「YouTubeを見ていたら『一建設』さんのCMが…〔略〕アラフィフ世代にモロに突き刺さります。〔略〕もちろん当社でもご紹介可能ですのでお気軽にご相談下さい」――。とある不動産会社の自社ブログに書かれた一節だ。
言及されているのは、Webで配信しているCM『ハジメとケンとセツ』。社名をもじった「ハジメ」「ケン」の双子と、幼馴染の「セツ」の3人が登場し、シチュエーションに合わせて互いの名前を呼び合うだけの、シンプルながら印象に残るCMだ。
一方、テレビでは、2022年8月から放送開始した「いい人生にちょうどいい家を。赤ちゃん」編、「同 夫婦」編も好評。特に「赤ちゃん」は、静止画かと見紛うほどにぐっすり寝ている赤ちゃんを長回しで撮る、という企画。つい、どんな展開が待つのかと期待してみてしまう。
一建設は、年間4万6000戸を超える住宅を供給する、飯田グループホールディングスの中核企業だ。建売住宅販売の先駆者とも言える企業で、パワービルダーと呼ばれる一社。1967年の創業だが、テレビCMを流し始めたのは2018年と、かなり最近になってからだ。
CMを担当する一建設 経営企画部の江角大樹部長は「従来、広告を一切打っていなかったのは、当社のビジネスの特色によるものです」と話す。では、なぜCMを流し始めたのか。ひとつには、市場環境の変化がある。
「マクロ的な変化として人口減は避けられない状況です。一方、建売住宅販売は参入障壁が低く、競合も増えてきています。その中で、不動産仲介会社の皆さまが、より当社の戸建てを販売しやすくするために、確固たる認知度が必要だと考えました」(江角氏)
一建設は、基本的に自社での販売をせず、ほとんどが仲介業者によって顧客の手に渡る。住宅の購入検討者は不動産仲介会社(=仲介業者)に赴き、ほかのデベロッパーの手による物件も含めて紹介を受け、立地や建物を見て気に入れば購入を進めるというのが、一般的な流れだ。
江角氏は「『契約を結ぶまで当社の物件であることを知らなかった』というケースは決して珍しくない」と話す。
「こうした中で、当社が広告をしていく目的は、お客さまと仲介業者の皆さまの共通認識を築くということです。一言で言えば、『こちら、あのCMでおなじみの』『ああ、あの会社ですね』という会話が成立するだけで、紹介のハードルはぐっと下がると考えています。住宅は高い買い物なので、CMを見てすぐ買う、というものではありませんが、認知度が高まるほど紹介はしやすくなる、という効果はあると見ています」(江角氏)
冒頭のような声が出てきているWebCMのほうも「よい反響を得られていると思います。ソーシャルメディアでも悪い評価は見当たらず、面白がっていただいたと考えています。企画もこの時短時代に合っていたのではないでしょうか」と江角氏は話す。
初めてのCM、しかし当初は止める側
市場環境と将来を見据え、テレビCMの出稿に踏み切った江角氏。メディアプランだけでなく、企画制作も一手に引き受けている。しかし、2018年、一建設が初めてテレビCMを流そうとしたとき、江角氏は半ば冷ややかに見ていたという。
「出向先から帰任した際、ちょうど社内でテレビCMを流したいという風潮が出ていました」と江角氏は振り返る。
「なぜそういう機運になっていたかというと、グループ会社がCMを打っていたから、というのが大きな理由でした。なので、あえて立場を言うなら、私は実は当初、否定派でした。ここまでのお話と逆行しますが、我々のビジネスにとって必要ないものだと考えていたからです。少なくとも、グループ会社が流しているから当社もCMを出稿するというのはおかしいはずです。とはいえ、やる方向で話は進んでいったので、であれば、何のためにCMを打つのか、目的をしっかり固めさせてくださいと言いました」(江角氏)
仮に上層部を説得する必要が生じたとしても、「まず担当者自身が納得できているかが最も重要だと思います」と江角氏。
「テレビCMも、あくまで事業成長のためのものなので、成長につながる道筋が見えていて、そこまでのいくつかある選択肢の中で、選ばれていくものの一つです。きちんと理路が整理されていれば、必ずしも否定されるものでもないかと思います」(江角氏)
CMは、2021年7月でいったん放送を止めることになる。原因は新型コロナウイルス感染症だ。先行きが見えない中、抑制的な舵取りが必要となったが、21年は逆に住宅業界は特需。供給量の関係から放送を控える経営判断が下された。
2022年に入り、今度は江角氏がCM再開の説得に回ることになる。
データの費用、どう捻出するか
CMを再び流す。「この説得は非常に難しかった」と江角氏は話す。後ろ盾となったのはデータだった。
「一度落ちた認知度を再び上げていくのは、それまでにかけたコスト以上を必要とするということを説明し、理解してもらいました。21年5月から7月までオンエアしたのが最後で、その後急激に認知度が落ちていたというのを危惧しました。当初から目的は、仲介業者の皆さまとお客さまをつなぐための認知度に据えていたのもよかったのだと思います」(江角氏)
2022年から再開するにしても、それまでに課題がなかったわけではない。たとえば、CMの評価指標。それから改案。より効果を出すための局選定や配分、作案、改案の判断基準が必要だった。
そこで白羽の矢が立ったのが、REVISIO(旧TVISION INSIGHTS)だ。同社の持つ「注視度」データに着目した。
注視度は、人体認識技術を搭載した機器をパネルの家庭に設置し、テレビ前にいる個人を特定。さらに画面に視線を向けていたかを測定して得るデータだ。REVISIOは、国内では関東エリア2000世帯、関西エリア600世帯で地上波、MX、BSの全番組の視聴データを取得している。最近ではコネクテッドTVの注視データも600世帯から得ている。
「REVISIOのデータを見るまでは、買付前の想定視聴率とアクチュアルの差だけで判別していました。それをもとに、改案依頼を出していましたが、アクチュアルだけでは、どこの枠に移動したらいいかがわかりません。依頼自体も正しいのか、より良い選択肢もあるのではないか、と最も悩んでいたポイントです。『注視度』は、実際にCMを見ていただけるかどうかに関わる重要な指標で、作案の判断、改案の依頼にあたっても強い根拠となっています」(江角氏)
ただ、データを得るだけ、というのでは予算が通りづらい。そこで、江角氏が個別にREVISIOに依頼したのが、CM枠のバイイングだった。元々予定していたローカル局からの買付をREVISIOの扱いとし、コミッションをそのままデータ費用として、関東エリアのデータを取得するというスキームだ。現在、REVISIOは、データトレードプランとして、一建設以外にも提供している。
「元々REVISIOの小坂(岳史)さんが広告会社の出身ということも後押しとなって、関東エリアでのメディアプランなども相談に乗っていただけているのもありがたいです」(江角氏)
CM企画の改善にも生かす
「注視度」データで、2019年〜21年までのCMを分析してみると、実はなかなか注視度が上がっていないこともわかった。
「ターゲットであるF1層に人気の俳優を起用しているのですが、引きのカットが続き、ファンからするとわかりづらい部分があったのかと思われます。なかなか視線が集まらないまま、14秒経過時点でアップが入ったところで注視度が上がります。もう少し早めにこのカットが入ってくると、より良かったのではないかと考えられます」(REVISIOの小坂氏)
小坂氏によると、注視度の理想的な推移は、右肩上がりになっていくというもの。ただ、それがかなり難しく、右肩上がりになるCMは全体の15%ほどだという。
「CMなので、だんだん気が削がれていくということが多いです。なので右肩下がりになっていく。そこで次善としては、見せたいカットの前に盛り上がりをつくって、当のカットで最大の注視度を獲得するということが重要になってきます」(小坂氏)
しかし、『いい人生にちょうどいい家を。赤ちゃん』編は、まさに理想的な波形を描いた。「撮影できたのは全くの偶然」と江角氏が話すCMで、撮影中にたまたまぐっすり寝ていた赤ちゃんを長回しで撮影していたことから得られた素材を活用している。単に寝ている姿だけだが、何が起きるのかわからないことから、つい引き込まれてしまう。赤ちゃん特有の、睡眠中に手足をピクピク動かす姿も愛らしく、間髪入れずに一建設のCIが入る。
「注視と認知に相関があることは証明できています。これまでは、1000GRP投下すれば認知度が10%上がるという不文律がありましたが、当然、見られていなければ認知はされません。どれくらい開きがあるかというと、注視度が同時間帯平均を超えるものと、そうでないものとで、1000GRPで6.6ポイントの差が出ます。注視率が認知とつながる中間指標となることも明らかです」(小坂氏)
江角氏はこうしたデータを制作会社にも共有している。
「目的は、仲介とお客さまの橋渡しになること。そのために、より注目を集められるCM企画を、REVISIOさんと制作会社、当社とで協力してつくっていければと思います」(江角氏)
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