イベントDXの要点
新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、街には人出が戻ってきたようだ。それに呼応するように、オフライン(リアル)開催イベントも増えてきた。しかし、イベントDX(デジタルトランスフォーメーション)を手がけるスプラシアの中島優太社長は、「実感と相反するかもしれないが、イベント集客にかかる労力は増大している。街にあふれているように人が集まるかというとそうではない感触を持つ主催社は少なくないのではないでしょうか」と指摘する。完全に昔に戻るのではなく、ここ2〜3年で隆盛したオンラインイベントとの同時開催など、コロナ禍後の新たなイベントの姿が求められている。
イベントは、販促やプロモーション、顧客とのリレーション構築、ブランディングなど、さまざまな目的で活用されてきた。消費者向けのみではなく、法人向けでも有効な手段である。名刺管理ツールなどを手掛けるSansanの調査によると、BtoBマーケティングの施策上位10項目のうち、トップは「展示会への出展」で42.0%。2位のWeb広告に次いで、「オフラインセミナー開催」が3位の30.8%、「ウェビナー(オンラインセミナー)開催」が4位の28.3%だった。
一方、イベント開催を迎えるまでには複数の部門や担当者の準備工程が必要で、オンライン、オフラインのハイブリッド開催となるとさらに複雑化する。ハイブリッドの効果は理解していても、開催までの困難をハードルに感じている企業も少なくないはずだ。
「だからこそ、イベントにはDXが必要。消費者、法人を問わず、イベントが次のステージに進むためにはDXが不可欠です」と中島氏は話す。同氏が挙げる、イベントDXの要点は次のとおりだ。
- (1)参加者満足度の向上←イベントの体験価値をデジタルで高める
- (2)イベント成果の継続的な進化←データに基づいた意思決定で最適化する
- (3)イベント開催の効率化・自動化←イベント準備工程をデジタルで軽減する
イベント満足度は購買意欲に直結する
「ビジネスイベントに参加する方の多くは、情報収集が目的です。当社のアンケート調査では、オンラインイベントの参加目的として、『業務に役立つノウハウや事例を知るため』と回答した方がほぼ100%でした。では、その情報収集において、イベントがほかのメディアより優れているのは何か。それは、接触時間の長さ、文脈を伝えること、熱量を伝えること、です。デジタルの優位性を生かすのであれば、参加者が求めている情報を的確に便利に提供し、パーソナライズな体験をつくりだすこと。参加者の目的に対して、適切に応え期待値を超えられるか、が満足度におけるイベントDXのカギとなります」(中島氏)
イベントにおける「情報収集」体験は、単にまとまったコンテンツを届け、そこから各自発見や学びを得て……というものではない。
「リアルイベントであれば、会場までの道中、会場において五感を刺激されること、そういったこともまとめて体験になります。オンラインであっても、当日、講演をただ視聴するのではなく、当日までの気分を高めるようなコンテンツが用意されていたり、事前もしくは講演中に投げかけた質問に対して、納得のいく質問が得られたり、ということも体験です」(同)
参加者側からすれば、満足度を下げる要因は、期待していたより収穫できた情報が少なかったということ。さらに、参加してみないとわからないという不確実性が加わる。結果として、時間とコストを無駄に使ったという記憶が残ってしまうことだ。そうした期待と収穫のギャップを埋めることも、テクノロジーを駆使して実現しなければならないことだ。
継続的に成果を高める
参加目的のほとんどが「情報収集」であることは、もうひとつの示唆をもたらす。それは、イベント直後には購買意欲が低かったとしても、継続的なアプローチで意向を高める余地があるということだ。となると、イベントではどのような行動を取ったのか、どのような情報を得ていたのか、という参加者ベースの記録が必要となる。そして、ハイブリッド開催であれば、オンライン会場、オフライン会場双方でログを残すのはもちろんのこと、統合的に扱うことも欠かせない。
そうして得たデータに基づいて、まずは眼前のイベントの成果を高めるべく、マーケティングオートメーションツールに連結し、フォローをするのが第一手だ。しかしその際、参加の有無があった等の解像度の低いフラグだけだと、実際その参加者が望んでいた情報を提供できるかどうかは危うい。
「オンラインであれば、誰がどのセッションに参加したか。視聴時間は何分で全体の何割か…などさまざまなログが取れます。ただ、オフライン側のログが取れているかというと、ほとんど取れていないと思います。まずは、双方のログを横断的に取得することが最初の段階です。ビジネスイベントの特性として、毎年定期的に開催することがマーケティングプランを組み立てる軸となり、定期開催することでイベントのブランド力が高まります。つまり、イベントデータは単一のイベントだけを見るのではなく、複数のイベントを横断的に見ていくことが成果向上に必要になっていきます」(中島氏)
こうしたデータを蓄積していくことで、次の開催時、その次の開催時と、資産が積み上がっていく。提供できるイベントの質を高め、より成果に結びつきやすくなっていくのだ。
属人化、煩雑さの解消
イベントは、数あるコミュニケーション手段のひとつであり、マーケティング計画の中の“点”のひとつではある。しかしながら、その“点”に対し、かかる準備時間は外側から見るより多く、複雑だ。企業の中で、イベント担当者が決まっていると、ノウハウのかなりの部分がその担当者に紐づき、いわゆる属人性が高くなってしまう。そうすると、担当者が変わったり、あるいはイベント会社が変わったりするたびに、ノウハウが失われてしまうこともしばしばだ。
自社だけで開催するイベントだけではなく、たとえばゲストがいたり、あるいは自社主催で複数企業と合同で開催したり、と他社と協働することも少なくない。こうした事務局作業だけでなく、イベント当日の運営、集客、制作……とさまざまな領域を専門性高く回していくプロデューサーの手腕によっても成果は変わる。
「実際にある話として、いまだにFAXで講演者、出展者とやり取りしていたり、Webサイトでイベント情報を掲載するにしても、都度手入力で更新していたりと、そのほかのメディアに比べ、イベント業務はまだまだ効率化の余地が多く残されています。発展的に考えるなら、先ほど述べた情報収集ニーズに応える上で、講演データをそのままテキスト化するなどしてコンテンツのマルチユースも考えられるわけですが、そこまで手が回せない、ということも多いのではないでしょうか」(中島氏)
スプラシアが提供するイベント業務のプロダクトは、「イベントにまつわる業務で、スポットで手をかけなければならない点をできるかぎりなくし、管理画面で一元的に提供できるようにしています。現場の苦労を体感してきたからこそ、デジタルの力で省力化を実現させたい」(中島氏)。
イベントで得られるデータ、ノウハウ
「イベントで得られるデータ、ノウハウ、知見を主催社の資産とすること。単発の業務ではなく、次に生かすこと。主催担当者が企画や戦略に注力し、最大の成果を残せるようにすることが目的です」(中島氏)
こうしてイベントでデジタルトランスフォーメーションを起こすべき理由は、もうひとつある。ここ半年あまりで一気に加速した、AI技術の活用だ。半ば夢物語のようだったAIを他社よりいち早く活用する、というレースが激化している。
「イベントはほかのタッチポイントと比べ、接触時間も長く、取得できる行動データも多岐にわたります。得られたデータをAIで分析したり、その結果をもとに、企画の枠組みを提案させたり、クリエイティブを自動生成させたり、あるいはそのほかのツールとの連携を高め、本当の意味でのマーケティング施策の欠かせない歯車として活用する、というのは現実の話となっています。特に、CRMとの連携は不可欠でしょう。当社でもデータを軸に、ここまで述べた参加者の満足度向上、効率化・自動化、企画や集客を含めた成果の最大化、というサイクルを、イベントで得られるデータを基に発展させていくべく、開発を進めているところです」(スプラシア取締役ソフトウエアエンジニアリング ディビジョン長の安部健太氏)
2020年、21年と、半ば強制的な側面もあって、急拡大したオンラインイベント。リアルイベントが復調しつつあるいま、オンラインイベントを過去のものとして捉えるか、それとも、リアルイベントと真の意味で統合した、ハイブリッドイベントへと進化させるか。今後さらに進むであろうAI技術が、より多くの企業で活用できるようになったとき、どれほどイベントに違いを生み出すことができるか。イベントにおけるDXを達成できるかどうかの分かれ目に差し掛かっている。
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