競合プレゼンの成否は「営業」が7割

アドタイコラムから生まれた書籍『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』(鈴木大輔著、3月20日発売)の発刊を記念して始まった本連載はいよいよ本編に入ります。競合プレゼンに勝ち抜くために必要なことについて、職種別、また年代別に紹介。最初は「営業」編です。

競合プレゼンに勝つメソッドを詳しく知りたい方は本書をご覧ください。

勝敗に直結する「早い初動」と「情報収集」

第2回のテーマは、勝てる「営業」になる。「アカウントディレクター」「アカウントエグゼクティブ」「ビジネスプロデューサー」など呼び方は様々ですが、最前線でクライアントと向き合いながら、個性豊かなスタッフをまとめ、あらゆる困難を乗り越えながらチームを引っ張るのが営業という職種。本当に大変なお仕事です。

だからこそ、競合プレゼンの勝利の鍵を握る最も重要なプレイヤーを1人あげるとするならば、それは間違いなく営業パーソンだと思います。

私自身も新入社員時代は営業職でした。またスタッフになってからは、たくさんの営業さんとお付き合いしてきました。そんな目線から、競合に勝つために営業として身につけるべきメソッドを厳選し、大きく4つの視点でお伝えしていきます。

身も蓋もないことを言いますが、スタッフの主な役割が「提案の中身づくり」だとすると、その勝敗への影響度は実は3割ほど。残りの7割を占めるのが、営業の動き方だと思います。もちろん鈴木の体感値ですので何の根拠もありませんが、きっと共感してくださる方も多いでしょう。

「営業が7割」の理由は、営業の守備範囲が広いからではありません。営業にしかできない「早い初動」と「情報収集」が、勝敗に直結するからです。

初動と情報収集の重要性はどこでも言われているし、当たり前の話に聞こえるかもしれません。でも優秀な営業パーソンほどこの動きを徹底しており、上流で勝敗を決定づけていると思います。まさに書籍のタイトルにもつけたように「勝つ環境を整える」のが営業最大の役割であり、そして、醍醐味でもあると思います。

営業に競合プレゼンの知見は溜まりにくい

具体的なメソッドの紹介に入る前に、ひとつ意識したいことがあります。それは、営業という職種と競合プレゼンの関係性についてです。最前線で深く担当クライアントに関わるのが営業職。ゆえにスタッフと比べると、限られた数の案件しか担当できません。

そもそも論として営業は、競合プレゼンの経験数が圧倒的に少なくならざるを得ないのです。勝敗に7割の影響度を持つ一方で、競合プレゼンの知見が溜まりにくい。そして、自己流のやり方や身近な上司・先輩の経験則だけで対応できることには限界があります。だからこそ、営業職こそセミナーや書籍を通じて、意識してスキルを学ぶ必要があるのです。

クライアントの課題を掴め!とは言うが……

初動において「オリエンを読み解き、クライアントに取材を重ね、真のビジネス課題(イシュー)を理解しよう」といった話は、営業なら何度も聞いたことがあるでしょう。そのために、クライアントと一緒にオリエンシートを作成したり、キーパーソンへ事前にアプローチしたり、クライアントだけでなく株主や関係会社など多岐にわたるソースから情報収集したり、過去のインタビュー記事や年初の挨拶、IR資料などを読み込んだり。そういった具体的なアクションを実践している営業パーソンも多いと思います。

その動きは全く否定しないのですが、ビジネス課題の特定ならば、ぶっちゃけ戦略プランナーなどの他のスタッフでもできてしまいます。私が声を大にして言いたいのは「営業にしかできない情報収集がある」ということです。それは何かと言えば、競合プレゼン開催に至った「背景」情報です。そしてこの「背景」というものについて、解像度を上げて理解すべきだと思っています。

背景を掴むとは『不』を掴むこと

ひと口に「競合プレゼンに至った背景」と言っても様々ですが、大きくは2種類に分けられます。公式な書面にしても差し支えない「よそ行きの背景」と、公式な書面にするのは憚られる「生々しい背景」です。そして、営業にしか掴めないのは「生々しい背景」の方です。それはもっと具体的に言えば、クライアントの「不」です。

競合プレゼンを開く以上、クライアントは何かしらの「不満、不安、不快、不便」を感じています。そして、その「不」を解消してくれるパートナーを探しています。しかし、オリエンシートという「よそ行きモード」の資料には「既存パートナー会社の動きが悪いから競合にしました」などという「生々しい背景」は書かれないのです。

だからこそ、オリエンという公式な場が設定される前に、非公式なヒアリングで、これを聞く必要があるのです。この動きができるのは営業だけ。そして、この「不」を徹底的に解消するプレゼン戦略を立てることで、勝率はグッと高まります。

キースタッフは先手必勝

スタッフィングは、まさに営業の特権であり醍醐味。これ次第で提案内容の大枠が決まってしまうと言っても過言ではありません。それほどにスタッフィングは勝敗に直結する重要な要素。検討に十分な時間をかけて良いところです。

中心となるスタッフは真っ先に掴まえておき、オリエン前から一緒に動き始めるのが理想です。もちろん、オリエンを聞いてからでないとすべての必要な機能はわかりませんので、すべてのスタッフを揃えることはできません。

しかし、競合プレゼンの大枠の情報を掴んでいるならば、中心となるスタッフだけは先に巻き込んでしまいましょう。そうすることで、スタッフのモチベーションも上がります。

スタッフィングはもめてナンボ!

ここでこだわってほしいのは、理想とするメンバーを集める努力です。多くの場合、この努力をせずに簡単に引き下がり、上から与えられた人材だけで戦おうとします。

確かにどこも人手不足ですので、みんな少ない手駒で戦っているのが実情かと思います。また、優秀な人ほど忙しいのは事実です。社内手続きが厳しい会社ですと、なかなか思い通りのスタッフィングができないこともあるでしょう。

しかし、それを当たり前のものとして、簡単に受け入れないでほしいのです。繰り返しますが、スタッフィング次第で、提案内容の大枠が決まってしまいます。波風を立てずに業務進行することだけが正解ではありません。

組織のガバナンス論を無視していることは承知の上であえて申し上げると、プレゼン当日までに何度か社内で「ケンカ」をするのが勝てるチームのあり方だと思っているのですが、まさに最初に起こる(起こすべき)ケンカが、この場面です。掴まえたいスタッフがいるなら、何が何でも、どんな手を使ってもアサインする。意図的に社内で摩擦を起こすことも、勝利につながるメソッドと心得ましょう。

次回は、営業に求められる役割をさらに深く掘り下げます。

(7月6日掲載)

競合プレゼンを勝利へ導く営業になるために

広告業界やコンサルティング、ITなどのビジネス現場で行われている「競合プレゼン」「コンペ」「ピッチ」に勝ち抜く100のメソッドを体系立ててまとめた一冊です。ライバルに勝つためのポイントについて、提案の中身やプレゼンテーション技術ではなく、勝つ「環境を整える」点に着目。競合プレゼンが始まる前の「兆し」から始まり、オリエン、キックオフミーティング、ストーリーづくり、軌道修正、プレゼン当日、事後までのフェーズごとに、行うべきこと、注意すべきことを丁寧に解説しています。

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2023年3月20日発売/定価:2,420円(本体2,200円+税)/A5判
344ページ

 
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鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)
鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)

2006年ADK入社。競合プレゼンの存在すら知らなかった営業時代を経て、2010年より戦略プランナーとして大阪へ。一転して競合プレゼン三昧の3年間を過ごし、勝率5割を達成。ところが東京に戻ってからは、思うように勝てない日々が続く。業界3位の広告会社で苦しみながら戦い抜いた10年以上に及ぶ経験と、百を超える競合プレゼンで溜め込んだ知見を、競合に勝つための方法論として体系化。2023年、著書『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』を上梓。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。

鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)

2006年ADK入社。競合プレゼンの存在すら知らなかった営業時代を経て、2010年より戦略プランナーとして大阪へ。一転して競合プレゼン三昧の3年間を過ごし、勝率5割を達成。ところが東京に戻ってからは、思うように勝てない日々が続く。業界3位の広告会社で苦しみながら戦い抜いた10年以上に及ぶ経験と、百を超える競合プレゼンで溜め込んだ知見を、競合に勝つための方法論として体系化。2023年、著書『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』を上梓。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。

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