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結果を出すクリエイターは勝つ技術を身につけている
今回と次回のテーマは、勝てる「クリエイター」になる。どんなに良いコピーを書いたって、世に出なければ意味がない。どんなに面白い企画を考えたって、それだけじゃ採用されない。「アイデアの良し悪し」と「勝敗」が必ずしも直結しないことは、クリエイターの皆さんが一番肌で感じていることでしょう。
「コピー術」や「企画術」の習得には、労を厭わず取り組む人も多い一方で、ビジネスパーソンとしての「仕事術」を身に付けようと努力するクリエイターは少なく感じます。しかし私自身、これまでたくさんのクリエイターとお付き合いしてきましたが、結果を残し続ける優秀なクリエイティブ・ディレクターほど、実は地味で泥臭い「仕事術=勝つ技術」が身体に染み付いていると思います。
では、通常業務以上に時間も情報もない競合プレゼン業務の中で、どうすれば勝率の高いアイデアを安定的に生み出し、結果として採用を勝ち取れるのでしょうか?クライアント、社内の仲間たち、そして自分との向き合い方をお伝えします。
貴重な情報を引き出す質問例
勝てるクリエイターは間違いなく「質問力」が高い。これは私の経験上、断言しても良いと思います。競合プレゼンに限った話ではありませんが、クライアントと会える貴重な機会を最大限に活用する意識が高いのだと思います。
ジャンプできるアイデアを考えるためには、その土台となる精度の高い情報が必要だと、経験的に理解しているのでしょう。クリエイターこそクライアントを質問攻めにする姿勢が大事です。特に、クライアントとのファーストコンタクトである「オリエン」の場で繰り出す質問が最も重要です。
代表的な質問例を挙げてみます。「仮に予算の制限がなかったとしたら?」という質問で、相手が理想とする提案像を引き出すことができます。また、やや抽象的なオリエンだったら「具体的には?」「例えば?」「なぜですか?」という質問で、どんどん具体化し、意図を掘り下げていきます。
「他に気になっている点はありますか?」「個人的な意見で構いませんので……」という質問で、オリエンシート化されなかった、現場の不安や意見を聞き出すこともできます。「一番議論に時間をかけたのはどこですか?」「意見が分かれたところはありますか?」「強いて優先順位をつけるとしたらどれが最も重要ですか?」これらの質問で、オリエン内の重要ポイントをあぶり出すことができます。
質問を繰り返すことで、相手の思考が整理されることもよくある話です。聞けるときにしつこく粘り強く聞く姿勢も、実は評価ポイント。通常業務以上に時間も情報も少ない競合プレゼンだからこそ、クライアントの真意を引き出す質問力がシビアに問われるのです。
時間がないからこそアイデアは温めない
時間のない競合プレゼン業務では常にスピードが重視されますが、「アイデア出し」においても考え方は同じです。「アイデアは温めずに出す」「生煮えでいいから出す」という態度が求められます。
もしかしたら、クリエイターの皆さんには受け入れ難い考え方かもしれません。「アイデアは自分のもの」「アイデアは容易に他人に潰される」「だからアイデアはギリギリまで温めた方が良い」と考えている人も多いでしょう。しかし競合プレゼンでは、これは負けにつながる思考法です。
アイデアは温めない。生煮えでもいいからクイックに出す。そうすることで、チームの厳しくも温かい視線に晒される。だから、改善のヒントが早々に得られる。結果、最も高いレベルまで時間内にたどり着ける。
初回に出すアイデア自体の精度はさほど重要ではありません。アイデアとは仮説です。時間がないからこそ「仮説→検証→修正」のサイクルをいかに早く回せるかの方が重要なのです。これはある意味では、チームの信頼関係がベースにないと成立しない業務の進め方かもしれません。
時間がないからこそ己の中のバイアスを自覚する
アイデアの軌道修正をする際、その決断を阻害するものとして「サンクコストバイアス」に注意が必要です。「サンクコスト(埋没費用)」とは、既に発生しており、将来的に回収できる見込みのないコストのこと。そして、サンクコストに気を取られ、合理的な判断ができなくなる心理傾向のことを「サンクコストバイアス」と呼びます。
わかりやすくいえば「今やめるのはもったいない」心理のことです。投資したお金が惜しくて、下がっている株の損切りができない。つまらないコラムでも、ここまで読んだから全部読まないといけない気がしてしまう(笑)。例を挙げればキリがありません。アイデアの軌道修正をする際に、このサンクコストの存在は百害あって一利なしです。
競合プレゼンでは、勝てるかどうかがすべて。どれだけ時間と労力をかけて考えてきたアイデアであっても、その採用確率が低いと判断したのならば、手放さないといけません。サンクコストバイアスによって誤った判断をしないためには、既に費やした費用や時間をもったいないと思わず「過ぎた過去」だと割り切ることが大切です。
時間がないからこそ、勝率の低い方向性にいつまでもしがみつくのではなく、さっさと見切りをつけて、勝つ可能性のある方向に少しでも進むべきなのです。
次回はクリエイター編の後編です。提案内容がプレゼン前に「ネタバレ」してもいいのか? などについて考えていきます。
(7月20日掲載)
クリエイターも「勝つ技術」を身につける
広告業界やコンサルティング、ITなどのビジネス現場で行われている「競合プレゼン」「コンペ」「ピッチ」に勝ち抜く100のメソッドを体系立ててまとめた一冊です。ライバルに勝つためのポイントについて、提案の中身やプレゼンテーション技術ではなく、勝つ「環境を整える」点に着目。競合プレゼンが始まる前の「兆し」から始まり、オリエン、キックオフミーティング、ストーリーづくり、軌道修正、プレゼン当日、事後までのフェーズごとに、行うべきこと、注意すべきことを丁寧に解説しています。
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