するなど、猛烈な暑さとなりました。消費者行動としても、夏商材が早く売れ始めました。日本気象協会では、お客様に例年よりも早い夏の到来や定量的な気温予測・需要予測を半年前からお伝えして、夏商材の生産量や発注量を増やして、欠品に注意したり、広告や販促の最大の好機を逃すことがないように呼びかけていました」(大森氏)
天気を需要喚起に生かす
これまで気象データは需要の予測や、それに基づく生産管理、流通調整のために使われることが多かった。しかし、仮に冷夏や暖冬が先んじてわかったとき、季節の商品が売れないから生産を減らすというだけでなく、むしろいかにして売るか、というプランこそが求められるはずだ。
「POSデータと気象データをもとに出稿量を調整するA/Bテストを行うと、確かに成果が変わります。単にキャンペーンだから一律で、ではなく、効果を発揮する特定の機会を狙うことで、より需要を喚起する部分でデータを活用できるのではないかと考えました」(増田氏)
ともすれば、冬であっても、アイスが売れやすくなる気象条件があるといったことも考えられる。広告クリエイティブやメッセージ開発の一助にもなるはずだ。
実は日本気象協会は2000年代から、広告事業を手がけている。「天気予報のための情報提供をしている、というイメージがあるかもしれませんが、実態としては、需要予測事業やtoB、toGの事業も大きいのです。気象データを広告・販促分野においてどのようにビジネスに生かすか、というのは収益事業化してからのテーマです」(大森氏)
2018年には電通と「ウェザー・エンハンスド・マーケティング」と名付けた共同プロジェクトを立ち上げた。20年にはプロジェクト第1弾の事業として、気象によって需要が左右されやすい商品約160品目のデータを解析し、テレビやデジタル広告のプランニングに活用できるサービスを開始している。
「ウェザーマーケティングレポート」は、最も手軽に気象データを広告に生かすエントリー版とも言える。広告出稿データの提供からのレポート納品目安は約20営業日。正味価格は30万円(税抜)。
お問い合わせ
- 一般財団法人 日本気象協会
- メディア・コンシューマ事業部 コンシューマ事業課
- 『tenki.jp』の広告案内ページ:https://tenki.jp/docs/advertise/
- TEL:03-5958-8209
- MAIL:tenkijp_sales@jwa.or.jp