もっと早く読みたかった。―『世界の広告クリエイティブを読み解く』によせて(井口理)

『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、電通PRコンサルティングの井口理さんが『世界の広告クリエイティブを読み解く』を紹介します。

世界の広告クリエイティブを読み解く』山本 真郷・渡邉 寧 著
6月27日発売 定価:2,420円(本体2,200円+税)

本書は、グローバルなコミュニケーションについて日々考える自分にとって、まさに渡りに船の存在だ。国内外の広告やPRにまつわるアワード審査に関わり、また自身もその評価対象の一角になんとか潜り込まんと、今も現場仕事にはせっせと関与している。日々の学びにも精進しつつ、そこで触れた海外の切り込みエグいアイデアや、よくもそこまでという大掛かりな好事例には対抗しようもないと無力感漂うことも多いが、まずはなんとか自分たちが伝えたいことを、せめて審査員たちにうまく理解してもらえたらなあと、いつもエントリー素材を作るときには四苦八苦しているのだ。しかし残念ながら、それはどうもうまくいかないことが多いようだ。

アワード審査で各国の審査員と議論をするとき、やはりその文化的背景は重要になる。そういう環境下だからこそ、この戦略を立案し、またその施策を採用したのだということがわかれば、その作戦の正当性が理解できる。そもそもの「なんで?」が残ってしまうと、最後までその狙いが腑に落ちず、放置されかねない。もちろんそれらを回避するため、もろもろの周辺情報を自分なりに調べ、その作戦の意味を掴もうとするが、実際にその国の審査員と話してみることで、大抵の場合はそれがクリアになり、より深い理解に導かれることとなる。互いの文化を理解し合うこと、それはコミュニケーションの大前提なわけだ。

今回は「広告クリエイティブを読み解く」とあるが、これはすべてのコミュニケーションにおいて、それぞれの生活環境をベースとした価値評価の溝を埋めるヒントとなるだろう。「ホフステードの6次元モデル」に加えて、各国が属する文化圏の価値観を括った「メンタルイメージ」という考え方、またその中で日本だけが独立したモデルとなっていることも非常に興味深かった。願わくは、もう少し早くこれらのフレームワークを知り得たかったということ。さすれば、より多くの受賞も果たしていたのかも、との妄想が止まない。

井口理(いのくち・ただし)

電通PRコンサルティング
執行役員/ステークホルダーエンゲージメント局長
企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手がける。PR会社プロパーで33年目に突入。「世界のPRプロジェクト50選」、「Cannes Lionsグランプリ」「Asia Pacific Innovator 25」「Gunn Report Top Campaigns 100」「グッドデザイン賞」「Red Dot Awards Best of the Best」など受賞多数。「Cannes Lions」「Spikes Asia」「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PR Awards Asia」など審査員を歴任。グローバルなカンヌライオンズの事例を紐解き解説する「LIONS GOOD NEWS 2023」などPRエッセンスの啓発に勤しむ。著書『戦略PRの本質~実践のための5つの視点~』ほか多数。

 

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『世界の広告クリエイティブを読み解く』山本 真郷・渡邉 寧 著/6月27日発売/定価:2,420円(本体2,200円+税)

ある国では「いい!」と思われた広告が、なぜ、別の国では嫌われるのか?そこにはどんな価値観のメカニズムがあるのか?オランダの社会心理学者 ヘールト・ホフステード博士の異文化理解メソッド「6次元モデル」で世界20を超える国と地域から、60事例を分析。グローバルな活躍を目指すマーケターやクリエイターはもちろん、あらゆる人に広告を通じて「異文化理解」を楽しく学んでいただける一冊。


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