こんにちは、電通のクリエーティブディレクター/PRディレクターの嶋野裕介です。
今回は以下の3つのトピックスを今年の特徴と捉えて、それぞれレポートをしています。本記事は第2弾「GAMING」についてです。
ちなみに、前回のレポートを後輩に見てもらったら「カンヌの陽気な文化祭感も伝わるといいですね」(注:「暗いですね」の暗喩)と感想をいただいたので、まずはビーチの写真をお届けします。文末に現地の様子も掲載していますので、ぜひご覧ください。
さて、ここからが今回のレポートです。
現地でも注目されていた「GAMING」
今年の2つ目の特徴と言えるものが、「GAMING」です。
2021年カンヌレポートでも書いたテーマであり、今回からEntertainment Lions for Gamingとして部門が新設されたことで注目していましたが、世界中でゲーム市場が成長し続ける中で、カンヌではさらに勢いを増していました。
現地のセミナーでも世界的な大ヒットビデオゲーム「Call of Duty」のゼネラルマネジャー Johanna Fariesさんによる「Call of Duty: From Game to Cultural Phenomenon」(満席で立ち見!)や、カンヌの事務局主催の「Power Up! Lions Intelligence on Gaming」が会期中3度も実施されるなど、ゲーム関連のテーマが多く、質も高まっていました。
新設された「Entertainment Lions for Gaming」は、「ゲーム大賞」などのようにゲーム自体の良しあしを評価するものではなく、ゲーミングを通じて、社会にインパクトを与えたり、効果的なコミュニケーションを行なったりした作品に与えられる賞です。ただし、この部門以外でもゲーミングが扱われた作品が多数受賞しています。
GAMINGの持つ多面的な魅力とは?
GAMINGは、なぜいまこんなにカンヌで注目されているんでしょうか。
それはGAMINGがもつ多様な側面が、広告業界のステークホルダーとうまく合致するからだと思います。3つの側面から受賞事例を紹介します。
(ちなみに「GAME」とはニュアンスが違い、ゲームや競技をする「行為」自体を指すようです)。
A. 話題の火種を生む”Earned”の場、としてのGAMING
Burger King「MISSION : WHOPPER」
(Social & Influencerシルバー、Directブロンズ)
シューティングゲーム「Call of Duty」の結果画面(スコアボード)をバーガーキングの広告にした事例。プレイヤーたちは6人1チームとなり、あらかじめユーザー名をワッパー(バーガー)の具材に関するニックネームに変更。上位から実際の商品と同じく「トップバンズ、サラダ、チーズ、ピクルス、グリルミート、リルバンズ」の順番でゲームを終えることがミッションで、それをSNSでシェアすると、チームメンバーの6枚分の無料クーポンをDMを通じて手に入れられる。「Call of Duty」のプロモーションとして始まったが、他のゲームにも横展開されていった。
この事例では、ゲームプラットフォームに、ユーザーたち自身で情報を発信したり交換できたりするアーンドメディアの効果を期待している点がユニーク。
B. 広告主としてのGAMING
Supercell/Clash of Clans「Clash from the Past」
(Entertainment for Gaming部門、Entertainment部門の2部門でグランプリ)
ビデオゲーム「Clash of Clans」の10周年キャンペーン。ブランドとユーザーの関係をもっと深めるために、あえて「偽の40周年」を祝う企画として実施した。「スーパーマリオ」シリーズや「ドンキーコング」などと同様に、時代を超えて愛される象徴的なゲームだと感じてもらうことが狙い。「Clash of Clans」を、80年代のアーケードゲーム風、90年代のレースゲーム風、2000年代のオープンワールドRPG風につくり替えたゲームも新たに用意し、ユーザーが遊べるようにした。さらに20分間のフェイクドキュメンタリー、フェイクCM、フェイクモーニングショー、フェイク映画なども制作。ゲームの世界を超えて、現実世界でも偽の40年の歴史を打ち出した。
日本の事例で近いのは、藤井亮さんがつくった展示品のほぼすべてが嘘だという展覧会「大嘘博物館 カプセルトイ2億年の歴史」かなと。いま思うと、そんな企画をほぼひとりで考えた彼は天才だと思います。
C. メディアとしてのGAME
BMO Canada「NXT LVL」
(Creative Commerce部門でゴールド)
カナダの銀行BMO(バンク・オブ・モントリオール)がZ世代と繋がるために、ゲームをプレイする様子を実況できるライブ配信サービス「Twitch」で公式アカウントを開設。ゲーム配信者を務めたのは、実際の職員でありガチゲーマーであるSean Frameさん。彼がGRS(ゲーミング・リレーションズ・スペシャリスト)としてゲーム実況をしながら銀行やお金についての相談に応え続けた。インフルエンサーが広告するのではなく、社員がインフルエンサーになって広告した動画がチャーミング。
このように、GAMINGには少なくとも3つの面があり、それゆえにさまざまな広告関係者が関与できる余地が広大に広がっています。
広告主はブランドと消費者との接点づくりとして今後ゲーム内にアカウントをつくることが増えていくでしょうし、メディアの人はゲーミング・メディアの使い方(売り方)を開発するのもいいですし、クリエイターやPRパーソンは話題をつくるフックに採用するのもいいかもしれません。
一時期話題になっていたメタバースは端末普及の問題で思った以上には需要が増えていませんが、一方でゲームはコロナ禍で「Nintendo Switch」などハードが購入数を伸ばしており、世界におけるゲーミングブームを加速させています。
ハードが普及すると、ソフトも増えていく。ゲーミングの拡大はもしかしたらこれからが本番かもしれません。ゲーム・コミュニケーションは日本ではこれから徐々に火がつくと思っているので、こういったお仕事があれば会社関係なくチームを組んで取り組んでいきたいところです。
▶次回の「GUT 現代最高のクリエーティブ・エージェンシー」に続きます。
カンヌライオンズ会場の様子
今年も会場の中にはたくさんの企業ブースやサンプリングコーナーが出展していて、それらを見て回るだけで1日は費やせます。
〈わたしのカンヌこぼれ話1〉
前回「カンヌ、大学説」の話を書いたのでもう1つ書くと、個人的には、カンヌでの過ごし方を見ればその人の「大学時代の過ごし方」がわかる気がします。
・授業やゼミ(セミナーやセッション)と遊び(バカンス)の両立をはかる人。
・友人やサークルでの時間を大切にしてネットワークづくりをする人。
・集団で学びあう人(現地勉強会やインサイドジュリーに参加)。
・個人で研究する人(モニター中心)。
・バイト(日本での仕事。むしろ本業)が忙しく、授業(会場)に滅多に来れない人。
・カンヌにとどまらず、さらに広く世界を見ようとする人(観光)
・いろんなビーチ((ネットワーキングエリア))やパーティを“はしご”して夜をエンジョイする人
などなど……。
以上、「カンヌ生活、大学生活と同じ」説でした。
嶋野裕介
クリエーティブ・ディレクター/PR ディレクター
電通 zero局所属。マーケ、営業を経てクリエーティブへ。主な仕事に「BOSS×ゴジラシリーズ」「BOSS×ウマ娘」「飲むゲーセン・ストロングファイター」「#金曜日の新垣さん」「3cm market」「ぷよりんご」など。2023年4月に『なぜウチよりあの店が、知られているのか?』を宣伝会議社より出版(尾上永晃氏と共著)。好きな漫画は『ワールドトリガー』『暗号学園のいろは』など。