※本記事は6月30日発売の月刊『宣伝会議』8月号の転載記事です。
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“知らない人”の再生産に危機感を持った
日本最大手の鉄鋼メーカーである日本製鉄。同社の広報を担当する菊池佳代氏は「宣伝会議賞」への課題協賛の背景として、「まずは『鉄』という素材の魅力を知ってほしいと考えた」と話す。
2012年に新日本製鉄と住友金属工業が経営統合し「新日鉄住金」という社名になり、その後2019年に「日本製鉄」へと社名を変更した同社。「BtoB企業ではあるものの、生活者の方々に向けた広告コミュニケーションの重要性について検討してきました」と菊池氏は振り返る。
「2012年の統合当時、当社の事業内容や鉄鋼産業そのものへの認知度が低下しつつあること、また一定の年齢以上の方からは『新日鉄』や「住友金属」という旧社名の方が馴染み深いといった課題を認識していました。事業を続けていく中で、これからを担う若い人たちへのアプローチなしには、“日本製鉄のことを知らない人”が再生産されていく一方だと危機感を持ったのです」(菊池氏)。
そこで2017年、公式YouTubeチャンネル、公式Twitterアカウントを開設し、若年層を意識したSNSを通じた広報活動を開始。2019年の社名変更のタイミングでは、テレビCMと新聞広告、SNS広告を実施。2023年1月からは、車内ビジョンやTVerにてカーボンニュートラルの取り組みに関するCMを放映した。
「これらは社名認知の拡大、リクルーティングやインナーコミュニケーションの点でも一定の効果が見られました。やればやるだけメリットを感じていくなかで、社名認知の次のステップとして議論したのが、実際に鉄のことを知ってもらえるアクションに通じる施策の実施でした」と菊池氏。それが「宣伝会議賞」への協賛だった。
募集課題は「鉄を知ることで、日本製鉄の魅力を知ることができるアイデア」だ。
「社名の認知を高めたいのはもちろんですが、そもそも鉄という素材の魅力を知ってほしいという思いがありました。私たちの身の回りは、『鉄』でできたものであふれていますが、それだけにかえって深く考える機会は少ないのではないでしょうか。変幻自在で可能性のある鉄そのものに興味を持っていただくことで、鉄鋼産業や日本製鉄のことを知ってもらいたいと考えました」(菊池氏)。
毎日鉄と向き合っている社員の心が動かされた言葉
同社の協賛企業賞を受賞したのは、高山菜野さんの作品『こんなに柔軟な、堅物はあるか。』。
社内選考は、広報業務に携わる13名で検討を重ねた。「選考を重ねるなかでも上位に残っていく作品は、広告コピーとしての素晴らしさもさることながら、毎日鉄と向き合っている私たちの心が動かされた言葉でした」と菊池氏は話す。
「深く調べないとわからないような鉄の特徴を基にしたコピーも多く、『ここまで考えてくれたんだ』という喜びや新しい発見がありました。また、こんなにもシンプルな言葉に置き換えられるのだと驚きました」(菊池氏)。
また菊池氏は、3月に実施された贈賞式の際、中高生部門の参加者にも、応募の理由や取り組んだ感想を聞いたそうだ。
「コピーライターを目指しているわけではなく、たまたま授業で考えてみて面白かった、この募集をきっかけに、企業やサービス等について深く調べてキャッチコピーにする楽しさに気づいた、という話が興味深かったです。そうして応募者の裾野がさらに広がることで、私共としても、より多くの皆さんから、私たちがまだ気がついていない「鉄」の魅力にも触れられる幅広い作品が生まれることを期待しています」(菊池氏)。
「企業の人が誇りに思えるような言葉をつくりたい」と思った
「こんなに柔軟な、堅物はあるか。」という言葉が生まれた背景について、受賞者の高山菜野さんにも話を聞いた。
―「宣伝会議賞」応募のきっかけを教えてください。
メーカーに勤めているのですが、社内で宣伝関連の業務がしたく、将来の仕事に生かせたらと思い、2020 年に宣伝会議の「コピーライター養成講座」に通い始めました。
通うにつれて、純粋にコピーや広告をどんどん好きになりましたし、同級生からも強く影響を受けました。何か結果を残している人や、キャリアを変えてる人は、講座に通うだけでなく、とにかく書き続けているだということを実感し、2020年から宣伝会議賞に参加しました。これまで結果は振るわなかったのですが、「1000本書けば1本くらい、いいのがあるから」と講師の方に背中を押され、今年は1111本の作品を応募しました
―日本製鉄の課題にはどのように取り組みましたか。
身近な商品の課題や、商品・企業を調べたときに新鮮な発見がある課題を中心に取り組んでいました。その中で、「鉄」については深く考えたことがなく、Webサイトなどを見ていると多くの発見がありました。
提出コピーをまとめていたExcelを見返すと、比較的早い段階で「柔軟」というキーワードには行きついていました。80本近く考えていったなかで、改めて課題とオリエンを見返したときに『企業の魅力を知ることができる』とあって。それなら、企業で働く人自身が、誇りに思えるようなたたずまいの言葉にしたい、と。そうして生まれたのが今回のコピーで、私の中では珍しい言葉遣いでした。
―改めて、受賞されたお気持ちをお聞かせください。
ずっと応援してくださってた講座の講師の方や同期に良い報告ができ嬉しかったです。
3月までは営業にいたのですが、実は今年の4月から宣伝部門に異動しました。自身でコピーを書くわけではありませんが、仕事にもこの経験を生かしていけたらと思っています。